hugme 蛍光ピンクの蝶

 私には七十三人のお父さんと八十一人のお母さんがいる。

  三枚のモニターにずらっと大人の顔が並んでいる。みんな笑顔で、それでいてわたしを物色するような視線でこちらを見つめている。今朝は百二十人の「両親」が、朝の挨拶に来てくれていた。

「お父さん、お母さん。おはようございます」

  笑顔を作り挨拶すると、「両親」たちも笑顔で反応を返してくれる。

「昨日は社会の宿題が終わらず、寝るのが遅くなってしまいました。今日は体育もあるので、怪我をしないように頑張ります」

  ウェブカメラに向かって笑顔を作る。「両親」たちは私の一挙手一投足を見逃すまいと必死だ。私の健やかな成長は、彼らにとって死活問題なのだ。

「それでは、行ってきます」

  hugme(ハグミー)の会議画面から退室すると、途端に三枚のモニターから動きが消え去る。誰も映らない真っ暗な待機画面に、私の顔がぼんやりと映り込む。ウェブカメラ越しに見せていた私よりも、なんだか胡乱な顔だ。立ち上がろうとしたとき、ぽんっとメッセージの着信音が響く。片目でちらりと見ると、「お母さん」の一人からだった。
  通知に表示されるメッセージの冒頭だけで、げんなりする。

「目の下に隈がありますね。本当にレポートをしていただけですか? 心配です。あなたに何かあると私たちも困るんですよ」

  返信は、帰宅してからでいいだろう。

  見なかったことにして立ち上がり、産みの両親に「行ってきます」と声をかけて玄関に向かう。

「ミユリちゃん」

  産みの母が、心配そうな顔で玄関までやってくる。

「その、……行ってらっしゃい」

  何か言いたいことがあるのに、言葉を隠している。彼女はいつもそうだ。「はい」とだけ答え、家を出た。