碧華宮と書庫は皇城内では比較的近いところに位置するはずだが、今はその道のりがやけに遠く感じた。
そしてようやく碧華宮に戻ると、凌空と泰然を含めて話を始めることになった。
「4人の殺害方法が分かったって本当ですか?」
「ええ。たぶん」
由羅は頷いた後、3人の顔を一人一人見渡しながら話を切り出した。
「今回の殺害方法はたぶん合食禁を使ったのだと思います」
「合食禁、ですか? 初めて聞きますが」
聞き慣れない言葉に凌空をはじめとして全員が首を傾げた。
そこで、由羅は先ほど伯瑜に説明された内容を伝えた。
「一つ一つ食べる分には問題ないのですが、一緒に食べると体に不調をきたす食べ方の組み合わせです。例えば蟹と柿、鮫と梅干、蛸と蕨なんかがあるらしいです」
「なるほど。確かに蟹も柿も単体で食べる分には問題ありませんね。しかし、合食禁が今回の事件とどう繋がるのですか?」
凌空の疑問はもっともだ。
合食禁は食べ物の組み合わせが原因だ。
だが事件において不審な食べ物の話は出ていないので、一見すると無関係に思えるのも当然だ。
「今回の事件では、被害者は紅玉薬を飲んで亡くなっています。ですが、紅玉薬には毒性はなく、他に飲んでいる人にも特に体に異常は出ていないですね。ならば、何か食べ合わせの悪いものを口にしたのではないかと考えたのです」
「紅玉薬単体では問題がないが、他の物と一緒に摂取したために死亡した、ということですか?」
「はい」
由羅が頷いてそう答えるが、話を聞いていた泰然は眉間に皴を寄せ、首を傾げて尋ねた。
「でもよー。被害者は皆、死んだときには紅玉薬しか口にしてねーよ」
凌空も同じ疑問を持っているようで、由羅の答えを待っている。
「確かに、死亡時には紅玉薬しか口にしていません。ですがよく考えてみてください。紅玉薬の他に、4人が共通して摂取している食べ物を……」
由羅の言葉に考え込んでいた紫釉が何かに気づいたようにハッとした。
「柚子か?」
「はい。あの紅玉薬の正体はキニーネという薬で、テフェビアでは解熱剤として使用されている薬です。原料となるキナの木はテフェビアにしか生息していない上、生成法も特殊なので、テフェビアでしか製造されていません」
説明を聞いていた紫釉が、ふと何かに気づいた様子で由羅に尋ねた。
「ねぇ由羅。ちょっと聞きたいんだけど、由羅はどうやって紅玉薬がキニーネだと分かったの?」
「え? ちょっと舐めてみたら、以前飲んだキニーネと同じ味だったんです」
紫釉の疑問に由羅が答えると、瞬間3人の顔色が真っ青になった。
そして泰然が卓から身を乗り出して由羅に詰め寄ると、早口で捲し立てた。
「舐めてみたらって、お前、中身が何かも分からないのに、舐めたのか? 死んだらどうするんだよ! 危険だろ!?」
「まぁ、ちょっと不安でしたけど。でも私、仕事柄ある程度毒に耐性を持っているんです。だから舐める程度なら大丈夫かなぁと」
その言葉に3人は眉をひそめた。
「お前なぁ……危なすぎるだろ」
「そこは私も同意見です。無茶しすぎです」
「由羅、あとでお仕置きするから覚悟しておいてね」
泰然と凌空からは心配と抑えた怒りが伝わってくる。
一方、紫釉は何故か口元に微笑みを湛えているが、目には剣呑な光が宿っていて、由羅は思わず「ひゅっ」と息を呑んだ。
お仕置きとは何をされるのか、静かに怒る紫釉の表情から、想像するのも恐ろしい。
由羅はそのことを頭の隅に追いやって、気を取り直して説明を続けることにした。
「ええと、その話は置いておいて、話を続けましょう。それで、私はキニーネとの合食禁は柚子ではないかと思って、伯瑜様の所にあった医学書で確認してみました。そこには私の予想通り、キニーネには一部の柑橘類との合食禁があると書いてありました」
キニーネと柑橘類を一緒に摂取すると、体内のキニーネの濃度が上がり、キニーネの持つ解熱効果が強まって、体に不調をきたすのだ。
その結果、頭痛、めまい、吐き気、そして呼吸困難といったいわゆるキニーネ中毒を引き起こす。
由羅がそう説明すると、凌空は納得した表情を見せた。
「どれも被害者の死亡時の症状と一致しますね」
「でも由羅の話だと、合食禁なら2つの食べ物を一緒に食べなくてはならないよね。だけど、報告によると彼女たちは柚子を食べたあと、少なくとも数時間おいて紅玉薬を飲んでいるね。しかも、姜 瑤琴に至っては柚子を食べたのは紅玉薬を飲む2日前。食べ合わせの問題とは言い切れないんじゃないかな?」
紫釉の疑問に由羅は伯瑜の元で読んだ医学書の内容を思い出して答えた。
「確かに、普通の合食禁であれば同時に摂取することで体調不良を引き起こします。ですが、今回の場合は普通の食べ物ではなくキニーネという薬品になるので、普通の合食禁とは少し反応が違うようなのです。さっき話したように、柑橘類の成分がキニーネの成分を体内で分解しにくくします。そのため血中のキニーネの濃度を上げるのですが、キニーネの分解を阻害する成分はどうやら、摂取後に2、3日ほど体内に残るようなのです」
「つまり、瑤琴のように2日前に柚子を食べても、体に異常をきたすということだね」
「はい」
答えた後、次に凌空が疑問を呈した。
「私も質問してもいいでしょうか? この時期、柚子などいくらでも手に入ります。他にも柚子と紅玉薬を一緒に服用した人間がいてもおかしくないですよね。どうして彼女たちだけが死亡したのでしょうか? 偶然4人だけが死んだ、というのは出来すぎでは?」
そう、それこそがこの事件をより複雑にした要因であり、もう一つの仕掛けでもあるのだ。
「それは彼女たちが食べたのが普通の柚子ではないからです。覚えていますか? 今回4人が食べた柚子は、“見たことの無い柚子”“柚子と言っても外国の果実”“正確には柚子ではない”という証言がありました。つまり、4人が食べた柚子は柚子に似た果物です」
「そのような果実を私は知りませんが……」
「凌空様は、樹璃様の侍女が言っていた柚子の特徴を覚えていますか?」
「確か、『柚子より大きくて、色も黄色かった。文旦に似た形だった』と言っていましたね」
「はい、実はこれらの証言から浮かび上がってくる柚子があるんです。名前を葡萄柚……現地の言葉ではグレープフルーツと言います」
由羅は、以前伯瑜とお茶をしたとき葡萄柚の甘煮をご馳走になった。
その時の伯瑜の説明では、葡萄柚は文旦の一種で、南の国で採れる柚子だという。
今回の柚子の特徴は伯瑜が言っていたものと一致する。
だから彼女たちが食した柚子は葡萄柚だと考えられる。
「そして柚子にはキニーネの分解を阻害する成分はほとんどないのです。だからこの国で一般的に売られている柚子を食べてから紅玉薬を飲んでも死亡することはありません。それが、4人だけが毒性のないはずの紅玉薬を飲んで死亡した仕掛けだと思います」
「では葡萄柚と紅玉薬を持ち込んだ鄭 梓琳が、この殺人に関わっているのは確実なようですね」
そうなのだ。
この葡萄柚は紅玉薬と一緒に鄭 梓琳が土産として持ってきたことが分かっている。
重要参考人として名前が挙がっていた梓琳は、この事件に重要な役割を果たしていると断言できるだろう。
話を聞いていた紫釉が、泰然に向き直って尋ねた。
「梓琳が接触している人間は分かった?」
「梓琳は屋敷での仕事が中心で、外出はほとんどしない。出ても買い物程度で、特定の誰かと会うということはなかった。ただ魯家には何人かの商人が出入りしていたな」
「ということは、魯家の中で葡萄柚と紅玉薬の受け渡しをしているという可能性が高いね」
「なるほどな。じゃあ、魯家の中で商人が持ち込んでいるってことか」
「俺もそう思う。……ねえ由羅。さっきの話だと、紅玉薬……キニーネだったかな? あれはテフェビア王国でしか扱いがないんだったね」
紫釉の問いに由羅は頷きながら答えた。
「はい。ですから、もし乾泰国に持ち込まれるとしたらテフェビア王国の商品を扱う商人でしょう。泰然様、テフェビア王国から来た商人がいたか分かりますか?」
「えっ、とちょっと待ってくれ」
そう言って泰然は書類を取り出し、そこに列挙されている名前を上から確認していった。
そして書類を上から下へとなぞる手が、ピタリと止まった。
「ジャタイというテフェビア王国の商人がいる」
「じゃあ、ジャタイが紅玉薬を持ち込んだということだね。葡萄柚もジャタイが持ち込んでいると思うかい?」
紫釉が由羅に尋ねたので、由羅は考えながら答えた。
「はっきりとは言えません。葡萄柚はテフェビア王国にはない果物ですから。でもジャタイが他の国からテフェビア王国経由で乾泰国に持ち込んでいる……とも考えられますね」
「まぁ、持ち込む経路はどうであれ、結論としては葡萄柚と紅玉薬を注文している人間が黒幕だな」
梓琳には妃候補4人を殺す動機が見当たらない。
そのため、梓琳に命じて葡萄柚と紅玉薬を持って行かせた人物が犯人だと由羅たちは考えた。
次に凌空が口を開いた。
「明日、梓琳と接触するとの連絡が樹璃からありました」
先日楊家に行った際、樹璃が梓琳と会って、どうやって紅玉薬を入手しているのかを梓琳から聞き出すこととなっていた。
それに由羅も同席することになっていた。
だが、そのことに紫釉は反対のようで、一瞬渋い表情を見せた。
「由羅を危険な目に遭わせたくないな。だけど、由羅は行きたいんだよね?」
「はい」
「くれぐれも無茶はしないで」
「分かりました」
こうして、事件は大きな進展を遂げることになった。
あともう少しで犯人に辿り着く。
そして被害者たちの無念を晴らせる。
事件解決が目前であることを、由羅は確信するのだった。
そしてようやく碧華宮に戻ると、凌空と泰然を含めて話を始めることになった。
「4人の殺害方法が分かったって本当ですか?」
「ええ。たぶん」
由羅は頷いた後、3人の顔を一人一人見渡しながら話を切り出した。
「今回の殺害方法はたぶん合食禁を使ったのだと思います」
「合食禁、ですか? 初めて聞きますが」
聞き慣れない言葉に凌空をはじめとして全員が首を傾げた。
そこで、由羅は先ほど伯瑜に説明された内容を伝えた。
「一つ一つ食べる分には問題ないのですが、一緒に食べると体に不調をきたす食べ方の組み合わせです。例えば蟹と柿、鮫と梅干、蛸と蕨なんかがあるらしいです」
「なるほど。確かに蟹も柿も単体で食べる分には問題ありませんね。しかし、合食禁が今回の事件とどう繋がるのですか?」
凌空の疑問はもっともだ。
合食禁は食べ物の組み合わせが原因だ。
だが事件において不審な食べ物の話は出ていないので、一見すると無関係に思えるのも当然だ。
「今回の事件では、被害者は紅玉薬を飲んで亡くなっています。ですが、紅玉薬には毒性はなく、他に飲んでいる人にも特に体に異常は出ていないですね。ならば、何か食べ合わせの悪いものを口にしたのではないかと考えたのです」
「紅玉薬単体では問題がないが、他の物と一緒に摂取したために死亡した、ということですか?」
「はい」
由羅が頷いてそう答えるが、話を聞いていた泰然は眉間に皴を寄せ、首を傾げて尋ねた。
「でもよー。被害者は皆、死んだときには紅玉薬しか口にしてねーよ」
凌空も同じ疑問を持っているようで、由羅の答えを待っている。
「確かに、死亡時には紅玉薬しか口にしていません。ですがよく考えてみてください。紅玉薬の他に、4人が共通して摂取している食べ物を……」
由羅の言葉に考え込んでいた紫釉が何かに気づいたようにハッとした。
「柚子か?」
「はい。あの紅玉薬の正体はキニーネという薬で、テフェビアでは解熱剤として使用されている薬です。原料となるキナの木はテフェビアにしか生息していない上、生成法も特殊なので、テフェビアでしか製造されていません」
説明を聞いていた紫釉が、ふと何かに気づいた様子で由羅に尋ねた。
「ねぇ由羅。ちょっと聞きたいんだけど、由羅はどうやって紅玉薬がキニーネだと分かったの?」
「え? ちょっと舐めてみたら、以前飲んだキニーネと同じ味だったんです」
紫釉の疑問に由羅が答えると、瞬間3人の顔色が真っ青になった。
そして泰然が卓から身を乗り出して由羅に詰め寄ると、早口で捲し立てた。
「舐めてみたらって、お前、中身が何かも分からないのに、舐めたのか? 死んだらどうするんだよ! 危険だろ!?」
「まぁ、ちょっと不安でしたけど。でも私、仕事柄ある程度毒に耐性を持っているんです。だから舐める程度なら大丈夫かなぁと」
その言葉に3人は眉をひそめた。
「お前なぁ……危なすぎるだろ」
「そこは私も同意見です。無茶しすぎです」
「由羅、あとでお仕置きするから覚悟しておいてね」
泰然と凌空からは心配と抑えた怒りが伝わってくる。
一方、紫釉は何故か口元に微笑みを湛えているが、目には剣呑な光が宿っていて、由羅は思わず「ひゅっ」と息を呑んだ。
お仕置きとは何をされるのか、静かに怒る紫釉の表情から、想像するのも恐ろしい。
由羅はそのことを頭の隅に追いやって、気を取り直して説明を続けることにした。
「ええと、その話は置いておいて、話を続けましょう。それで、私はキニーネとの合食禁は柚子ではないかと思って、伯瑜様の所にあった医学書で確認してみました。そこには私の予想通り、キニーネには一部の柑橘類との合食禁があると書いてありました」
キニーネと柑橘類を一緒に摂取すると、体内のキニーネの濃度が上がり、キニーネの持つ解熱効果が強まって、体に不調をきたすのだ。
その結果、頭痛、めまい、吐き気、そして呼吸困難といったいわゆるキニーネ中毒を引き起こす。
由羅がそう説明すると、凌空は納得した表情を見せた。
「どれも被害者の死亡時の症状と一致しますね」
「でも由羅の話だと、合食禁なら2つの食べ物を一緒に食べなくてはならないよね。だけど、報告によると彼女たちは柚子を食べたあと、少なくとも数時間おいて紅玉薬を飲んでいるね。しかも、姜 瑤琴に至っては柚子を食べたのは紅玉薬を飲む2日前。食べ合わせの問題とは言い切れないんじゃないかな?」
紫釉の疑問に由羅は伯瑜の元で読んだ医学書の内容を思い出して答えた。
「確かに、普通の合食禁であれば同時に摂取することで体調不良を引き起こします。ですが、今回の場合は普通の食べ物ではなくキニーネという薬品になるので、普通の合食禁とは少し反応が違うようなのです。さっき話したように、柑橘類の成分がキニーネの成分を体内で分解しにくくします。そのため血中のキニーネの濃度を上げるのですが、キニーネの分解を阻害する成分はどうやら、摂取後に2、3日ほど体内に残るようなのです」
「つまり、瑤琴のように2日前に柚子を食べても、体に異常をきたすということだね」
「はい」
答えた後、次に凌空が疑問を呈した。
「私も質問してもいいでしょうか? この時期、柚子などいくらでも手に入ります。他にも柚子と紅玉薬を一緒に服用した人間がいてもおかしくないですよね。どうして彼女たちだけが死亡したのでしょうか? 偶然4人だけが死んだ、というのは出来すぎでは?」
そう、それこそがこの事件をより複雑にした要因であり、もう一つの仕掛けでもあるのだ。
「それは彼女たちが食べたのが普通の柚子ではないからです。覚えていますか? 今回4人が食べた柚子は、“見たことの無い柚子”“柚子と言っても外国の果実”“正確には柚子ではない”という証言がありました。つまり、4人が食べた柚子は柚子に似た果物です」
「そのような果実を私は知りませんが……」
「凌空様は、樹璃様の侍女が言っていた柚子の特徴を覚えていますか?」
「確か、『柚子より大きくて、色も黄色かった。文旦に似た形だった』と言っていましたね」
「はい、実はこれらの証言から浮かび上がってくる柚子があるんです。名前を葡萄柚……現地の言葉ではグレープフルーツと言います」
由羅は、以前伯瑜とお茶をしたとき葡萄柚の甘煮をご馳走になった。
その時の伯瑜の説明では、葡萄柚は文旦の一種で、南の国で採れる柚子だという。
今回の柚子の特徴は伯瑜が言っていたものと一致する。
だから彼女たちが食した柚子は葡萄柚だと考えられる。
「そして柚子にはキニーネの分解を阻害する成分はほとんどないのです。だからこの国で一般的に売られている柚子を食べてから紅玉薬を飲んでも死亡することはありません。それが、4人だけが毒性のないはずの紅玉薬を飲んで死亡した仕掛けだと思います」
「では葡萄柚と紅玉薬を持ち込んだ鄭 梓琳が、この殺人に関わっているのは確実なようですね」
そうなのだ。
この葡萄柚は紅玉薬と一緒に鄭 梓琳が土産として持ってきたことが分かっている。
重要参考人として名前が挙がっていた梓琳は、この事件に重要な役割を果たしていると断言できるだろう。
話を聞いていた紫釉が、泰然に向き直って尋ねた。
「梓琳が接触している人間は分かった?」
「梓琳は屋敷での仕事が中心で、外出はほとんどしない。出ても買い物程度で、特定の誰かと会うということはなかった。ただ魯家には何人かの商人が出入りしていたな」
「ということは、魯家の中で葡萄柚と紅玉薬の受け渡しをしているという可能性が高いね」
「なるほどな。じゃあ、魯家の中で商人が持ち込んでいるってことか」
「俺もそう思う。……ねえ由羅。さっきの話だと、紅玉薬……キニーネだったかな? あれはテフェビア王国でしか扱いがないんだったね」
紫釉の問いに由羅は頷きながら答えた。
「はい。ですから、もし乾泰国に持ち込まれるとしたらテフェビア王国の商品を扱う商人でしょう。泰然様、テフェビア王国から来た商人がいたか分かりますか?」
「えっ、とちょっと待ってくれ」
そう言って泰然は書類を取り出し、そこに列挙されている名前を上から確認していった。
そして書類を上から下へとなぞる手が、ピタリと止まった。
「ジャタイというテフェビア王国の商人がいる」
「じゃあ、ジャタイが紅玉薬を持ち込んだということだね。葡萄柚もジャタイが持ち込んでいると思うかい?」
紫釉が由羅に尋ねたので、由羅は考えながら答えた。
「はっきりとは言えません。葡萄柚はテフェビア王国にはない果物ですから。でもジャタイが他の国からテフェビア王国経由で乾泰国に持ち込んでいる……とも考えられますね」
「まぁ、持ち込む経路はどうであれ、結論としては葡萄柚と紅玉薬を注文している人間が黒幕だな」
梓琳には妃候補4人を殺す動機が見当たらない。
そのため、梓琳に命じて葡萄柚と紅玉薬を持って行かせた人物が犯人だと由羅たちは考えた。
次に凌空が口を開いた。
「明日、梓琳と接触するとの連絡が樹璃からありました」
先日楊家に行った際、樹璃が梓琳と会って、どうやって紅玉薬を入手しているのかを梓琳から聞き出すこととなっていた。
それに由羅も同席することになっていた。
だが、そのことに紫釉は反対のようで、一瞬渋い表情を見せた。
「由羅を危険な目に遭わせたくないな。だけど、由羅は行きたいんだよね?」
「はい」
「くれぐれも無茶はしないで」
「分かりました」
こうして、事件は大きな進展を遂げることになった。
あともう少しで犯人に辿り着く。
そして被害者たちの無念を晴らせる。
事件解決が目前であることを、由羅は確信するのだった。


