「我は魔王。お前らを滅する者だ」
我の本気の睨みに、教祖は腰を抜かし、信徒たちは小鹿のように震えていた。
顔色は蒼白に染まり、その表情には本気の恐怖が刻まれていた。
ある者は地に額を擦りつけ、涙を流しながら我へ助けを懇願していた。
――だが、許さぬ。
「未来に物語を生み出したかもしれぬ娘を手にかけた蛮行――教団全員の死をもってしても、なお生ぬるい」
一歩前に進んだ我を見て、後ずさりながら教祖が口を開いた。
「わ、私は、私たちは姫を殺してなどいない。毒は衰弱させるが死なない毒であったし、呪いは魔力量を一時的に下げ、反抗できないようにしただけだ。というか、姫は……その身体は死んではいないではないか」
その言葉に、我の頬がぴくりと引きつる。
「何を言う。現に我がこの娘の身体にいるのだ。
我がこの身体を動かしているということは、すでにこの娘は死んでおる。
死なねば、乗っ取ることなどできまい。
だからお前たちは娘を殺したのだ。お前が命じたのであろう?」
「そんな……そんな人を殺すような酷い命令などしていない!」
……ん?
酷い、と言ったか。
「姫を捕らえるように指示を出したのは事実だ。だが、姫がいなければ楽園へは行けぬのだ。殺すわけがない」
……たしかに。
聖典の記述によれば、姫が死ねば計画は破綻する。
……つまり、追っ手は姫を捕らえるつもりだったのであって、殺す意図はなかったということか。
思い返せば、黒ずくめの者たちは我の捕縛に失敗したのち、逃げただけだ。
騎士も、できるだけ殺さぬよう配慮して戦っていた気がする。
そういえば騎士に、「魔法で不慮の死が出るから威力を抑えてください」と言われていた気がする。
……おや?
しっかり殺していたのは、我だけではないか?
もしかして我だけが、この世界に馴染めていないのか。
我は小さく咳払いをひとつし、転生してから今日に至るまでの出来事を、頭の中で静かに整理し始めた。
そして、この世界に来てから感じた違和感を一つずつ拾い上げる。
最初は呪文だ。
秘められし母国語でしか反応しなかった。
あれはなぜだ。
胸の奥で、何かがぴたりと噛み合った。
――もしや。
我は、この娘の持つ魔法を使っていたのではなく――単に、自分の世界の魔法を無理やり使っていただけだったのではないか。
いやいやいや。
我の世界の魔法とて、あのような直接話法の詠唱はせぬわ。
思わず自分に突っ込みを入れる。
ならばこうか。
この世界で無理やり我が自分の魔法を使おうとしたせいで、魔法の理が捻じ曲がり、あの妙な呪文へと変質したのではないか。
そして、我が自分の魔法を娘の身体と魔力で行使したことで、結果的に娘の魔法能力が底上げされたのではないか。
……いや、筋トレや有酸素・無酸素運動、さらには魔力強化運動の成果かもしれぬが。
そして、ステータス画面。
この世界でそれを見られるのは我だけだ。
だがそれも、我の世界の概念と、我の魂の故郷・推し文化人間界の常識と、この世界の理とが混ざり合い、あの奇妙な履歴書へと形を変えたということではないか?
だからこそ、この世界本来の“ファンタジーらしい魔法体系”では機能しなかったのではないか。
――うむ。
つまり、我がこの世界で使っていた魔法は、すべて我が自分の世界の魔法を無理やり引きずり出して使っていただけ。
無理やり世界の理へ割り込ませたからこそ、さまざまな“バグ”が生じたのだ。
――結論。
我、この世界にまったく馴染んでおらぬ。
必死に姫のふりをしておったというのに、この有様である。
だが、それでもこの娘が死んだ事実は変わらぬ。
教団の企てがあったからこそ、姫は死んだ。
毒と呪いが思わぬ作用を及ぼしたのか。
あるいは別の要因が重なったのか。
それは分からぬ。
だが、この騒動さえなければ、未来あるクリエイターの卵かもしれなかった娘が死んだのだ。
それは、決して許されぬ。
ならば姫の敵として。
せめて教団に関わった者すべてを――教祖も、教徒も。
そして姫に毒を盛ったと思しき貴族、王家の関係者に至るまで。
一人残らず――塵一つ残さず、滅ぼしてやろうではないか。
我の殺気が周囲へと満ちた瞬間、教祖や教徒たちは力なく地に崩れ落ちた。
声も出せぬまま、恐怖に歪んだ目だけがこちらを見上げている。
我は片手を掲げ、魔力を練り上げる。
収束した魔力は一瞬で膨れ上がり、頭上に巨大な炎塊を形成した。
空気が焼け、洞窟の闇すら赤く染まる。
その凶暴な熱を、我は教団へと向け――放とうとした、その瞬間。
『それは……いけません』
不意に、心の奥底に声が響いた。
我は思わず動きを止める。
我の本気の睨みに、教祖は腰を抜かし、信徒たちは小鹿のように震えていた。
顔色は蒼白に染まり、その表情には本気の恐怖が刻まれていた。
ある者は地に額を擦りつけ、涙を流しながら我へ助けを懇願していた。
――だが、許さぬ。
「未来に物語を生み出したかもしれぬ娘を手にかけた蛮行――教団全員の死をもってしても、なお生ぬるい」
一歩前に進んだ我を見て、後ずさりながら教祖が口を開いた。
「わ、私は、私たちは姫を殺してなどいない。毒は衰弱させるが死なない毒であったし、呪いは魔力量を一時的に下げ、反抗できないようにしただけだ。というか、姫は……その身体は死んではいないではないか」
その言葉に、我の頬がぴくりと引きつる。
「何を言う。現に我がこの娘の身体にいるのだ。
我がこの身体を動かしているということは、すでにこの娘は死んでおる。
死なねば、乗っ取ることなどできまい。
だからお前たちは娘を殺したのだ。お前が命じたのであろう?」
「そんな……そんな人を殺すような酷い命令などしていない!」
……ん?
酷い、と言ったか。
「姫を捕らえるように指示を出したのは事実だ。だが、姫がいなければ楽園へは行けぬのだ。殺すわけがない」
……たしかに。
聖典の記述によれば、姫が死ねば計画は破綻する。
……つまり、追っ手は姫を捕らえるつもりだったのであって、殺す意図はなかったということか。
思い返せば、黒ずくめの者たちは我の捕縛に失敗したのち、逃げただけだ。
騎士も、できるだけ殺さぬよう配慮して戦っていた気がする。
そういえば騎士に、「魔法で不慮の死が出るから威力を抑えてください」と言われていた気がする。
……おや?
しっかり殺していたのは、我だけではないか?
もしかして我だけが、この世界に馴染めていないのか。
我は小さく咳払いをひとつし、転生してから今日に至るまでの出来事を、頭の中で静かに整理し始めた。
そして、この世界に来てから感じた違和感を一つずつ拾い上げる。
最初は呪文だ。
秘められし母国語でしか反応しなかった。
あれはなぜだ。
胸の奥で、何かがぴたりと噛み合った。
――もしや。
我は、この娘の持つ魔法を使っていたのではなく――単に、自分の世界の魔法を無理やり使っていただけだったのではないか。
いやいやいや。
我の世界の魔法とて、あのような直接話法の詠唱はせぬわ。
思わず自分に突っ込みを入れる。
ならばこうか。
この世界で無理やり我が自分の魔法を使おうとしたせいで、魔法の理が捻じ曲がり、あの妙な呪文へと変質したのではないか。
そして、我が自分の魔法を娘の身体と魔力で行使したことで、結果的に娘の魔法能力が底上げされたのではないか。
……いや、筋トレや有酸素・無酸素運動、さらには魔力強化運動の成果かもしれぬが。
そして、ステータス画面。
この世界でそれを見られるのは我だけだ。
だがそれも、我の世界の概念と、我の魂の故郷・推し文化人間界の常識と、この世界の理とが混ざり合い、あの奇妙な履歴書へと形を変えたということではないか?
だからこそ、この世界本来の“ファンタジーらしい魔法体系”では機能しなかったのではないか。
――うむ。
つまり、我がこの世界で使っていた魔法は、すべて我が自分の世界の魔法を無理やり引きずり出して使っていただけ。
無理やり世界の理へ割り込ませたからこそ、さまざまな“バグ”が生じたのだ。
――結論。
我、この世界にまったく馴染んでおらぬ。
必死に姫のふりをしておったというのに、この有様である。
だが、それでもこの娘が死んだ事実は変わらぬ。
教団の企てがあったからこそ、姫は死んだ。
毒と呪いが思わぬ作用を及ぼしたのか。
あるいは別の要因が重なったのか。
それは分からぬ。
だが、この騒動さえなければ、未来あるクリエイターの卵かもしれなかった娘が死んだのだ。
それは、決して許されぬ。
ならば姫の敵として。
せめて教団に関わった者すべてを――教祖も、教徒も。
そして姫に毒を盛ったと思しき貴族、王家の関係者に至るまで。
一人残らず――塵一つ残さず、滅ぼしてやろうではないか。
我の殺気が周囲へと満ちた瞬間、教祖や教徒たちは力なく地に崩れ落ちた。
声も出せぬまま、恐怖に歪んだ目だけがこちらを見上げている。
我は片手を掲げ、魔力を練り上げる。
収束した魔力は一瞬で膨れ上がり、頭上に巨大な炎塊を形成した。
空気が焼け、洞窟の闇すら赤く染まる。
その凶暴な熱を、我は教団へと向け――放とうとした、その瞬間。
『それは……いけません』
不意に、心の奥底に声が響いた。
我は思わず動きを止める。



