帝都のエリート退魔師は婚約者の溺愛に気づかない

 その言葉通り、神奈の瞳からはポロポロと涙が溢れていた。それを拭おうとした御幸の手から逃れた神奈は、「やめてください」と訴えた。

「私……、本当は御幸様が思っているような人間ではありません……っ」

 そう言って両手で顔を覆う。

「貴方に、嘘をついていました……」
「嘘……?」

 戸惑った様子の御幸。それから意を決した神奈は「ええ」と返して小さく息を吸った後、ひと思いに胸の内を打ち明けた。

「私……っ、実は御幸様からいただいたものは、ごみくず一つでもコレクションにしてしまうような女です……っ! その麗しいご尊顔を見て、鼻血を堪えることも多々ありました……っ! 会えない日々が続いたときは、自分の中の妄想を小説にして御幸様補給するような下劣な人間です……っ! 本当は御幸様の理想とされる淑女とは程遠い人間なのに、それをずっと隠して御幸様を騙していましたの……っ!」

 そこまで息継ぎもせずに捲し立てると、案の定「え?」と戸惑いの声が聞こえてきた。ひゅるると吹いた木枯らしが、ふたりの間を通りすぎる。訪れた沈黙。

(ああ、終わりましたわ、私の人生……)

 今までずっと隠してきた本性を、ついに御幸の前で晒してしまった。けれど、積年の想いを打ち明けた今、神奈の心は自然と晴れやかになっていく。

「……本当はずっと、御幸様のことをお慕いしておりました」

 俯いたまま、胸の内に秘めていた思いを口にする。ずっと言いたくても、言えずにいた言葉。

 相手はドン引きかもしれないが、長年の想いを、こうして伝えることができたのであれば、悔いはなかった。後は灰と化し、塵になっても構わない……神奈がそう決意を新たにしていたところ──。

「よかった、神奈さんがそう言ってくれて」

 ぎゅっと強く抱きしめられ、御幸の声が耳元で聞こえてきた。その瞬間、ふわりと香った花の香り。

「え、あの――」
「今、最高に幸せです」

 何だか満足そうな様子の御幸に、混乱する神奈は目をぱちぱちとさせながら状況が呑み込めずにいた。