〜摂食障害という名の、透明な檻に閉じ込められて~

衰弱しきった楓を連れて、両親は再び病院へと駆け込んだ。

診察室の空気は重く沈んでいる。

医師は、ベッドに横たわる楓の目をじっと見つめ、優しく、しかし厳かな口調で語りかけた。

「楓さん、よく聞いてくださいね」

医師の言葉に、隣に立つ母親が父親の手をぎゅっと握りしめる。

「あなたがいま罹っている病名は、『摂食障害』です。心が体にブレーキをかけてしまって、自分の意志だけではご飯が食べられなくなっている状態です。これ以上体力が落ちると命に関わります。一度、しっかり入院して治療しましょう」

「先生……入院すれば、この子はまた元通りにご飯を食べられるようになるんでしょうか?」

「お母さん、焦りは禁物です。体のケアだけでなく、心のケアも同時に行っていきます。

長い戦いになりますが、一緒に頑張りましょう」

「楓……お父さんもお母さんもずっとついてるからね。だから、先生の言う通りにしよう」

(せっしょくしょうがい……にゅういん……?)

白い天井を見上げながら、楓の目から一筋の涙がこぼれ落ちた。

(病気……。私は、自分の意志でダイエットをしてたわけじゃなくて、『病気』だったんだ……)

その事実は、楓の細い胸を容赦なく打ちのめした。

あのSNSの、たった一言に傷ついたあの日から、自分は一体何と戦ってきたのだろう。

可愛い洋服を着て、大好きな陽葵と並んで、推しの前に笑顔で立つ。

そんな、どこにでもある小さな、ささやかな幸せを願っただけなのに。

(ただ、推しに可愛いって思われたかっただけなのに。みんなに愛される、普通の女の子でいたかっただけなのに。どうしてこんなことになってしまったのだろう)

指一本動かす体力すら残っていないベッドの上で、自分の選択がすべて間違っていたかのような激しい後悔と絶望が、楓の心を濁流のように飲み込んでいく。

(私の何がいけなかったの? 太いって言われたのが悔しくて、頑張っただけなのに。頑張ることが、そんなに悪いことだったの?
もうクラスのみんなのところには戻れないのかな。陽葵も、私のこんな姿を見たら、きっと怖がって離れていっちゃう。もう誰も、私のことを『一軍の可愛い楓ちゃん』なんて呼んでくれないんだ……)

失ってしまったものの大きさに、胸が張り裂けそうだった。

もう、お洒落をする楽しさも、美味しいものを食べて笑い合う日常も、すべてが遠い過去の幻のようになってしまった。

静まり返った病室で、楓の、三ヶ月に及ぶ長い入院生活の幕が上がろうとしていた。

点滴の管に繋がれた自分の細い腕を見つめながら、彼女は声にもならない悲鳴を上げ、ただ静かに涙を流し続けるしかなかった。