京の守護から解放された最強おっさん陰陽師、式神や弟子と共に旅をする。~異世界で【陰陽術】は常識の範囲外~

「レイラ知ってる! ドワーフさんは少し小さくておひげがすごく生えている人だよ。鍛冶がとっても上手なの。エルフさんは耳が長くてすごく長生きさんなんだあ」

「レイラさんはよく知っておりますね。ドワーフやエルフは獣人のように人族とは少し違う種族のことです。大体ドワーフの寿命は百、エルフは数百歳まで生きると言われておりますからね」

「数百だとっ!?」

 獣人というのはバルム殿のような獣の耳や尻尾を持つ者のことだが、ドワーフやエルフという種族は初めて聞いた。

 それに寿命が百を超えるとは本当に驚く。京の都では我のように30後半まで生きられればだいぶ長生きなのだがな。むろん世が違うのであるから寿命が異なるのも当然なのだが、それにしても数百とは……。

「ええ、ですからヤコウ殿もまだまだこれからですよ。それに男はいくつになっても英雄なれるものですからね」

「……至言(しげん)であるな」

『ご主人なら今からでも英雄になれるね!』

 さすがにスーの言うような英雄に興味はないが、この世は医学も進んでいるようだし、我にもまだまだ時間があるようだ。ひとまずはこの世の様々な場所を巡ってみるとしよう。



「おお~なんと見事な……」

『うわ~すごいね、ご主人!』

 ありがたいことに今日はこのまま領主殿の屋敷に泊めてもらうこととなった。そして晩ご飯をご馳走になったあとは風呂に案内してもらった。

 ただし、京の都の風呂とはまったく異なっている。我らは基本的に水で身体を拭き、香を焚いて身体を清潔に保っていた。稀に小屋の中で湯や石を熱した蒸気で身体を温める風呂はあったが、この世の風呂とは形式が違う。

 この世の風呂は人肌以上に温めた湯を浴槽に張り、その中に身体を沈めるという極めて贅沢なものであった。領主殿に聞いたところ、浴槽に入れた水を温める魔道具があるらしい。マジックバッグもそうであるが、魔道具とやらは随分と便利なものであるな。

「う~む、疲れが水の中に溶けていくようだ……」

『すっごく気持ちがいいね~』

 湯船の中に入って身体を横にすると身体全体が温かい湯の中に包まれ、我の世の蒸した風呂よりも遥かに心地がよい。

 スーも湯の中で泳ぎながら楽しんでいる。さすがに他の式神が入れるほど広くはないのが残念だ。

『いろんな場所を見てきたら、こういう大きなお屋敷でゆっくり過ごすのもいいかもしれないね~』

「うむ、それもよいかもしれぬな」

 この世にはとても美味なる料理やこの風呂のようにすばらしき物が山ほどある。旅を楽しむのもよいが、そのあとは弟子を育てながらこうしてのんびりと過ごすのも悪くないのかもしれぬ。




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「……むっ、昨日は領主殿の屋敷に泊めてもらったのだな」

 目を覚ますとそこには真っ白な天井が見えた。この部屋はだいぶ豪華な造りとなっている。

「おじちゃん、スーちゃん、おはよう!」

「うむ、おはよう」

『おはよう!』

 レイラはすでに起きていたようで、部屋の中の物をいろいろと見ている。昨日の夜はメイドという給仕をする者と一緒に風呂に入ってとても興奮した様子ではしゃいでいた。やはり童は元気が一番であるな。

「ヤコウ殿、この度は本当にありがとうございました」

「こちらこそ昨晩は部屋を貸してもらい、美味なる料理を馳走になった。感謝している」

「少しでも楽しんでもらえたのでしたら幸いです。ヤコウ殿は息子の命の恩人でございます。なにかございましたら、遠慮なくラグナード子爵家を頼ってください。こちらは当家からの紹介状となります。それほど大きな権限はないかもしれませんが、なにかのお役に立てるかもしれませんので、どうぞお持ちください」

「かたじけない。なにかあれば遠慮なく助力を願わせてもらう」

 美味なる朝食を食べさせてもらい、ご子息殿と領主殿に挨拶をしてから屋敷を出る。領主殿からは有事の際に見せてほしいという文をもらった。この世の貴族がどれほどの権限を持っているのかはわからぬが、なにかあれば遠慮なく頼らせてもらうとしよう。



「ヤコウさん、わざわざ来てもらって悪いね」

「どちらにせよなにか依頼を受けようと思っていたから構わぬぞ」

 領主殿の屋敷を出て、そのまま冒険者ギルドへとやってきた。そのままギルドマスターの部屋へと通されると、マーチル殿がいる。

「まずは緊急依頼の報酬についてだが……本当に不要なのかい?」

「うむ。我にそれほどの大金は不要だ。この街や孤児などのために使ってくれ」

 領主殿にはすでに伝えてあるが、マーチル殿にもそう伝えている。先日頼んでいた魔物を解体した分の報酬も貰えることだし、旅をするにはこれで十分である。

 魔道具には高価なものもあったのだが、その多くは式神や霊符で代用できるものばかりであったから我には必要ない。

「……変わった男だね。領主様と相談して孤児院などに使わせてもらうよ。本当にありがとうね」

「うむ」

「今回の件でヤコウさんに十分な実力のあることはわかったけれど、第三級ともなると魔物との戦闘実績が少し足りなくてね。そこでひとつヤコウさんに相談があるんだよ」