京の守護から解放された最強おっさん陰陽師、式神や弟子と共に旅をする。~異世界で【陰陽術】は常識の範囲外~

「ほう、こいつはうまそうだな」

『すごいね、脂が滴り落ちているよ!』

『これがこちらの世のイノシシですか。とても楽しみです』

 ビャクは昨日の角ウサギを食べてないから、こちらの世の食べ物を食べるのは初めてのこととなる。

 スーの炎で焼いたワイルドボアからはうまそうな脂がポタポタと滴り落ちていく。角ウサギも非常に美味であったため、このワイルドボアとやらの肉も期待している。そして昨日と異なるのは街で買ってきた塩を振りかけて味をつけていることだ。

「むっ、こいつは美味だ!」

 ワイルドボアの肉はとても柔らかく、噛むたびに溢れる肉汁が舌を包み込む。野性味のある強い旨味とほのかな獣の香りが混じり合い、それに振りかけた塩の塩味が加わって得も言われぬ味わいとなっていた。京の都で食べたイノシシの肉とはまるで違う、荒々しくも深い味わいが舌先を刺激する。

 昨日の角ウサギは普通のウサギの割に脂が乗っていたが、このワイルドボアはそれ以上だ。歳を重ねるごとに脂が重く感じてくる我であったが、ここしばらくは床に伏せて粥ばかりの生活であったため、このワイルドボアの肉の旨さが身体中に沁みわたる。

『おいら、こんなにおいしいイノシシを食べたのは初めてだよ!』

『おおっ、これはすばらしい味ですね! これは止まらなくなってしまう!』

「うわあ~すっごくおいしいよ!」

 スーとビャクも次々と焼けたワイルドボアの肉を頬張っていく。レイラもおいしそうに焼いた肉を食べながら、次々と新しい肉を焼いていく。

「レイラがいてくれたおかげでとても助かった。好きなだけ食べてくれ」

「う、うん……。でも私なんて大したことができていないのに……」

「なにを言う。街や道を案内してくれただけでなく、こうして魔物を解体してくれた上に調理までしてくれたのだから、本当に助かっているぞ」

『ご主人やおいらたちは解体や料理なんてできないからね~!』

『ええ、レイラ殿のおかげでこんなにおいしいお肉を食べることができました。ありがとうございます』

「ううん、私の方こそ、こんなにおいしいお肉をありがとう!」

 レイラの瞳からはぽろぽろと涙がこぼれていく。この肉が美味なこともあるが、これまでは生きるために食べていただけで、純粋に味わうことができなかったのかもしれぬな。本当にずっと苦労してきたのだろう。

 ワイルドボアの肉はたくさんあるし、もしも足りなければまた新しい獲物を狩ればいいだけだ。我も久しぶりに腹が膨れるまでワイルドボアの肉を楽しんだ。



「ふう~非常に美味であった。そういえば今回は金が足りなかったが、京の都では見たことがない調味料もあったな」

「少し高いけれど、レグルマの実とかもおいしいらしいよ」

「ほう、それはぜひ試してみたいな」

 結局ワイルドボアの肉はほとんど我らの腹の中へと消えた。特に式神であるスーとビャクが山ほど食べていたな。式神が食べる必要はないのだが、せっかくなら美味なるものはみなでわかちあいたい。

 今はスーとビャクの他に形代を操作しているゆえ、ゲンやセイには今度楽しんでもらうとしよう。レイラに聞いたところ、煙でいぶしたり塩に漬ければしばらくの間もつらしいし、街で売っている他の香辛料や調味料も試してみたいところだ。

「さて、それでは他の依頼をこなしていくとしよう」

 すでに形代で採取依頼や駆除依頼をこなす準備はできている。お金を稼ぐためにも効率よく依頼をこなしていく。このワイルドボアも依頼にはないが、毛皮や牙は素材として冒険者ギルドで買い取ってもらえるらしい。血抜きをして引き渡せば解体もしてくれるし、そのままでも買い取ってくれるようだ。

 冒険者登録をしたおかげで駆除対象の魔物を狩って討伐した証の持ちかえれば報酬をもらえるし、ひたすら魔物を倒していけば当分の資金にはなる。少なくとも今日の宿代と飯代は稼ぐとしよう。



「よし、今日はこれくらいか」

「ヤコウおじちゃんは本当にすごいね……」

 ワイルドボアを狩ったあとは依頼を順調にこなしていった。形代のおかげで依頼されている草や魔物を探すのは非常に簡単だ。どちらかというとワイルドボアを解体している時間が一番長かったな。

『……それにしてもゴブリンの左耳を切り取って持っていくなんて、ちょっと怖いよね』

「さすがに身体全体を持っていくわけにもいかぬだろう。疫病のもとにもなるし、討伐部位だけ持ち運び、あとは埋めるというのは合理的でもある」

 このゴブリンとやらは人を襲うだけでなく、田畑まで荒すらしい。さらに繁殖力が高くすぐに増えるようなので、見つけたら討伐するのが冒険者の基本のようだ。

 この世の魔物とやらは妖と違って人だけでなく田畑にも害を与えるのは厄介だな。それにゴブリンのように食べることができない魔物は地面に埋めるしかない。下手をすれば実体のない妖よりも面倒な存在である。

 さて、これでどれくらいの金になるのか気になるな。市場には我の世にはなかった不可思議な魔道具という物があったし、それらを見てまわりたいところだ。