ラケットの感触を確かめてポケットからボールを出し、ネットの向こうに呼びかける。
「千秋ー!行くよー!」
千秋が頷いてラケットを構えたのを確認し、下から打つ。
「バシンッ!」「シュパンッ!」
と軽快な音が鳴って、ゆるやかなラリーが続く。
時々、俺がとんでもない方向に飛ばしてしまうが、千秋は「あははっ!」と笑い飛ばしてくれて、2人して転がるボールを追いかける。
夕暮れの誰もいないコート、2人きりのラリーは続く。
そんなふうにして1時間くらい経つと、日が暮れてボールを見るのが難しくなってきた。
「晴人、そろそろ終わりにしよう」
千秋が涼しい顔で近づいてきて、俺は額から流れてくる汗を拭った。梅雨にはまだ入ってないけど蒸し暑い。
「いいけど、千秋はこれ、練習になってるのか?」
「もちろん!晴人とすることに意味がある。それに俺のパワースポットだから」
「そう、なの?それならいいけど」
目尻を下げる千秋に、否が応でも鼓動が高鳴る。
この男は分かっているのかいないのか、「ん?」と顔を覗き込んできた。
「今日、ちゃんと見てた?」
「もちろん!見てたよ」
「ほんとかなー。ボール、ぶつかりそうになってたじゃん。なんかボーッとしてるなと思ったら全然避けないし。ちょっと焦った」
「あっ!その節は………」
ごにょごにょ言ってると、千秋が「ふっ」と吹き出した。
「あははっ!どうだった?俺の壁ドンならぬ、フェンスドン」
「うん、かっこよすぎ……ドキドキ、した」
「おまたせ」
部室から出てきた千秋が俺の肩をたたくと、シトラス系の制汗剤のにおいがした。
「先に行ってて」
と言って中に入る。
千秋が着替えた後の部室の中も、同じにおいがしている。
包まれているような気がして落ち着かない。
なるべく浅く呼吸をして、手早く着替えた。
部室から出て、鍵をかけてカバンに入れた。
校門に向かうと、千秋が柱に寄りかかって待っていてくれる。
声をかけなくても気づいてくれて
「よっ!」
と軽く片手をあげて、微笑んでくれた。
俺も微笑み返す。
いつもと変わらない日常だ。
「晴人、テストどうだった?」
「いつも寝てる千秋よりは自信あるよ」
「うわ!クラス離れてるのに、なんでバレてんのー?!」
千秋の自白に「あははっ!」と笑っていると、急に顔を覗き込んで、左手で俺の頬をなでてくる。
千秋の唇と、俺の唇が一度だけ重なる。
いつもならそれで終わるはずだった。
今日は唇が離れたと思ったら、もう一度重ねられ、ぬるりと千秋の舌が入ってきた。
絡み合い、口蓋をなぞられ、背中から腰にかけてゾクゾクと電気が走る。
「んっ」「はぁっ」
勝手に声がもれる。
こんなの、自分の声じゃないみたいだ。
さっきまでラケットを握っていた手が、もっと深くというように、俺の腰をグイッと引き寄せる。
しばらくそうしていて、ようやく熱が離れたとき、俺たちは肩で息をしていた。
「晴人?嫌だった?」
「…っ…嫌じゃない」
「ふふふ」
笑顔を浮かべる千秋。
俺ばっかり余裕ないみたいだ。
まぁ、実際そうなんだけど!
「……なんか、好きすぎて腹立ってきた!」
わざと足音を鳴らして先に歩き出すと、千秋が慌てたように追いかけてきて、俺の手をとった。
「ごめん!…ごめんってば!」
千秋を見上げて、思いっきり睨んでやる。
珍しく狼狽える千秋を見て、態度とは裏腹に「可愛い」なんて思っていると
「あ、可愛い……じゃなくて、ごめん。機嫌直して?」
先に言われてしまった。
つい口元が緩んで、2人して吹き出す。
俺たちのラリーはこれからもずっと続いていく。
そんな確信めいた予感に胸をなでると、千秋がニヤッと笑った。
End
「千秋ー!行くよー!」
千秋が頷いてラケットを構えたのを確認し、下から打つ。
「バシンッ!」「シュパンッ!」
と軽快な音が鳴って、ゆるやかなラリーが続く。
時々、俺がとんでもない方向に飛ばしてしまうが、千秋は「あははっ!」と笑い飛ばしてくれて、2人して転がるボールを追いかける。
夕暮れの誰もいないコート、2人きりのラリーは続く。
そんなふうにして1時間くらい経つと、日が暮れてボールを見るのが難しくなってきた。
「晴人、そろそろ終わりにしよう」
千秋が涼しい顔で近づいてきて、俺は額から流れてくる汗を拭った。梅雨にはまだ入ってないけど蒸し暑い。
「いいけど、千秋はこれ、練習になってるのか?」
「もちろん!晴人とすることに意味がある。それに俺のパワースポットだから」
「そう、なの?それならいいけど」
目尻を下げる千秋に、否が応でも鼓動が高鳴る。
この男は分かっているのかいないのか、「ん?」と顔を覗き込んできた。
「今日、ちゃんと見てた?」
「もちろん!見てたよ」
「ほんとかなー。ボール、ぶつかりそうになってたじゃん。なんかボーッとしてるなと思ったら全然避けないし。ちょっと焦った」
「あっ!その節は………」
ごにょごにょ言ってると、千秋が「ふっ」と吹き出した。
「あははっ!どうだった?俺の壁ドンならぬ、フェンスドン」
「うん、かっこよすぎ……ドキドキ、した」
「おまたせ」
部室から出てきた千秋が俺の肩をたたくと、シトラス系の制汗剤のにおいがした。
「先に行ってて」
と言って中に入る。
千秋が着替えた後の部室の中も、同じにおいがしている。
包まれているような気がして落ち着かない。
なるべく浅く呼吸をして、手早く着替えた。
部室から出て、鍵をかけてカバンに入れた。
校門に向かうと、千秋が柱に寄りかかって待っていてくれる。
声をかけなくても気づいてくれて
「よっ!」
と軽く片手をあげて、微笑んでくれた。
俺も微笑み返す。
いつもと変わらない日常だ。
「晴人、テストどうだった?」
「いつも寝てる千秋よりは自信あるよ」
「うわ!クラス離れてるのに、なんでバレてんのー?!」
千秋の自白に「あははっ!」と笑っていると、急に顔を覗き込んで、左手で俺の頬をなでてくる。
千秋の唇と、俺の唇が一度だけ重なる。
いつもならそれで終わるはずだった。
今日は唇が離れたと思ったら、もう一度重ねられ、ぬるりと千秋の舌が入ってきた。
絡み合い、口蓋をなぞられ、背中から腰にかけてゾクゾクと電気が走る。
「んっ」「はぁっ」
勝手に声がもれる。
こんなの、自分の声じゃないみたいだ。
さっきまでラケットを握っていた手が、もっと深くというように、俺の腰をグイッと引き寄せる。
しばらくそうしていて、ようやく熱が離れたとき、俺たちは肩で息をしていた。
「晴人?嫌だった?」
「…っ…嫌じゃない」
「ふふふ」
笑顔を浮かべる千秋。
俺ばっかり余裕ないみたいだ。
まぁ、実際そうなんだけど!
「……なんか、好きすぎて腹立ってきた!」
わざと足音を鳴らして先に歩き出すと、千秋が慌てたように追いかけてきて、俺の手をとった。
「ごめん!…ごめんってば!」
千秋を見上げて、思いっきり睨んでやる。
珍しく狼狽える千秋を見て、態度とは裏腹に「可愛い」なんて思っていると
「あ、可愛い……じゃなくて、ごめん。機嫌直して?」
先に言われてしまった。
つい口元が緩んで、2人して吹き出す。
俺たちのラリーはこれからもずっと続いていく。
そんな確信めいた予感に胸をなでると、千秋がニヤッと笑った。
End

