ネイルを剥がしたら

「完成しました」

「すごい…。これが私の爪」

見違えるほど綺麗になった私の爪は角度を変える度にキラキラと光っている。

「我ながら上出来ですね」

透果さんはふんっと鼻をならした。

「ありがとうございました。何だか気持ち的に変われたような気がします」

今なら何だってできそうな気がする。爪が変わるだけで、こんなにも変わるんだ。

私は自然と頬が緩んだ。

「何を言ってるんですか?変わるのはこれからですよ」

「…どういう意味ですか?」

私が訊くと透果さんは手を組んで怪しげに笑う。

「条件の話をしましたよね?」

「…はい」

「先程も言いましたが、このネイルは特殊です。そして、あなたはもう一人の自分になりたいと願った。それが発動条件になります」

透果さんが何を言っているのかさっぱりわからなかった。

「どういうことですか?」

「通常のピールオフネイルは簡単に剥がせます。でも、今あなたに施したネイルはある条件を満たさない限り剥がせません」

「えっ…」

私はパッと自分の手を見る。動揺する私に透果さんは淡々と告げた。

「条件は二つ。一つは”自分の本音を出すこと”。もう一つはーーーことです」

「あの、その条件を満たせなかった場合は?」

「さぁ?剥がしたいなら行動してはいかかでしょうか。ではそろそろ次のお客様が来ますので」

私は透果さんに促されそのまま店の外へと追い出された。

「…ちょっと」

パタンと扉が閉まる。そしてすぐガチャっと音がした。

ドアノブを回しても、扉は開かない。

どうしよう。このまま一生剥がれなかったら…。

でも、この爪を見るだけで自然と頬が緩んでしまう。

「大丈夫だよね…」

私は仕方なく来た道を戻るように歩く。雨はとっくにあがっていて、いつの間にか夜になっていた。

それにしても

「…綺麗だな」

手を上げて街灯の光に照らしてみる。色は暗くてよく見えないけど、キラキラと光っている。

こんなの剥がしたいなんて思うはずないじゃん。

不安になっていたのが馬鹿みたいに思えた。

あんな汚いボロボロの爪に戻るくらいなら、このままでいい。


私は軽い足取りで、家へと帰った。










このときの私は完全に忘れていた。ネイルなんてしたらダメだということを。