溶け愛

 恋なんてしなくても、人生は豊かな日々にできる。誰かと愛を育まなくても、人生は実りある一生にできる。それでも、私は誰かに恋をしたいと思った。誰かと愛を育みたいと願った。

 もし万が一にも、独りよがりの願いが叶うのなら、その「誰か」があの人であって欲しい。でも、そんなのは絶対に無理だって理解している。行動を起こしもしない、気持ちを口にしようともしない私は、都合の良い言い訳でそう自分を納得させる。勇気がなく、意気地がない私は、そう自分を納得させる。行動に移して嫌われるより、気持ちを口にして拒絶されるより、ずっと楽で傷つかない。

 その代わりとして、『町街海(まちがいうみ)』となり、間違いで塗り固めた体で生きると決めた。世界中の人間だけを溶かす雨、〈溶解雨〉が降り始めたその日から。彼女なら、『津巳丘志(つみおかし)』に愛されることが確定している。玉砕覚悟で、関係を壊すこと前提であの人に告白するより、ずっと楽で傷つかない。

 町街海となった私は、そうやって間違いを生み始めた。勇気を出して一歩踏み出せば、結末が変わったかもしれないのに。