この恋が終わる頃

 なおとLINEを交換した浦間とのデートの日の翌々日。
 その日の夜は、浦間と電話する予定だった。
 僕を呼び出したなおは、中学生の頃と違って綺麗系で統一されていた。
「先生、変わりましたね」
 会うのは久々。
 できれば会いたくなかった。
 あの日を境に距離を置いたはずなのに、どうしてまた僕は会いに来てしまったのだろう。
「そんなことないわ」
「どうして急に呼び出したんですか」
「進路どうするのかなって思ってね」
「今更先生ズラですか」
「そうじゃないけど、教師志望だったでしょ?今も?」
 言葉を返すのは躊躇われた。
「何?悩んでる?」
「いや、そういうわけじゃ」
「なら、いい大学教えてあげようと思って。ほら、ついてきて」
 袖を摘んで連れて行かれたのは、いつかのカフェだった。
 ここには、あの三人も連れていったことがある。
「もう高校二年生でしょ?説明会とか行ったと思うけど、あなたならもう少しいい大学を目指せると思うの」
 渡された資料。
 授業を受けていた頃のようにわかりやすい。
「これ、わざわざ調べてくれたんですか。僕は、あんな酷いこと言ったのに」
「あなた、教師向いてるもの」
 なおが忘れられない。
 これまでずっとそうだった。
 でも、今日は忘れるために来た。
「もう、やめてください」
 首を傾げるなお。
「僕は、あなたの何者でもなかった。結局、付き合えなかったし、恋人ですらなかった。告白だってありがとう、嬉しいだけで、不自然に距離を置いて。先生は、僕の気持ちわかってて、遊んだじゃないですか」
「それ、前にも言ってたね」
「覚えてたんですか……」
 中学三年生の受験が終わった頃、先生は付き合えないときっぱり告げた。
 受験という勝負には勝ったのに、恋に敗れた。
 その時にいった言葉。
「ダメなものはダメなの」
「歳の差ですか?学生相手だからですか?十五の差なんて大したことない。僕は気にしない」
「そうじゃないの」
 資料を持つ手に触れるなお。
 今もまだドキドキしているのだと、それは未練があるのだと思い知らされる。
「ねぇ、本当に教師になるなら、私、応援してるから、この中から選んで欲しい。そしたら、大学でわからないことあったら教えてあげられるから」
 だめかな?と洗練された上目遣い。
「わかりました」
 どうやらもう僕は、この人に洗脳されている。沼ってしまっている。
 その日、夜まで付き合わされて事後、先生はいう。
「今、彼女がいるなら別れなさい?」
「……え?」
「受験に響くわ」
「それはそうかもしれないけど」
 ベッドに座る僕にまたがるなお。
 隣置いてあったスマホを取ると浦間からの通知になおは舌打ちした。
 通知は切ってたのに、追いLINEが来ていたのだろう。
「この花火祭りが終わったら、別れなさい。あなたの夢を叶えるのが第一目標でしょ」
 なんだか少し怖かった。
「この子もきっと代わりの男子がいくらでもいるわ。あなたを特別視してくれる子じゃない」
 なおは、僕の気持ちにすぐ気づく。
 誰かの一番になりたいとか代わりのいない存在になりたいとか。
 全部見透かした上で彼女はいう。
 頷くと宜しいと言わんばかり頭を撫でて、唇にキスをした。
 忘れられないキスの味。
 いつか泣いていたなおの顔さえ、脳裏に焼き付いている。
 そして、僕は花火祭りの日に浦間を振った。
 思いの外、引き留められることはなくいとも簡単に別れられた。

 それから、また一ヶ月後、会いたいと連絡が来た。
 今度は美術館に行くらしい。
 徳井にそのことを報告するとあいつは、馬鹿みたいにでかい声で驚いていた。
 教室で何やってくれてんだと苛立ったのを覚えてる。
 心なしか浦間からすごい視線を感じた。
 なおは、僕の家から見えないところに車を停めて迎えに来た。
「車、変えたんですか?」
「そりゃもう時期的に」
 どうしてか男性が選びそうな車種だと思ってしまった。
 運転席の椅子の位置がハンドルから少し遠く感じるのに、彼女は手前に引くことはしないらしい。
 サイドに置かれた雑誌も男性向けのもの。
 多少の違和感がありながらも、お願いしますと言って車を出してもらう。
 元々は、彼女の行きたい場所に連れて行かれるだけなのだが。
 そのあとで何が起こるかもわかっているわけだけれど。
 それでも付き合うことがなかったのは、法的な問題とか、学校で問題になるのは避けたいとか彼女の意向そのもの。
 担任から外れるのは嫌だと口外することはなかった。
 しかし、実際はなおから三年生の受験終わりに別れを切り出した。
『やっぱりこういうのはだめだよね』
 彼女はそれだけ言うと質問に答えることもなくクラスの輪に戻っていった。
 たかだか二年生の担任だっただけ。
 三年生の担任ではないから、話す機会も減ってしまう。ただ、その分デートで会えた時の幸福感は高かった。
 今もまたこうして出会えているのに、どうして幸福を感じないのか。どうして、素直に喜べないのか。
 もし、お酒を飲める年になってもきっと関係は変わらない。
 それでも近くにいれるならそれでいい。
 いつかまたちゃんと告白をしたい。
 どうやら美術館に到着したらしい。
 絵を見て回ると林檎の絵が飾ってあった。
 なぜだか見惚れてしまう。
 毒林檎とタイトルが付けられている。
 まるで隣にいる彼女のよう。
 危険なものほど触れたくなる心理。
 毒だと言われても食べたくなってしまうほどの魅力。
 なお、みたいだ。
「気になるの?」
「えぇ、すごく綺麗だ」
「毒林檎なんてダメだよ。そういう子には気をつけてね」
「もちろん」
「あの時の通知の子とは別れたの?」
「浦間、ですか?別れましたよ」
「そう」
 端的に彼女は言う。
 人前では決して手を繋いでくれない彼女。
 前までは一切気にしていなかったけれど、やはり年齢差はわかりやすいものだ。
 未成年に手を出した大人。
 それが、第三者からの言われよう。
 どうしようもないほどに変わらない事実。
「先生は、何か気になっ」
 刹那、なおは僕の頬を摘んだ。
 そうだ、先生呼びはだめなんだ。
「なおさんは……イタタ」
 それもだめらしい。
「なおは、惹かれる絵はありました?」
「宜しい、けど、ないかなぁ」
 頬を摘む手を話す彼女。
 たまにSっぽいところ見せる彼女もまた僕は好きだった。
「えぇ、せっかく来たのにもったいない」
「いいのよ。楽しめたから」
 海に行くとなおは髪の毛をかきあげた。
 色っぽい仕草も好きだった。
 大人っぽくて昔のような子供っぽさは今はもうない。
 なおにしか出せない特有の色気。
 全部が好きだった。
「美術館行った後の外の空気、どう?気持ちい?」
「とても」
 肯定的な意味を込めて。
 でも、気分は最悪だった。
 波音が僕を責め立てる。
 どうして、こんなにも苦しいのか。
 わかっているんだ。
 なおの薬指を見ればわかる。
 わざわざ外してくれたんだろうけど。
 終わりにしたくない。
 終わってほしくない。
 これを最後にはしたくない。
 車に乗り、いつもみたいになおの家に連れてかれるかと思った。
 だけど、今日はそのまま僕の家まで送ってくれた。
「じゃあ、また今度ね」
 降りたくなかった。
 帰りたくなかった。
 離れたくなかった。
 きっと、この車を降りて家に帰って風呂にでも入れば気づいてしまう。
 のぼせた後でベッドで横になっているとフラッシュバックする。
 気づいちゃいけなかったし、言っちゃいけなかった。
 でも。
「結婚してたなら、言ってくださいよ……っ」
「なんのこと?」
 とぼける彼女。
「薬指の指輪の日焼け痕。車のサイドにある男性向け雑誌。そしてこの車。全部、先生の趣味じゃない!」
「……」
「これ、だって、そう言うことじゃないですか」
「……大崎くん」
 僕の手の甲にそっと添える彼女。
 ふっと唇を奪う彼女。
 目と目が合う。とても綺麗な瞳だ。
「後一回だけでいいから、会えない?」
 居た堪れなくなって、奥歯を噛み締めて、車のドアを開ける。
 逃げるように家に帰った。
 聞きたくないことばかりが頭に浮かんだ。
 言いたくない言葉を彼女に浴びせるところだった。
 親の言葉を無視して、風呂に入る。
 どうせ、僕のことをなんでもできる心配事のない子供だと思っている。
 いい大学入って、無難に就職する。
 そんなもんだ。だけど、今、あんたの子供は、そう言う人になっちゃってる。
 お湯に浸かり、何も考えたくないと頭まで浸かった。
 耐えられなくなって顔を水面から出す。
 息遣いが荒くなる。
 頭を冷ましたい。
 冷水を頭からぶっかける。
 体が震えたし、頭が痛くなった。
 僕は、何をやっているんだ。
 寝衣に着替え、ベッドに横になる。
 その日はなれないまま、朝を迎えた。
 学校に行くといつもの奴らがいつものように生活している。
 廊下の奥から徳井が声をかけてきた。
「お前、先生とどうなった?」
「別になんともねぇよ」
「ない顔してないぞ。寝てねぇだろ」
「……」
「ほぉれぇみぃ?」
 腹パンをかまそうと拳を握る。
 そこに河合がやってきた。
「朝から元気だな」
「僕は別に」
「こいつ、昨日元カノと美術館行ったらしいぜ」
「おい!」
 止めに入ったが時すでに遅し。
 他のクラスメイトにも聞かれてしまった。
 これが、浦間に聞かれたらどうするつもりだ。
 浦間ってちょっとめんどくさいぞ。
「どこの?」
 と、河合。
 僕からチケットを二枚渡した。
「え、駅近じゃん」
 なおはなぜかこのチケットを四枚持っていた。
 そのうちの二枚を使って美術館に入った。
 きっと旦那さんとその両親の四人で行く予定だったんだろう。
 使う機会がなくなって、二人できた。
 そんなところだろう。
「誰か好きな人と行きなよ」
「え、サンキュー。使わせていただきます」
 河合は教室に戻って行った。
「お前、このこと誰にも言うなよ」
「おっけ、任せろ」
「助かるよ」
 先に教室へと歩を進める徳井。
「なぁ、徳井。僕は、この先、先生とは会わない方がいいと思うか?」
「それだけ傷ついたんなら、もう会わない方がいい。それに、浦間にも失礼だ」
 今を見ろ、と彼はいう。
「これまでのことはこれまでのこととして、この先を生きるべきだと俺は思う」
「……」
 頭ではわかっている。
 この先、なおと会っても後悔するだけ。
 苦しいのは自分だ。
 通知がなった。
 なおからだ。
『会いたい』
『これで最後にするから』
 集合場所は、母校。
 僕は、これまでのことを綺麗さっぱり吹っ切れるだろうか。

 その週の土曜日の夜。
 校門前で待つなおの姿。
 肌寒くなってきたこの頃。
 薄い長袖を着る彼女の姿はなんだか少し幼かった。
 すごく嫌な予感がした。
「おいで」
 一歩近づいた。
 刹那、彼女はぎゅっと僕を抱きしめる。
 いつかの遠足で彼女はそんな小悪魔なテクを見せつけてきた。
「少し寒いから、甘えちゃった。やっぱ、大崎君って暖かいね」
「……なお」
 もう名前呼びもやめよう。
 少し雨の匂いもしてきた。
 これからもっと寒くなるんだろう。
「ほら、いこっ」
 袖を掴んでぐいぐい引っ張っていく彼女。
 もう会うのはやめようと伝えたよう。
 彼女の気持ちに振り回されるのはもうやめだ。
 校舎の鍵を使って開けて、中に入っていく。
「先生、まだこの学校にいたんですね」
「来年には別の中学校に移動だけどね」
 三年周期で変わっていく先生の配属先。
 本来、こう言うのは成人式だったり同窓会で知り得るものだろうけれど、僕の場合は違った。
 目の前に彼女がいて、話を聞くことができて、誰よりも早く情報を知ることができる。そして、誰よりも先生のことを知っているつもりだった。
 なおの一番にはなれないと知っておきながら。
「ここ、なつかしいね」
 いつかなおが泣いていた場所。
 隣で肩をかすことくらいしかできなかった。
 今だったらまだやりようはあっただろうか。
 多少なりとも恋愛経験を積んでいる。
 なのに、どうしてか今も彼女に肩をかすことしかできないとそう思っている。
 結局のところ僕は、彼女の何かを知っているわけではなかった。
「そばにいてくれたことほんと嬉しかったんだぁ。ほら、座って」
 いつかのように隣をポンポンと叩く。
 座ってみても、もう関係性は違う。
 これは今すぐにでもやめなきゃいけない関係。
 昔とは違う。
「なおが、遠足の時、運動会の時、文化祭の時、飲み物を渡してくれたことがすごく嬉しかった」
 渡してくれるたびに甘えてきて、優しくて、もっと一緒にいたいだなんて思えて。
 そんな時間が永遠に続くことを願ってた。
「よく覚えてるね。文化祭でステージ立ってたもんね、徳井君たちと」
「なおだって、覚えてるじゃないですか」
 柄にもなくバンドをやろうと三人でステージに立った。
 徳井はドラムで僕はギター。ベースは中学の頃仲良かった友達。
 高校の人たちには伝えていないし、今年もやる予定はない。
 今から始めても少し時間が足りない。
 もし、ここでやる予定もないのに、文化祭でもう一度バンドやるから聞きにきてくださいなんて言えば、きっと来てしまうのだろう。
 関係を終わらせたいなら、言うべきじゃないことはわかってる。
「ギター必死に練習してたもんねぇ。隣で見てるのすごく楽しかったよ」
「僕は、なおの一番になりたかった」
 隣にいる彼女は、僕の顔を見てくれなかった。
 その横顔が何を思っているのか、暗くてわからない。
 どうして何も言ってくれないのか。
「いつ、結婚したんですか?」
「……とっくに」
「それって、僕の担任になる頃にはいたってことですか」
 頷くだけの彼女。
 じゃあ、もうそれはとっくに不倫じゃないか。
「なんで、言ってくれなかったんですか。言ってくれたら、諦められた」
「本当に?」
「……本当です」
 躊躇ってしまったのは、僕がそう簡単に諦めのつく人ではないと知っているから。
「先生はなんで、僕を選んだんですか?不倫相手にちょうどよかったですか?」
「そう言うんじゃないよ」
「じゃあ、なんで」
「かっこよかったから、大崎君。先生の間でも噂になるくらい。文化祭でステージ立った時なんか、女の先生はみんなイチコロ」
「そんなこと聞いてなくて」
「その頃ね、何もかもうまくいかなくて。旦那は、不倫してるかもしれないって噂もあって最悪で。あなたが、私のこと好きなの知ってたから、少しくらい羽目を外してみてもいいかなって」
「なんですか、それ……。キス、してくれたじゃないですか」
「拒まなかったから」
「だって」
「好きになってくれたんでしょ?わたしのこと」
 その通りだった。
 好きだから何されても何も嫌に思うことはなかった。
 なんでも許せてしまった。
 デートに行けた時は、浮かれてしまって、服装だのヘアワックスだの色々調べた。
「久しぶりに会えて嬉しかった。でも、また旦那とうまく行ってないから、また僕を選んだんですか?」
 それって。
「都合のいい男ですか」
「そこまでは言ってないよ」
 でも、彼女はいまだに僕を見ようとしない。
「今日、ここに来たのは、先生と別れるためです。付き合ってもないけど。今まで、ありがとうございました」
 腰を上げ、階段を降りていく。
「ねぇ、将来はどうするの?教職員になるの?」
 今は到底考えられそうになかった。
「待ってるね」
 先生もわかっているはずだ。
 本気でそんなこと思ってないことも、僕が本気で待ってて欲しいと思ってないことも。
 顔が他より良かったから選ばれた。
 それ以上でも以下でもない。
 きっと顔さえ良ければ誰でも良かった。
 僕は、とっつきやすくて使いやすい操り人形。
 いいように使われたわけだ。
「送って行こうか?」
「大丈夫です」
 一つ一つ階段を降りていく。
 逃げるように走れば、外は雨が降っていた。
 ロマンティックな展開はいらない。
 そんな展開、似合わない。
 僕は、先生を優先して浦間を振ったバカだ。
 誰かの代わりになれない。
 誰かには誰かの一番がいて、誰かの一番に僕がなることはできない。
 もっと先生のことを理解していたら、初めからこんな関係にはならなかったのだろう。
 使われるだけ、使われた。
 それを良しとした。
 騙された方が悪い。
 どっかで気づいていたくせに、気づかないふりした。
 どこまで行ってもバカだ。
 傘を持ってきていない僕は、雨に濡れるしかなかった。
 雨が降っているおかげで、誤魔化せるけど。
 自分だけは、それに気づいてしまう。
 あぁ、最悪な気分だ。
 電話の通知が鳴る。
 徳井だ。
「もしもし」
「おう、大丈夫か」
「大丈夫……。大丈夫だよ……。なぁ、ちゃんと別れを伝えたよ」
「そうか」
「別れたく、なかったよ」
「うん」
「別れるしかないよな。僕は、悪いことしたんだから」
「美術館で見た毒林檎。美味しかったか?」
 酷なことを聞く徳井だ。
「……あぁ、美味しくてさ……っ。泣けてくるよ……っ。なぁ、……こんなにも不味いんだな……」
 魅惑の甘美に誘われて、目が覚めれば、味にも気づいてしまう。
 どうか、醒めないで欲しかった。
「そっち、行こうか?」
「一人で帰れる。ありがとう」
「そう」
「な、徳井。色々、ごめんな。浦間にも藍田にもこのこと黙ってくれてたんだろ」
「……」
 沈黙が答えを意味する。
「あの頃の四人の関係も終わってさ、僕のせいでまた関係が壊れた」
 四人でファミレス行って無駄話をしていた頃。
 浦間と付き合って、二人の時間が増えた頃。
 もう、戻れない。
「徳井、僕は、お前の友達のままでいいのかな……」
 彼にも嫌な思いをさせてしまった。
 気を使うことばかりで、いつもの彼の調子は最近見ない。
「バカなこと言ってると風邪引くぞ。また来週、話聞くよ」
「ありがとう」


 翌日、体調を崩した。
 バカなことをしていたことを思い出した。
 風呂場で冷水を浴びたり、雨の中帰ってきて、湯船に浸かることなくシャワーで済ませて掛け布団もせずに寝てしまったこと。
 久しぶりに熱を出した。
 なのに、思いの外冷静で先生とのこれまでを思い返した。
 いい思い出だった。
 いろんな経験させてもらったなぁ。
 ピコンと通知が鳴る。
『協力して欲しいの』
 藍田から連絡が来た。
 最近、話していなかったが、何かあったのだろうか。
 都合のいい男である僕のことだ。
 協力する他ないだろう。

 熱も引いて学校に行く。
 藍田が、駆け寄ってくる。
「あのさ、既読無視って酷くない?」
「体調崩してたから」
 カサカサの声で答えるとごめんと藍田はいう。
「徳井と浦間を引き離して欲しいの」
「……ん?」
 何もわからないが、どう言うこと?
 久しく浦間と藍田と話してない。
 徳井からも何も聞いていない。
「ちょっとそっちで話そ」
 合図を送ると教室で離れて話を聞く。
 要は、浦間が徳井とこれ以上仲良くするつもりはないと言っておきながら、徳井に悩みを打ち明けるどころか涙を流したと。
 それで、徳井は抱きしめた。
 藍田は、その現場を目撃していたとのこと。
「あの二人いい感じなんだ。いいじゃん」
「どこが!?」
 あまりの気迫に謝った。
「あんたの元カノが、友達に取られるなんて寝取りだよ!」
 その言葉、すごく心が苦しくなる。
「なんで、あなたが苦しそうなの」
「色々あったんだよ。それで、引き離すメリットは?」
 友達のままでいたいなら、それを伝えればいいだけ。
「え、もしかして」
 藍田は、徳井が好きなのか?
 いやいや、まさかー。
 目の前の彼女を見やる。
 頬を少し赤らめている。
「え!?」
「うるさい!」
「まだなんも言ってない」
「いいから、黙って言うこと聞いて!」
「え、あ、はい。わかりました。協力します」
 こうして、僕と藍田の協力関係が出来上がった。