この恋が終わる頃

 遠くに見える浦間と大崎。
 廊下から見える彼らを遠くと表現するにはおかしいのかもしれないが、もう今はあの頃のような面影はどこにもない。
 去年のようにいつもみたく無意味に行っていたファミレスには行く機会も今はなかった。
 二人が別れて一ヶ月。
 関係はあっという間に変化した。
 大崎は俺たちのところに来ることはないし、かといって俺たちから大崎のところに行くわけでもない。
 俺は、部活が一緒だから話すことはあるけれど、浦間、藍田らにしてみればもはや他人というべきか。
 彼は悪い人じゃない。
 いい人であり、人望もある。
 ただ、欠点なのが恋愛が下手くそということだけ。
 俺が言えた話じゃないな。
 難しいな。
 そうだ、あいつのいいところを言えばいいのか。
 ・・・・・・。
 やっぱ、恋愛となるとあまりいいところがない。
 そもそもあいつは見る目がなさすぎる。
 浦間はいい人だし、だれともで仲良くなれる。
 ただ過去の女に似すぎているのが問題だったか。
 あと半年、この状況を続けるのはいささか問題である。
 考えてみたって彼らがよりを戻すことはないのだろう。
「早く教室入りなよ」
 後ろから藍田が話しかけてくる。
 彼女はいつも俺の話を聞いてくれる。
 優しい人の周りには優しい人が集まるのだろう。
 彼女は、俺にたくさんの恋愛アドバイスをくれた。
 今なら、浦間にアタックすることだってできるし、勝算は高い。
 なのに、どうして足踏みしてしまうのだろう。
 きっと、友達としてまたあの頃のように戻りたいのだ。
 くだらない話をして、笑って、それでまた次の日も会って四人で集まるあの時間が何より楽しかった。
「もう無理なのかな」
 藍田に聞いてみる。
 しかし、彼女は何も答えなかった。
「あの二人が、別れた理由なら大体想像つくけどさ、俺、もう少しあの二人見ていたかったな」
「なんで大崎は別れを切り出したの?」
「さぁ。俺は、あいつじゃないからわかんないよ」
 おおよその見当はついている。だけど、言葉にするのは、俺の役目じゃない気がした。
「何か知ってそうじゃん。教えてよ」
 と、普段やらないかわいこぶった声で聞く彼女。
「教えない」
「じゃあ、やっぱ知ってるじゃん」
 肩をポンポンと叩く彼女。
 浦間みたいだ。
「あんまり好きな人の面影寄せるものじゃないよ」
「……」
 言葉に詰まる。
 藍田が浦間に見えただなんて。
「しかも、好きな子の面影を寄せるだなんて」
 じとっと目を向けてくる彼女。
 意外な一面が見れたらしい。
 あまり嬉しくない。
 だって、それは。
「寄せてない寄せてない」
 また何か言われる前に自分に言い聞かせた。
 廊下で話していると浦間が俺たちに気づいた。
 目が合った気がしたが、気づかないふりをして教室から離れる。
「私の腕を引っ張るなんて珍しい」
 彼女はいう。
 仕方ないではないか。
 このまま話していたら、俺が、藍田を好きみたいになる。
 しかも、浦間に見られていた。
 やな話だ。
 少し離れた階段付近で彼女に問う。
「俺は、どうしたらいいと思う。浦間に話しかけて、優しくしていればあいつは俺を好きになると思うか?」
「……別に、勝手にしたら」
 なぜか怒る彼女。
 プイッと背を向けた彼女の正面に入り、肩を掴んで頼み込む。
「頼むって!お願い!浦間のこと、大切にしたいんだ」
「じゃあ、ウジウジしなきゃいいじゃん!」
「なんで、怒るんだよ。難しいから聞いてるのに」
「だったら、告白でもしたら?好きって言ってみたら?あ、そうだ、私が相手になろうか?好きって言ってみなよ」
「話が、違うって。なんで、俺が藍田に好きっていうんだよ」
「……それは」
「俺が、藍田のこと好きなら、今頃言ってるだろ」
「……」
「もういいや。なんか、怒らせたならごめん。奢って欲しいなら、奢る」
 踵を返して、教室に向かった。
 俺を見つけた浦間が声をかけてきた。
「ねねね、好きなの?藍田のこと」
「……は!?」
「だって、さっき腕引っ張ってたじゃん。告白した?」
 見られていた上に、勘違いまでさせてしまっている。
「違う!いや、それはその、告白とかそういうのじゃなくて。なんていうか、友達だから、藍田は」
 必死に弁明する。
 しかし、彼女は、楽しそうに俺をいじる。
「だから、俺が好きなのは」
 目の前にいる彼女。
 大崎だって多分、薄々気づいている。
 夏休みの部活中にもそれとなく聞いてきたくらいだ。
 俺のために別れたわけじゃないくせに、何がかっこいいんだか。
 顔だけでモテてきたお前と俺は違う。
「好きなのは?」
 言葉を詰まらせ、二の句をつげない。
「もういいだろ、ほら、授業始まるって」
 席に戻ろうとする俺の腕を引っ張る。
「これ、かっこよかったよ」
 とだけ言って彼女は席について行った。
 好きでもない男に何勘違いさせてんだ。
 ため息をつく。
 席に着くとき大崎と目が合った。
 いつになく顔がこわばっている。
 スマホを机の下で触る。
 大崎に連絡を送った。
 彼は、友達だ。
 今はもう恋敵でもなんでもない。
『なんかあった?』
『元カノと会ってくる』
「は!?」
 思わず大きな声が出た。
 元カノってすぐ近くにいるじゃねぇか。
『その前の彼女。中学の時の』
 俺の声に気づいた大崎が追加の返信を送ってきた。
「は!?!?」
『うるさいぞ。最近やりとりしてたんだ』
『まじか?お前だってあんだけ辛かったじゃんか』
『会いたいって言われたから』
「会いに行くのか?やめとけよ』
『でも』
『ありえねぇって。きっと碌でもねえこと言われるだけだぞ』
『それでもやっぱ』
 返事が返ってくる前に送る。
『未練あるくせに浦間と付き合ってたのかよ』
『付き合った時、もう吹っ切れたのかと思ってた』
 怒りもあったのだろう。
 少し冷めた気持ちもあったのだろう。
 あの女にまんまと狂わされやがって。
『ごめん、これが最後』
『会ったら、話聞かせろよ。待ってる』
 何度目の最後だよと毒づく。
 だけど、もしこれがうまく行ったんなら、またあの頃のように四人でファミレスに行くこともあるのかもしれないと少し、期待した。