振られた理由はわからないまま。
もう一ヶ月が経とうとしている。
あれ以降、少しずつ話してくれるようになったけれど、それも授業の時だけ。
付き合う前や付き合っていた頃に比べてみれば、とても距離ができている。
『好きじゃなくなった』『他にいい人いると思う』
だなんて言って、彼は理由を話してくれなかった。
あの時、忘れ物をとりに来た徳井を探しにきた大崎は、ちょっと距離を置いて話しかけてきた。
徳井、ここ来なかった?なんてほんの少しの会話。
引き留めた私にため息もつかなかった彼だけれど、内心嫌がっていたのかもしれない。
距離ができれば、会話することもない。
彼は、私と付き合っていなかった頃のいつも通りの生活に戻っていった。
私だけが取り残された。
部活に行っても勉強していても、身が入らない。
あれ、私はどうして彼を好きになったんだっけ。
教室の窓の外に目をやる。
いつもと変わらないはずの景色もいつの間にか木々は赤色を見せ始めていた。
この学校に進学して二ヶ月、徳井と藍田と同じクラスになった。
よく話す仲になった私たちは、ファミレスに行くことに。
放課後、徳井の友達である大崎と廊下をすれ違う。
彼が、大崎を呼び止め一緒にファミレスに行かないかと提案した。
「ああ、いいけど」
妙な大人っぽさを感じた。
身長も高くて、顔立ちもいい。
運動部らしく筋肉質でスタイルが良かった。
「よろしく、大崎です」
爽やかな笑顔にモテるんだろうなと率直に思う。
「私、浦間。で、隣が藍田」
と挨拶を済ませると四人でファミレスに向かう。
彼は話し上手ですぐに仲良くなれた。
ツッコミもするし、ボケもする。
私や藍田がツッコミばかりしていると知ると徳井と同じようにわかりやすいボケを言うようになった。
そんな日が一年生の頃はたまにあった。
文系志望だった私たちは二年生からはクラスが一緒。
いつの間にか大崎と早く同じクラスになりたいと願う自分がいた。
ある日のファミレス。
ドリンクバーをとりに行った藍田と徳井を置いて二人きりになった時。
「早く二年生になりたいね」
なんて彼に言ってみると彼はそうだねと優しく返す。
「ね、気になってたんだけど、好きなタイプとかいないの?ほら、徳井は天真爛漫なお転婆な子が好きじゃん?大崎君は?」
「あー……。それで思い出したんだけど、藍田は好きな人いるの?」
「藍田が好きなんだ」
と、ジト目。
「そう言うんじゃないけど」
「じゃ、なんで藍田の名前が出るのさ」
「いや、徳井だけ知ってるなんてことないと思ってさ。だってほら、藍田と幼馴染なんでしょ?」
「そうだよ。藍田、すぐ隠すからわかんないんだよね」
「好きそうな相手は?」
「好きそうっていえば」
最近、徳井に向ける目も言葉も少し変わったような気がするが気のせいだろうか。
気のせいだと思うと特に変わった話はない。
「いないかも。わかんない、今度聞いてみる」
それで、と言いかけた時、徳井らが戻ってきた。
「何、なんの話?」
テンションの高い徳井だ。
「恋バナ。大崎君、好きな人いるのかなって」
「……」
なぜか徳井はテンションが下がる。
席に戻ると彼が口を開いた。
「大崎は」
「僕も徳井と同じでお転婆な人好きかも」
被せるように言う彼。
何か隠したいようにも見えたけれど、それ以上は深掘りしなかった。
本当にお転婆な子が好きなのか。
「ほら、僕はあんまりテンション高く喋るタイプでもないから。話してくれる子の方がいいなって」
「ふーん」
本当だろうか。
「お前、大人になったな」
と、嘘泣きの徳井。
「黙れ」
頭を叩く大崎は、それ以上踏み込んでほしくなさそうだった。
しかし、お転婆な子なんているだろうか。
そんなの男の前でキャラ作ってる人以外にみたことがない。
可愛い子がやっていれば、あざとく見えたりしていいのかもしれないけれど、女受けは最悪だ。
私は別にそんな可愛くないし。
今もこうやって大崎と話せているのは、徳井がいるからと言う理由だけだ。
もし二人でどっか行こうなんて言ったら烏滸がましいんじゃないだろうか。
「浦間ちゃん、いいじゃん」
と、突然藍田がいう。
「え」
あっけに取られる私。
「いやいや、私だとほら、その」
確かに喋るタイプではあるけれど、前に付き合っていた男子にはうざいと一喝された。あまり思い出したくない話だ。
「僕は、好きだよ。明るくていい人だよね」
「……」
「あ、照れてる」
と、藍田。
「うるさい!」
バシバシ藍田の肩を叩く。
明るくいないとみんな離れていく。
みんな失ってしまう。
そんなのは嫌だ。
許される範囲で甘える。許される範囲で文句を言う。できれば、笑い事になるように。
「えぇ?二人で映画とか行ったら気が合いそうだよ。ほら、前に言ってた映画、二人とも見に行きたそうだったじゃん」
前に藍田に言ったことと言えば、ヒューマンドラマ系の映画。
そこそこ人気ある映画のようでまだ上映はされている。
今時、映画館に足を運ぶ人は少ない。どうせ待てば、家で観れるとみんなお金を払わない。
勿体無いと言うけれど、一緒に来てくれる人はいない。
しかも、お笑い系やビッグネームの映画でもないときた。
「あぁ、あれか。あれ、まだ行ってないんだよね」
と、大崎。
「私も行ってないけど、いく?」
「え、俺も行きたい」
徳井がいう。
「四人でいけばいいか」
初めて、どこかに四人でいくことになった。
それまではこういう店に集まるくらいだったのに。
「土曜日の映画館予約しちゃうね」
大崎がスマホを取り出して近くの映画館を予約。
みんな今週の土曜日は空いているよう。
そうと決まったら、服装を決めねば。
金曜の夜、タンスを開けてガサゴソ取り出す。
まだ春だし、ガーリー系の服装にして髪を束ねてみるのもあり。
短めのスカートにするか。
それともカジュアルに短パンとか?
ダボっとした長袖。
うーん。
決まんないや。
そもそも四人で行くんだし、デートってわけじゃあるまいし。
『お前が何着ても可愛いよ』
元彼と付き合っている時に言われた言葉。
『正直、お前、何着ても可愛くねぇから付き合ってる時きつかったわ』
振られた際に言われた言葉。
私が何を着ても可愛くない。
下手に可愛い系で行くより無難な格好を選んだ方がいいのではないだろうか。
性格のきつい元彼。
付き合う前まではそんな姿一切なくてきっと私がいけないんだって改善するようにしてきた。
でも、別れを切り出した彼は付き合っていた頃よりも別人で。
『私が、嫌なことしたなら謝るから!ねぇなんで、無視するの!?ねぇえ!!直して欲しかったら言ってよ!』
惨めに縋った私を雨の中、突き飛ばした彼は、見向きもせず帰って行った。
受験期だったのもある。
彼は結局、第一志望の学校に落ちた。それを私のせいにするようになった。
そんな自分も嫌で私を振ったんだろうと今になって思う。
これ以上傷つけたくないと彼の友達に吐き捨てていたから。
でも、言葉は消えない。
無理にでも引き剥がす必要ないじゃん。
距離置いて欲しかったなら、言って欲しかったな。
結局、彼は私と同じ学校に通っているけれど、話しかけてくれることはなかった。
そんなことに思い耽っていると、外は暗くなっていた。
日が沈む時間が遅くなってきていると言うのに。
もう十八時半をすぎている。
早く決めないと。
翌日、結局、デニムの長ズボンに白のパーカーにした。
センスもクソもないファッション。
「お待たせー」
藍田が私の服装を見て、ため息をついた。
「なんでそれにしたの」
「無難なものがいいかなって」
「そんなんでいいわけないじゃん」
「藍田ちゃんは似合ってるよ。可愛い」
「今日くらいは、キレイめで行こうと思って」
「似合ってるよ」
と話していると徳井がやってきた。
黒の長ズボンに白の長袖。
似てしまった。
「なんか似てるね。カップルみたい」
と、茶化す藍田。
ペシっと叩くと彼女は、てへっと可愛い顔を見せてくる。
むかつく。
「浦間、今日の格好いいね。可愛い」
と、徳井。
「ほんと?」
一番無難なものを選んで正解だったように思う。
「ほんと、すげぇいい。あとで大崎来たら四人で写真撮ろうぜ」
「いいね」
ワーワー喋ってると大崎が遅れてやってきた。
「ごめん、お待たせ!」
走ってきた彼は、汗一つなく爽やかな笑顔を見せる。
両手を合わせて謝る彼はなんだか可愛い。
ていうか、なんでセットアップの服装できているのか。
「どうかした?」
「お前、映画見にきただけなのになんでそんな洒落てんだよ!」
と、グーパン入れる徳井。
やられたふりをする気のいい大崎。
ノリのいい男って感じ。
「とりあえず、館内入ろ。時間あるし、カフェでも行こか」
「何お前が仕切ってんだ!」
再度、グーパンを入れる徳井。
またもやられたふりをする大崎。
ノリのいい人たちで。子供じゃないんだから。
「あ、ここ」
ついたのはレトロなカフェ。
心なしか高そうだ。
「ちょっと待って。こんな高いところ来るなら、もうちょっといい格好でこればよかった」
大崎の袖を摘んで引き止める。
「そう?似合ってて可愛いし、問題ないよ」
無視して入っていってしまう彼。
「予約してた大崎です」
「お待ちしてました」
予約までしてたのか。
デートでもないのに。
いや、デートだとしてもここ選ぶセンス私にはない。高校生にもないのではなかろうか。
「大崎、お前、ここ絶対あれじゃん」
「黙れ。それ以上ここで話すなよ」
ボソボソ話す彼ら。
「なんの話?」
と、笑顔で聞いてみる。
「なんでもない」
「ここ、おすすめって聞いてさ、みんなで来たかったんだ」
大崎がいう。嘘は言ってないのだろうけれど、なんだか嘘くさい。
「でも、ここ安いんだ」と、藍田。
「そうそう。飲み物だけだったら全然安いかなって」
「確かに」
彼がカフェに詳しいとは思っていなかったから、意外な一面が知れて嬉しい。
思えばもう二ヶ月近く一緒にいる。
それでも知らないところがある。
私も彼らに言っていないこともある。
それはもうこの先、いろいろなことが起こらない限り口から出ることはないことばかり。
映画を見て、また大崎のおすすめの店に足を運ぶ。
一度として行ったことがない、聞いたことがない店を彼は選んでくれた。
ここもまた安めのお店なのに、キレイでスタッフの接客もいい。
「あれ、久しぶり。そっかもう高校生だもんね」
と大崎に話しかける女性スタッフ。大学生くらいだろうか。
「また足を運ぼうと思って。友達、連れてきました」
「今日もいつものにしとく?」
「あー、いや、今日はみんなで決めたのにします」
「了解。じゃあ、また決まったら呼んでね」
席に着くと藍田が口を開いた。
「ここ、よく来るの?」
「よく来るって言うか、受験期によくきてた」
「こいつ、先生にワンツーマンで教えてもらってたんだぜ」
「ばか、言うなよ」
止めにくる大崎。
「ワンツーマンで教えてくれる先生って優しいね」
「こいつ、先生と」
徳井の頭をバシッと叩いて口止めする大崎は、メニュー表を取り出した。
「色々あるけど、どれも美味しいしおすすめだよ。何がいい?」
メニュー表を見ると肉やら魚やら色々あった。
「このフレンチ料理美味しそう」
「それいいよ。美味しかった」
「あ、じゃあ、私これにする」と、私。
それぞれ選んだものを分け合いっこしようと徳井。
せっかくだし、二度くることはなさそうだし、いいかもしれない。
徳井の意見に賛成だった。
この日はとても満足だった。
しかし、その帰り。
元彼である河合に出会った。
顔を隠したもののすぐに見つかってしまう。
これまで話しかけてこなかった彼が、すぐに声をかけてきた。
「久しぶりじゃん、浦間」
「だれ?」
徳井がいう。大崎も気になっている様子。
「浦間の元カレ」
藍田がボソッと彼らに告げる。
「何、ダブルデート?」
「違うよ。河合こそなんで?」
大崎が反応する。
クラスが一緒だということに後から気づいた。
「なんでってこれからバイト。別に申請出せばできるし」
「部活入ってなかったっけ?」
「週一くらいでしか入ってないよ。ほら、平日は何かと部活長引くし」
河合はサッカー部に入っていて、それなりに楽しそうに部活に励んでいたはず。
「休日はだいたい部活じゃなかったっけ」
徳井がいう。
「お前らテニス部ほど強くねぇから休日は自主参加。日曜日にたまに入ってるしお咎めはないよ」
それにしてもと私に目を向ける河合。
「お前、服のセンス変わったな。昔はもっと可愛い系だったろ」
「それは、その」
「まぁいいや。バイト遅れるし、じゃあな」
スタスタ行ってしまう彼。
いまだに引きずっているのがバレたら、私はまた彼にひどい言葉を言われてしまうのだろう。
引き留めたかったけれど、みんなの前でやる勇気はなかった。
「あいつ、初めて見たな」
「結構いいやつだよ。初めて話しかけた時すごい優しかったな」
大崎の言う通り優しいのだ。
私は、うるさくて騒がしい。
彼には合わなかった。
そう思うようにしている。
「なら、俺も仲良くなりテェな。あとで連絡先教えてよ」
「ちょっと、二人とも」
藍田が止めた。
「あ、ごめん。あいつ、なんで別れたの?」
徳井がいう。
バシッと頭を叩く大崎。
「あんま踏み込むなよ」
「それはその……」
「浦間も言いたくなければ、言わなくていい」
ほら、帰ろと彼はいう。
家に着くと元カレである河合から連絡が来ていた。
『久しぶりに会えてよかった。楽しんでね』
彼の優しさは付き合う前と同じだった。
付き合う時期さえ違ったら、きっとこんなふうにいつまでも優しかったのかも知れない。
それはもう理想論だけれど、そうであったら嬉しかった。
「ありがとう」
いつぶりのLINEだろうか。
喧嘩しあったはずのLINEの後に送るにはハードルが高ったんじゃないんだろうか。
今更考えてももう遅い。
だってもう復縁なんて考えていないし、復縁してもまた同じことの繰り返しだと思ってしまうから。
スマホを閉じて瞼を閉じる。
気がつけば寝てしまっていて、翌日はスマホを開くこともせず部活に向かった。
月曜日にいつものメンツに会う。いつも通りの会話。
今はもうこの人たちがいるのだから十分じゃないか。
先生に呼び出され、いつものファミレスへ行くのが遅くなってしまった日。
大崎も顧問に呼ばれ、二人一緒にファミレスに向かうことになった。
会話していても彼は土曜日のことを聞こうとしない。
河合の話はしないつもりなのかも知れない。
優しさなんだと思う。だけど。
「聞いてくれないんだね、河合のこと」
誰かに話したかった。
たとえ、どんなことを言われようとも。
「言いたくなさそうだったし」
彼は静かに答える。
「いいんだよ、聞いてくれて」
「……」
「実はね、中学の頃の彼氏なんだ」
聞くつもりのない彼にいう必要もないのだけれど。
「受験期の前から付き合っててさ、一緒に勉強なんかもして、私よりもいい高校に進学希望だったから彼は私以上に勉強してた」
でも。
「息抜きのつもりで提案したデートも彼は勉強に時間を使いたいと断ってきてさ」
何個か提案したけれど、そのどれもが却下。
「ようやくデートにこじつけたのに彼は私の服装を心のこもってない声で可愛いとか似合ってるとか言ってさ。話してても軽い返事だけ。いつもと違って逆ギレしちゃって。責めたの。そしたら、彼も怒っちゃってさ」
最低だよね、と。
「普通、受験期に遊びに行かないっていうのにね。振られてからは、あんまり関わってない。私が悪かったんだよ」
そうだねとか言って私の過ちを責めて欲しかった。
だけど。
「そんなことないよ。息抜きでもしないと受験期はやってられない。今詰めで勉強したって途中でバテるだけだ」
彼は優しくいう。
「それで、河合がこの学校に来たのは、模試の結果が良くなかったから?」
公立高校で上のレベルを受けて、落ちて仕舞えば、私立の学校に通うことになる。
レベルを下げたのは、親や先生が止めたから。
「模試の結果は合格ラインだったけど、兄弟がいるからだよ。志望校へ余裕で合格するレベルのテスト結果を得てないし、リスクをとった結果、落ちたら学費もすごいことになるでしょ?本人は絶対にいけるからってめちゃくちゃ頭下げてた」
「やるせないな」
「でしょ?それなのに、デートなんか誘っちゃったから私に矛先が向いてさ。仕方ないんだよ、別れたのも、ひどいこと言われたのも」
「八つ当たりみたいなもんだよ」
「……なんで、そんなに庇ってくれるの?最低じゃない?こんな子」
首を横にふる彼。
それでも最低だと言って欲しかった私には誤算だった。
「優しいね」
彼は私に目も向けない。
「そんなことない」
「そっか」
でもさ、と彼は続けた。
「前、向けるといいね。河合も浦間も。過ぎた話だって思えるまで、頑張るしかないね」
私と河合に向けた言葉なのに、なぜか彼自身にも言い聞かせているように聞こえた。
気になったけれど、踏み込むのはやめた。
大崎は、優しいけれど、踏み込まれるのは嫌なタイプだ。
少しでも踏み込まれないように彼は距離を取る。
土曜日の映画前と後のカフェでも彼を茶化す徳井に少し苛立っているように見えた。
徳井の言葉を無視して答えて見せたのは、答えを用意していたからに思う。
踏み込んで、嫌われたくはない。
これ以上、人間関係でミスをしたくない。
それ以降、私と大崎は月に一回の頻度でヒューマンドラマ系の映画を見に行くようになった。
映画の内容が変わったのは、年明け前くらいだった。
コメディ系とか見に行くようになった頃には、私から誘って二人で海に行ったりカラオケに行った。
いつの間にか私は彼を好きになっていた。
何を言っても楽しそうに聞いてくれるし、話してくれる。
辛い時は寄り添ってくれる。
それでも振られた。
別れることになったんだ。
『大崎くんって、元カノどんな感じの子だったの?』
いつか聞いた言葉。
付き合ってから間も無い時。
その時は、さらっと流されてしまった。
別れる一ヶ月前くらいに彼はいつかの答えを出してくれた。
『大人だったよ。すごく大人に見えた。そんなことなかったんだって、気づいたのは、だいぶ後だった』
言葉の意味は理解できないまま。
深く聞いてはいけない気がして、質問しなかった。
最悪、徳井に聞けばいいだろうと考えることをやめた。
それから会う機会も連絡の頻度も彼からは減っていき、あの花火祭りの日に振られた。
突然だったけれど、彼にしてみればそんなことはないだろう。
心を閉ざしたようにも見える。
本心までは知らない。
付き合っていても、わからないことがある。
別れてから、彼のことを知ったら復縁だなんてことあるんだろうか。
もしもあの日、徳井を探しに来た大崎に何か聞けてたなら、もう少し関係性は変わっていただろうか。
恋は辛い。
いつも振られる。
私が何かしたんだ。
何かがわからないからもどかしい。
どうしたらいいのか、検討つかない。
このままの私だったら、きっとまた同じミスをして振られてしまう。
彼といる時くらい明るい私でいたい。
そんな気持ちが痛い。
彼の好きなタイプはお転婆な子。
私はそれになれるだろうか。
もしもう一度なれたら復縁できるだろうか。
目の前の彼に私は今、なんて話しかければいいのだろう。
もう一ヶ月が経とうとしている。
あれ以降、少しずつ話してくれるようになったけれど、それも授業の時だけ。
付き合う前や付き合っていた頃に比べてみれば、とても距離ができている。
『好きじゃなくなった』『他にいい人いると思う』
だなんて言って、彼は理由を話してくれなかった。
あの時、忘れ物をとりに来た徳井を探しにきた大崎は、ちょっと距離を置いて話しかけてきた。
徳井、ここ来なかった?なんてほんの少しの会話。
引き留めた私にため息もつかなかった彼だけれど、内心嫌がっていたのかもしれない。
距離ができれば、会話することもない。
彼は、私と付き合っていなかった頃のいつも通りの生活に戻っていった。
私だけが取り残された。
部活に行っても勉強していても、身が入らない。
あれ、私はどうして彼を好きになったんだっけ。
教室の窓の外に目をやる。
いつもと変わらないはずの景色もいつの間にか木々は赤色を見せ始めていた。
この学校に進学して二ヶ月、徳井と藍田と同じクラスになった。
よく話す仲になった私たちは、ファミレスに行くことに。
放課後、徳井の友達である大崎と廊下をすれ違う。
彼が、大崎を呼び止め一緒にファミレスに行かないかと提案した。
「ああ、いいけど」
妙な大人っぽさを感じた。
身長も高くて、顔立ちもいい。
運動部らしく筋肉質でスタイルが良かった。
「よろしく、大崎です」
爽やかな笑顔にモテるんだろうなと率直に思う。
「私、浦間。で、隣が藍田」
と挨拶を済ませると四人でファミレスに向かう。
彼は話し上手ですぐに仲良くなれた。
ツッコミもするし、ボケもする。
私や藍田がツッコミばかりしていると知ると徳井と同じようにわかりやすいボケを言うようになった。
そんな日が一年生の頃はたまにあった。
文系志望だった私たちは二年生からはクラスが一緒。
いつの間にか大崎と早く同じクラスになりたいと願う自分がいた。
ある日のファミレス。
ドリンクバーをとりに行った藍田と徳井を置いて二人きりになった時。
「早く二年生になりたいね」
なんて彼に言ってみると彼はそうだねと優しく返す。
「ね、気になってたんだけど、好きなタイプとかいないの?ほら、徳井は天真爛漫なお転婆な子が好きじゃん?大崎君は?」
「あー……。それで思い出したんだけど、藍田は好きな人いるの?」
「藍田が好きなんだ」
と、ジト目。
「そう言うんじゃないけど」
「じゃ、なんで藍田の名前が出るのさ」
「いや、徳井だけ知ってるなんてことないと思ってさ。だってほら、藍田と幼馴染なんでしょ?」
「そうだよ。藍田、すぐ隠すからわかんないんだよね」
「好きそうな相手は?」
「好きそうっていえば」
最近、徳井に向ける目も言葉も少し変わったような気がするが気のせいだろうか。
気のせいだと思うと特に変わった話はない。
「いないかも。わかんない、今度聞いてみる」
それで、と言いかけた時、徳井らが戻ってきた。
「何、なんの話?」
テンションの高い徳井だ。
「恋バナ。大崎君、好きな人いるのかなって」
「……」
なぜか徳井はテンションが下がる。
席に戻ると彼が口を開いた。
「大崎は」
「僕も徳井と同じでお転婆な人好きかも」
被せるように言う彼。
何か隠したいようにも見えたけれど、それ以上は深掘りしなかった。
本当にお転婆な子が好きなのか。
「ほら、僕はあんまりテンション高く喋るタイプでもないから。話してくれる子の方がいいなって」
「ふーん」
本当だろうか。
「お前、大人になったな」
と、嘘泣きの徳井。
「黙れ」
頭を叩く大崎は、それ以上踏み込んでほしくなさそうだった。
しかし、お転婆な子なんているだろうか。
そんなの男の前でキャラ作ってる人以外にみたことがない。
可愛い子がやっていれば、あざとく見えたりしていいのかもしれないけれど、女受けは最悪だ。
私は別にそんな可愛くないし。
今もこうやって大崎と話せているのは、徳井がいるからと言う理由だけだ。
もし二人でどっか行こうなんて言ったら烏滸がましいんじゃないだろうか。
「浦間ちゃん、いいじゃん」
と、突然藍田がいう。
「え」
あっけに取られる私。
「いやいや、私だとほら、その」
確かに喋るタイプではあるけれど、前に付き合っていた男子にはうざいと一喝された。あまり思い出したくない話だ。
「僕は、好きだよ。明るくていい人だよね」
「……」
「あ、照れてる」
と、藍田。
「うるさい!」
バシバシ藍田の肩を叩く。
明るくいないとみんな離れていく。
みんな失ってしまう。
そんなのは嫌だ。
許される範囲で甘える。許される範囲で文句を言う。できれば、笑い事になるように。
「えぇ?二人で映画とか行ったら気が合いそうだよ。ほら、前に言ってた映画、二人とも見に行きたそうだったじゃん」
前に藍田に言ったことと言えば、ヒューマンドラマ系の映画。
そこそこ人気ある映画のようでまだ上映はされている。
今時、映画館に足を運ぶ人は少ない。どうせ待てば、家で観れるとみんなお金を払わない。
勿体無いと言うけれど、一緒に来てくれる人はいない。
しかも、お笑い系やビッグネームの映画でもないときた。
「あぁ、あれか。あれ、まだ行ってないんだよね」
と、大崎。
「私も行ってないけど、いく?」
「え、俺も行きたい」
徳井がいう。
「四人でいけばいいか」
初めて、どこかに四人でいくことになった。
それまではこういう店に集まるくらいだったのに。
「土曜日の映画館予約しちゃうね」
大崎がスマホを取り出して近くの映画館を予約。
みんな今週の土曜日は空いているよう。
そうと決まったら、服装を決めねば。
金曜の夜、タンスを開けてガサゴソ取り出す。
まだ春だし、ガーリー系の服装にして髪を束ねてみるのもあり。
短めのスカートにするか。
それともカジュアルに短パンとか?
ダボっとした長袖。
うーん。
決まんないや。
そもそも四人で行くんだし、デートってわけじゃあるまいし。
『お前が何着ても可愛いよ』
元彼と付き合っている時に言われた言葉。
『正直、お前、何着ても可愛くねぇから付き合ってる時きつかったわ』
振られた際に言われた言葉。
私が何を着ても可愛くない。
下手に可愛い系で行くより無難な格好を選んだ方がいいのではないだろうか。
性格のきつい元彼。
付き合う前まではそんな姿一切なくてきっと私がいけないんだって改善するようにしてきた。
でも、別れを切り出した彼は付き合っていた頃よりも別人で。
『私が、嫌なことしたなら謝るから!ねぇなんで、無視するの!?ねぇえ!!直して欲しかったら言ってよ!』
惨めに縋った私を雨の中、突き飛ばした彼は、見向きもせず帰って行った。
受験期だったのもある。
彼は結局、第一志望の学校に落ちた。それを私のせいにするようになった。
そんな自分も嫌で私を振ったんだろうと今になって思う。
これ以上傷つけたくないと彼の友達に吐き捨てていたから。
でも、言葉は消えない。
無理にでも引き剥がす必要ないじゃん。
距離置いて欲しかったなら、言って欲しかったな。
結局、彼は私と同じ学校に通っているけれど、話しかけてくれることはなかった。
そんなことに思い耽っていると、外は暗くなっていた。
日が沈む時間が遅くなってきていると言うのに。
もう十八時半をすぎている。
早く決めないと。
翌日、結局、デニムの長ズボンに白のパーカーにした。
センスもクソもないファッション。
「お待たせー」
藍田が私の服装を見て、ため息をついた。
「なんでそれにしたの」
「無難なものがいいかなって」
「そんなんでいいわけないじゃん」
「藍田ちゃんは似合ってるよ。可愛い」
「今日くらいは、キレイめで行こうと思って」
「似合ってるよ」
と話していると徳井がやってきた。
黒の長ズボンに白の長袖。
似てしまった。
「なんか似てるね。カップルみたい」
と、茶化す藍田。
ペシっと叩くと彼女は、てへっと可愛い顔を見せてくる。
むかつく。
「浦間、今日の格好いいね。可愛い」
と、徳井。
「ほんと?」
一番無難なものを選んで正解だったように思う。
「ほんと、すげぇいい。あとで大崎来たら四人で写真撮ろうぜ」
「いいね」
ワーワー喋ってると大崎が遅れてやってきた。
「ごめん、お待たせ!」
走ってきた彼は、汗一つなく爽やかな笑顔を見せる。
両手を合わせて謝る彼はなんだか可愛い。
ていうか、なんでセットアップの服装できているのか。
「どうかした?」
「お前、映画見にきただけなのになんでそんな洒落てんだよ!」
と、グーパン入れる徳井。
やられたふりをする気のいい大崎。
ノリのいい男って感じ。
「とりあえず、館内入ろ。時間あるし、カフェでも行こか」
「何お前が仕切ってんだ!」
再度、グーパンを入れる徳井。
またもやられたふりをする大崎。
ノリのいい人たちで。子供じゃないんだから。
「あ、ここ」
ついたのはレトロなカフェ。
心なしか高そうだ。
「ちょっと待って。こんな高いところ来るなら、もうちょっといい格好でこればよかった」
大崎の袖を摘んで引き止める。
「そう?似合ってて可愛いし、問題ないよ」
無視して入っていってしまう彼。
「予約してた大崎です」
「お待ちしてました」
予約までしてたのか。
デートでもないのに。
いや、デートだとしてもここ選ぶセンス私にはない。高校生にもないのではなかろうか。
「大崎、お前、ここ絶対あれじゃん」
「黙れ。それ以上ここで話すなよ」
ボソボソ話す彼ら。
「なんの話?」
と、笑顔で聞いてみる。
「なんでもない」
「ここ、おすすめって聞いてさ、みんなで来たかったんだ」
大崎がいう。嘘は言ってないのだろうけれど、なんだか嘘くさい。
「でも、ここ安いんだ」と、藍田。
「そうそう。飲み物だけだったら全然安いかなって」
「確かに」
彼がカフェに詳しいとは思っていなかったから、意外な一面が知れて嬉しい。
思えばもう二ヶ月近く一緒にいる。
それでも知らないところがある。
私も彼らに言っていないこともある。
それはもうこの先、いろいろなことが起こらない限り口から出ることはないことばかり。
映画を見て、また大崎のおすすめの店に足を運ぶ。
一度として行ったことがない、聞いたことがない店を彼は選んでくれた。
ここもまた安めのお店なのに、キレイでスタッフの接客もいい。
「あれ、久しぶり。そっかもう高校生だもんね」
と大崎に話しかける女性スタッフ。大学生くらいだろうか。
「また足を運ぼうと思って。友達、連れてきました」
「今日もいつものにしとく?」
「あー、いや、今日はみんなで決めたのにします」
「了解。じゃあ、また決まったら呼んでね」
席に着くと藍田が口を開いた。
「ここ、よく来るの?」
「よく来るって言うか、受験期によくきてた」
「こいつ、先生にワンツーマンで教えてもらってたんだぜ」
「ばか、言うなよ」
止めにくる大崎。
「ワンツーマンで教えてくれる先生って優しいね」
「こいつ、先生と」
徳井の頭をバシッと叩いて口止めする大崎は、メニュー表を取り出した。
「色々あるけど、どれも美味しいしおすすめだよ。何がいい?」
メニュー表を見ると肉やら魚やら色々あった。
「このフレンチ料理美味しそう」
「それいいよ。美味しかった」
「あ、じゃあ、私これにする」と、私。
それぞれ選んだものを分け合いっこしようと徳井。
せっかくだし、二度くることはなさそうだし、いいかもしれない。
徳井の意見に賛成だった。
この日はとても満足だった。
しかし、その帰り。
元彼である河合に出会った。
顔を隠したもののすぐに見つかってしまう。
これまで話しかけてこなかった彼が、すぐに声をかけてきた。
「久しぶりじゃん、浦間」
「だれ?」
徳井がいう。大崎も気になっている様子。
「浦間の元カレ」
藍田がボソッと彼らに告げる。
「何、ダブルデート?」
「違うよ。河合こそなんで?」
大崎が反応する。
クラスが一緒だということに後から気づいた。
「なんでってこれからバイト。別に申請出せばできるし」
「部活入ってなかったっけ?」
「週一くらいでしか入ってないよ。ほら、平日は何かと部活長引くし」
河合はサッカー部に入っていて、それなりに楽しそうに部活に励んでいたはず。
「休日はだいたい部活じゃなかったっけ」
徳井がいう。
「お前らテニス部ほど強くねぇから休日は自主参加。日曜日にたまに入ってるしお咎めはないよ」
それにしてもと私に目を向ける河合。
「お前、服のセンス変わったな。昔はもっと可愛い系だったろ」
「それは、その」
「まぁいいや。バイト遅れるし、じゃあな」
スタスタ行ってしまう彼。
いまだに引きずっているのがバレたら、私はまた彼にひどい言葉を言われてしまうのだろう。
引き留めたかったけれど、みんなの前でやる勇気はなかった。
「あいつ、初めて見たな」
「結構いいやつだよ。初めて話しかけた時すごい優しかったな」
大崎の言う通り優しいのだ。
私は、うるさくて騒がしい。
彼には合わなかった。
そう思うようにしている。
「なら、俺も仲良くなりテェな。あとで連絡先教えてよ」
「ちょっと、二人とも」
藍田が止めた。
「あ、ごめん。あいつ、なんで別れたの?」
徳井がいう。
バシッと頭を叩く大崎。
「あんま踏み込むなよ」
「それはその……」
「浦間も言いたくなければ、言わなくていい」
ほら、帰ろと彼はいう。
家に着くと元カレである河合から連絡が来ていた。
『久しぶりに会えてよかった。楽しんでね』
彼の優しさは付き合う前と同じだった。
付き合う時期さえ違ったら、きっとこんなふうにいつまでも優しかったのかも知れない。
それはもう理想論だけれど、そうであったら嬉しかった。
「ありがとう」
いつぶりのLINEだろうか。
喧嘩しあったはずのLINEの後に送るにはハードルが高ったんじゃないんだろうか。
今更考えてももう遅い。
だってもう復縁なんて考えていないし、復縁してもまた同じことの繰り返しだと思ってしまうから。
スマホを閉じて瞼を閉じる。
気がつけば寝てしまっていて、翌日はスマホを開くこともせず部活に向かった。
月曜日にいつものメンツに会う。いつも通りの会話。
今はもうこの人たちがいるのだから十分じゃないか。
先生に呼び出され、いつものファミレスへ行くのが遅くなってしまった日。
大崎も顧問に呼ばれ、二人一緒にファミレスに向かうことになった。
会話していても彼は土曜日のことを聞こうとしない。
河合の話はしないつもりなのかも知れない。
優しさなんだと思う。だけど。
「聞いてくれないんだね、河合のこと」
誰かに話したかった。
たとえ、どんなことを言われようとも。
「言いたくなさそうだったし」
彼は静かに答える。
「いいんだよ、聞いてくれて」
「……」
「実はね、中学の頃の彼氏なんだ」
聞くつもりのない彼にいう必要もないのだけれど。
「受験期の前から付き合っててさ、一緒に勉強なんかもして、私よりもいい高校に進学希望だったから彼は私以上に勉強してた」
でも。
「息抜きのつもりで提案したデートも彼は勉強に時間を使いたいと断ってきてさ」
何個か提案したけれど、そのどれもが却下。
「ようやくデートにこじつけたのに彼は私の服装を心のこもってない声で可愛いとか似合ってるとか言ってさ。話してても軽い返事だけ。いつもと違って逆ギレしちゃって。責めたの。そしたら、彼も怒っちゃってさ」
最低だよね、と。
「普通、受験期に遊びに行かないっていうのにね。振られてからは、あんまり関わってない。私が悪かったんだよ」
そうだねとか言って私の過ちを責めて欲しかった。
だけど。
「そんなことないよ。息抜きでもしないと受験期はやってられない。今詰めで勉強したって途中でバテるだけだ」
彼は優しくいう。
「それで、河合がこの学校に来たのは、模試の結果が良くなかったから?」
公立高校で上のレベルを受けて、落ちて仕舞えば、私立の学校に通うことになる。
レベルを下げたのは、親や先生が止めたから。
「模試の結果は合格ラインだったけど、兄弟がいるからだよ。志望校へ余裕で合格するレベルのテスト結果を得てないし、リスクをとった結果、落ちたら学費もすごいことになるでしょ?本人は絶対にいけるからってめちゃくちゃ頭下げてた」
「やるせないな」
「でしょ?それなのに、デートなんか誘っちゃったから私に矛先が向いてさ。仕方ないんだよ、別れたのも、ひどいこと言われたのも」
「八つ当たりみたいなもんだよ」
「……なんで、そんなに庇ってくれるの?最低じゃない?こんな子」
首を横にふる彼。
それでも最低だと言って欲しかった私には誤算だった。
「優しいね」
彼は私に目も向けない。
「そんなことない」
「そっか」
でもさ、と彼は続けた。
「前、向けるといいね。河合も浦間も。過ぎた話だって思えるまで、頑張るしかないね」
私と河合に向けた言葉なのに、なぜか彼自身にも言い聞かせているように聞こえた。
気になったけれど、踏み込むのはやめた。
大崎は、優しいけれど、踏み込まれるのは嫌なタイプだ。
少しでも踏み込まれないように彼は距離を取る。
土曜日の映画前と後のカフェでも彼を茶化す徳井に少し苛立っているように見えた。
徳井の言葉を無視して答えて見せたのは、答えを用意していたからに思う。
踏み込んで、嫌われたくはない。
これ以上、人間関係でミスをしたくない。
それ以降、私と大崎は月に一回の頻度でヒューマンドラマ系の映画を見に行くようになった。
映画の内容が変わったのは、年明け前くらいだった。
コメディ系とか見に行くようになった頃には、私から誘って二人で海に行ったりカラオケに行った。
いつの間にか私は彼を好きになっていた。
何を言っても楽しそうに聞いてくれるし、話してくれる。
辛い時は寄り添ってくれる。
それでも振られた。
別れることになったんだ。
『大崎くんって、元カノどんな感じの子だったの?』
いつか聞いた言葉。
付き合ってから間も無い時。
その時は、さらっと流されてしまった。
別れる一ヶ月前くらいに彼はいつかの答えを出してくれた。
『大人だったよ。すごく大人に見えた。そんなことなかったんだって、気づいたのは、だいぶ後だった』
言葉の意味は理解できないまま。
深く聞いてはいけない気がして、質問しなかった。
最悪、徳井に聞けばいいだろうと考えることをやめた。
それから会う機会も連絡の頻度も彼からは減っていき、あの花火祭りの日に振られた。
突然だったけれど、彼にしてみればそんなことはないだろう。
心を閉ざしたようにも見える。
本心までは知らない。
付き合っていても、わからないことがある。
別れてから、彼のことを知ったら復縁だなんてことあるんだろうか。
もしもあの日、徳井を探しに来た大崎に何か聞けてたなら、もう少し関係性は変わっていただろうか。
恋は辛い。
いつも振られる。
私が何かしたんだ。
何かがわからないからもどかしい。
どうしたらいいのか、検討つかない。
このままの私だったら、きっとまた同じミスをして振られてしまう。
彼といる時くらい明るい私でいたい。
そんな気持ちが痛い。
彼の好きなタイプはお転婆な子。
私はそれになれるだろうか。
もしもう一度なれたら復縁できるだろうか。
目の前の彼に私は今、なんて話しかければいいのだろう。



