この恋が終わる頃

 昔から俺はバカだ。
 バカなりに動けばバカ丸出しで、うまくやろうとすればボロが出る。
 勉強だって得意じゃない。
 進学校とはいえ、コツコツ勉強さえすればどうにかなる。
 恋愛はそうじゃない。
 うまく行かないことばかりで、ウジウジやっていればいつの間にか好きな人は他の人と付き合ってしまう。
 今はチャンスなんだ。
 俺をみてもらえるチャンスなんだ。
 浦間が付き合っている頃、ずっと大崎のことばかり話されて俺はただの友達。
 大崎とは中学からの仲だし、話を聞けるのは嬉しいけれど好きな人から聞かされる話は嬉しくなかった。
 階段を登り奥の教室は扉が閉まっている。
 まだ彼女は一人で泣いているのだろうか。
 なんて声をかければいい。
 なんて伝えてやればいい。
 考えたってどうしようもない。
 数学みたいに答えが出る問題ばかりじゃない。
 国語のように行間は読めない。
 一瞬一瞬を大事にする他ない。
 教室の前、浦間の声がする。
 誰かと話しているのかと思う。
 そっと見やると浦間と大崎が話していた。
 この短い時間に大崎が教室に来ていた。
 あいつは俺と同じ部活だ。
 今は部活中のはず。
 どうしてここに。
 それに、あいつは今日俺に勝手にしろと言った。
 俺が浦間のこと好きだと知ったから。
 浦間と別れるまで知らなかったくせに、なんで二人きりで喋ってんだ。
 振った理由は、大体見当がつく。
 何を話しているのか。
 話がついたのか奥の扉から大崎が出てくる。
 視界の端では浦間、力が抜けたように椅子に座り込んでいた。
「大崎……」
 ボソッと声が漏れる。
「あ、ここにいたのか。顧問が呼んでる。忘れ物取り行くって言ってたのに教室いないからびっくりしたよ」
 ほら、戻るぞといつも通りの口調で言ってくる。
 彼とすれ違った時。
「浦間に何言ったんだ」
「世間話」
 彼は俺との会話に取り合うつもりはないようだった。
 イラついた俺は彼の進行方向を妨害する。
「世間話なわけねぇだろ。大崎から振っといて世間話できる精神状態じゃなかった!」
「好きだね、浦間のこと。大事にしてあげなよ」
「お前」
「だって、そっちの方がいいって。僕はそんな好きになれなかったし、キスもしなかった。お前がもらいなよ」
「…… いつまで引きずってんだよ」
 あくまで友達だ。
 大崎の過去も知ってるし、恋愛から距離を置いていた時期もある。
 振った理由も大体予想つく。
 教師になりたい理由だって同様に。
「浦間じゃ、先生の気持ちはわからなかった」
 やはりと思った。
 彼は中学の頃から何も変わってない。
 浦間のことを振るだろうとは思っていた。
 こんな早くに振るとは思ってなかったけれど。
「浦間には、謝っただけだよ」
 彼は歩を進めた。妨害する気にはなれなかった。
 だけど。
「浦間は!」
 彼に振り返る。
「謝って欲しかったんじゃないだろ。浦間は、ただ」
 次の言葉が出なかった。
 欲しかったのは、なんだったんだろう。
 謝罪じゃないのなら、もっと他に。
「それがわかるのなら、僕の気持ちもわかるでしょ」
 彼は今度こそ俺に振り返ることもせず歩を進めた。
 大崎がいなくなった廊下で思う。
 友達だと思っていたけれど、恋愛一つで変わってしまう関係。
 中学の時くらい仲良くても、一つ掛け違えればどんどん解れていく。
 やめとけって言った女を好きになった方が悪い。
 何度引き留めてもあいつは自分の武器も知らずに、女を好きになった。
 振られた理由が知りたいんじゃないのなら、なんで浦間を振ったんだ。
 あの女ほどの刺激を得られなかったから?
 違う。
 あいつは、あの時のあの女の気持ちが気になってしょうがないのだ。
 それは浦間と似ている。だけど、年齢も背丈も違う。
 顔と性格が似てるってだけ。
 魅了された理由がわからない俺には、この先も大崎の気持ちは理解できないままなのか。
 そうなると、これまで通り友達とはいえない気がした。
 少しずつ変わっていく関係にこの時は気づかないふりをした。
 改善策を考えることも行動することもせず、目を逸らした。