この恋が終わる頃

 三年生、受験シーズン。
 クラスが離れ離れになったのはまた大崎だけだった。
 変わらず三人で廊下を歩き、ファミレスに行く話をしていると向いから大崎が歩いている姿見えた。
「大崎、この後三人でファミレス行くけど来るか?」
 部活も引退して、時間が浮いた私たち。
 受験に向けて勉強しようと言うことでいつかのファミレスに向かうことにしていた。
「あぁ、今日先生と面談だからやめとく」
「まじかよ。三人で行くか。来れるならこいよ」
 ファミレスに着くと受験の教材を広げる。
 徳井は文句を言いながら、ペンを手に取った。
「結局、浦間は大学どこにするか決めたのかよ」
「心理学学ぼうかなって」
「すげぇな」
「徳井は?」
 藍田が聞いた。
「背伸びすんなら藍田の志望校で、余裕を持たせんなら、県内の大学」
「私の場合、余裕あるから教えれるけど」
「パス」
 ガンっと机の下で物音がした。
 徳井が悶絶している。足を蹴られたようだった。
「俺はそれほど余裕ないんでね。受験も県内にする」
「会えないね。四人で」
 かく言うこの四人の仲も少しずつ回復していった。
 そもそも蟠りがあったのは私と大崎なので、迷惑かけてしまったのが実情。
「藍田と同じ大学にしたって、俺の学びたいこと学べんのかよ」
「え、進路指導の先生に言ったから、私の志望校出されたんじゃないの?」
「……」
 図星だったよう。
「お前の学校頭良さそうじゃん。ついていけるか不安だっつうの」
「私が教えるよ」
「……」
 また机下で物音がした。
 どうして徳井は藍田の地雷を踏むのだろうか。
 愛も変わらず、彼女は徳井が好きみたい。
 少し攻めたりはするらしいが、徳井は逃げ回っているらしい。
 男子二人、逃げすぎやしないか。
 そして、踏み込めない女子二人。
 にしてもこの二人は、この距離感が一番仲良いように見える。
「今なら志望校変えれるし、大学入っても教えれる人がいるんだよ?すっごい都合のいい女だよ?どう?」
「俺は、大崎じゃないぞ」
「誠実な恋をしてくれるってこと?」
 最近の藍田は少し諦めているのかこんな大胆な攻め方をする。
 だとしても、大崎を悪く言い過ぎではないだろうか。
「好きならね」
 またも机の下で物音がした。
 地雷踏みが得意な徳井。
 すると、大崎から電話が来た。
「もしもし?」
「まだそっち勉強してんの?」
「してるよ」
「んじゃ、行くわ」
「了解」
 二人に大崎が来ると伝えると噂をすれば来るもんだなと徳井がいう。
 大崎が来ると徐に教材を取り出し、それぞれ勉強を始めた。
 日が暮れて、夜になりお開きとなった。
 自転車でそれぞれ帰路に着く前、大崎が口を開く。
「あのさ、ここの花火祭り行かない?四人で最後の思い出つくろうよ」
 それは去年大崎と二人でいった祭りだった。
「高校最後な」
 と、徳井。
「息抜きにいいね」
 藍田も賛同していた。
 みんな予定空けといてと大崎は言う。

 祭り会場に着くと三人がそれぞれ浴衣姿で待っていた。
 私もまた浴衣姿だ。
 去年とは髪型を少し変えてみたけれど、きっと大崎は気づいてくれる。
 徳井は、無理か。
 くだらない話をながら屋台を回る。
 花火が上がる少し前、藍田が徳井に見惚れていることに気づいた。
 しれっと大崎が私を呼び出し、焼きそばを買いに行こうと言う。
 藍田と徳井が二人きり。
 何もないだろうけれど、場所とっといてと先に行かせた。
「あの二人付き合うのかな」
 私の疑問に彼は言う。
「浦間が一番、二人のこと見てたんじゃん」
「そうだけど」
 結局、徳井は藍田と友達として接している。
 そこは、私が大崎と話す時と同じだ。
 藍田から相談が来ることもあるけれど、変わらないままらしい。
「でも、焼きそば買うつもりもないくせに、よくそんな気を回せたね」
「……」
「徳井が後で怒るかもよ?」
「そうなったら、それはそれでいいよ」
 どうせまた仲直りするんだろうと思った。
 焼きそばは買わず別の芝生に座り込む。
 花火が上がる。
 去年は、恋人同士。振られてしまったけれど、今年は、友達同士で来ている。
 なんの進展もない。
 ただの友達。
 それだけ。
 彼には私に対する気持ちはないし、私もその気持ちはない。
 彼のスマホに通知がなる。なおの文字。
「まだ連絡とってるの?」
「いや、もう連絡とってない」
「ブロックしないんだ」
「大学のこと色々教えてもらっただけ。それ以上のことはないよ」
 と、彼はその場でなおの連絡先をブロックした。
「……」
 花火が終われば、受験に向けて勉強もより一層時間を費やす。
 今日が終われば、またいつもの日常に戻る。
 戻りたくないと一年前の自分なら思うのだろう。
 だけど。
「次に進まなきゃね」
 花火を見て思う。
 一瞬で煌めいて、跡を残して消えていく。
 恋もまた跡を残していく。
 消えない。
 花火みたいに時間が経てば消えてくだなんて嘘だ。
 あの衝撃も、ショックも簡単には癒えない。
 何千発と上がる花火。
 大規模な祭りならではの盛り上がり。
 大学生になったら、四人で会うことは少なくなる。
 もしかしたら、もう会えなくなるかもしれない。
 もう少し、このままでいたいな。
 隣の彼をチラッと見やると目が合った。
 不意に目を逸らす彼。
 恋人じゃないのに、なぜ逸らすのか。
 むしろ、友達だから変な気持ちにさせられてしまうのか。
「……もし、僕が前の恋を引きずってなかったら、今年も二人で見にいってたのかな」
 彼の言葉に耳を傾ける。
 決して、顔には出さない。
 花火の音で聞こえないふりをした。
「今の浦間は、もっといい人がいる、よな……」
 一瞬の煌めきの花火が何千と輝いて夜の静けさと共に消えた。
 今年の花火も終わり。
 来年は、誰といくのだろう。
 それともバイトとかしてもういくことはないのかもしれない。
「行こうか」
 彼は立ち上がる。
 何を思ってそんなこと言うのだろう。
 腰を上げて彼の背を見やる。
「……また浮気されて振られるよ」
 口から不意に出た言葉。
 あの頃、信じたくなくて浮気だなんて彼に向けて言ったことはない。
 もう友達だ。
 今更、やり直すことなんてない。
 だけど。
「大崎が変わってなかったらの話だけどね」
 と、背中を叩く。
 でもわかってる。
 彼は、さっきLINEをブロックしていた。
 情報を聞くために連絡を取り合ってた。
 嘘の下手な彼だ。
 同じことはしないのだろう。
 でも少しやり返したい気持ちにもなる。
「ほら、いこ。二人が待ってるよ」
「あぁ」
 彼の手を交わらせて引っ張る。
 どきっとするだろうか。
 そんなわけないのだろうけれど、チラッと彼を見やる。
 暗くて表情はあまり見えない。
 それでいい気がした。
 あくまで、友達。
 恋人は昔の話。
 また付き合えたら、その時は幸せにしてほしいと思った。