この恋が終わる頃

 地元から大きな川を超えた別地域で花火祭りの催しがある。
 学生の僕らにとって少し遠く電車を普段使わない僕からしてみれば、思い切った選択だったように思う。
 隣には黒髪ボブであどけない笑顔が似合う彼女。
 この日のためにわざわざ浴衣を着てきたらしい。
「似合っていて可愛いよ」
 褒めれば、彼女は嬉しそうだ。
 その顔を見て、普通の彼氏ならば小動物のような可愛さに微笑ましさを抱くのだろう。
 僕は、そう思うことができなかった。
 花火が始まりヨーヨーを片手に持つ彼女が右手を空けて僕の左手に絡ませる。
 彼女はいつもこうやってスキンシップを求めた。
 付き合って一ヶ月。
 一学期の文化祭の少し前に告白されてなんとなく付き合った。
 最初は可愛い子だなと思った。
 妹のいない僕には妹みたいで可愛いだなんて思ったりもした。
 だけど。
「もう一ヶ月だね」
 消えていく何千発の花火。
 彼女の言葉を花火はかき消してくれなかった。
「そろそろさ、その」
 これまでのスキンシップは大抵彼女からのもの。
 僕からしたのはハグくらいのものだ。
 きっとキスやそれより先を求めているのかもしれない。
 彼女は言葉を噤んで、代わりに僕の腕に身を寄せた。
 欲しいのはこの先のこと。一線を越えること。

 でも、僕は、あの歳のあの時のキスを忘れずにいる。

 彼女には、いや、高校の友達にも言わない秘密。
 唯一知っているのは、中学から同じクラスの徳井佑だけ。
「別れよっか」
 花火よりも小さい声が確かに彼女に届いた。
 左手に移し替えていたヨーヨーが地面に落ちて、転がる。
 これが、最初で最後の高校生活での恋だとこの時は思っていた。