記憶喰いの呪剣《ラストメモリア》を、俺は使いたくない

「なんだと」

「この能力解放は、10分しか持ちません。それ以上使い続ければ、代償として記憶を奪われる……。正直、俺はこの呪剣《ラストメモリア》を使いたくありません。ですが……あなたに勝つためには、使うしかないんです」

「ハハハ。俺に勝つだと。生意気な後輩だ」

紅蓮寺は笑った。だが、久遠は勝つ気満々だった。

「紅蓮寺先輩行きます」

久遠は紅蓮寺に向かって剣を振った。

「カーン」

久遠はスピードを上げ、紅蓮寺が攻撃を防いだ直後に、再び剣を振った。


「な、なんだ、このスピードは」

紅蓮寺は防ぐだけで精一杯だった。

「クソッ!この俺がおされてるだと。あんまり調子に乗るなよ」

「爆炎連撃(ばくえんれんげき)」

紅蓮寺は炎をまとった剣を振るい、久遠の連続攻撃を止めた。

「やっぱり、凄いですね、紅蓮寺先輩」

「フッ!」

紅蓮寺は鼻で笑った。

「お前には負けたくはないな。俺も本気で行くぞ」

紅蓮寺は本気を出した。身体全体を炎のオーラが包み込んだ。

「……なんだ、この気。近づくと燃えそうだ」

「久遠、かかってこい」

「うおぉー」

久遠はラストメモリアを振り下ろした。
しかし、剣が紅蓮寺の身体に届く寸前、炎のオーラに阻まれた。

「えっ……!」

久遠は驚き、すぐさま距離を取った。

「どうだ? 俺の炎のオーラは。これが俺の能力だ」

紅蓮寺は不敵な笑みを浮かべた。

「その呪剣《ラストメモリア》でも、俺の炎のオーラは簡単には突破できないぞ」

「なっ……! ラストメモリアの攻撃が通らないだと……?」

久遠は驚きながらも、剣を握り直した。

紅蓮寺の身体を包む炎が、さらに激しく燃え上がった。

「今度は俺から攻めさせてもらう」

次は紅蓮寺が久遠に攻撃を仕掛ける。

「どうした。逃げるだけなのか?」

「……クソッ!どうすればいい……考えろ」

紅蓮寺が近づくたびに熱い炎が久遠を襲う。

「熱い。このままでは負ける」

紅蓮寺は剣を振り下ろした。久遠はそれを受け止めたが、勢いに押されて地面に転がった。

「ハァハァ……く……クソッ」

「これで終わりか?」

「……力が欲しいか?」

久遠の頭にラストメモリアの声が聞こえた。

「……力だと」

「そうだ。その代わり代償として記憶を奪う。それにこの技は危険な技だ」

「なんだと」

「じゃないとお前はアイツに負ける」

久遠は迷っていた。

「迷ってる暇はないぞ。さぁ、どうする?」

「迷ってる時間もない。ラストメモリアお前の力を貸せ」

「ほう。よかろう。だが、お前の記憶を奪わせてもらう」

久遠は叫んだ。

「呪鎧・黒蝕(じゅがい・こくしょく)」

久遠は全身に鎧をまとった。その身体からは、禍々しいオーラが立ち上っていた。

「なんだそれ」

「ラストメモリアの能力の一つだ」

観戦してる人たちは驚いていた。

「朔、あんな能力見たことないぞ。」

「なんか、危険な匂いがする」

「この力……溢れてくる」

(まさか……俺が震えている)

紅蓮寺は震えていた。

「な、なんだよ……その力は……」

先ほどまで余裕の笑みを浮かべていた紅蓮寺の顔から、笑みが消えた。

(まさか……俺が、こいつに恐怖を感じているのか……?)

久遠はラストメモリアを構えた。

「この試合、もう終わらせましょう」

「ふざけるな! この俺が、お前なんかに負けるわけがないだろ!」

紅蓮寺は剣を強く握りしめた。

「爆炎連撃!」

紅蓮寺は炎をまとった剣を振るい、久遠に連続攻撃を仕掛けた。

しかし、久遠は一歩も引かなかった。

「遅い」

久遠は紅蓮寺の攻撃を次々とかわしていく。

「なっ……!」

紅蓮寺が驚いた瞬間、久遠は一気に距離を詰めた。

「これで終わりです」

久遠はラストメモリアを振り下ろした。
「ガキィィン!」

紅蓮寺は剣で受け止めたが、その衝撃で手から剣が弾き飛ばされた。

「まだ、終わらねえ!」

紅蓮寺は飛ばされた剣を拾い上げ、技を放った。

「紅蓮衝」

強烈な一撃を繰り出した。

久遠はそれをまともにくらった。

紅蓮寺の一撃をまともに受け、久遠の身体が大きく吹き飛ばされた。

「ぐっ……!」

「まともに食らったな。これで終わりか?」

久遠は立ち上がろうとした。しかし、身体に力が入らない。

(……このままじゃ、勝てない)

久遠はラストメモリアを握りしめた。

(もっと……力が欲しい)

『ククク……よかろう』

その瞬間、久遠を包む黒いオーラが一気に膨れ上がった。

「なっ……! まだ、こんなに力が残っているのか……!」

紅蓮寺は久遠に向かって剣を振る。
しかし、すぐに避けられ久遠は紅蓮寺に剣を振って傷を負わせた。

「ぐわぁぁぁ」

「紅蓮寺先輩これで終わりです」

久遠の動きが止まった。

紅蓮寺はその場から距離をとった。

その瞬間、久遠の様子がおかしくなった。

「グォォォ……!」

久遠の身体から、先ほどよりも禍々しい黒いオーラが噴き出した。

「おい……久遠?」

久遠は紅蓮寺の呼びかけにも反応しなかった。
次の瞬間、久遠は紅蓮寺に向かって襲いかかった。

「ぐっ……!」

紅蓮寺は攻撃を受け、後方へと吹き飛ばされた。

「試合はここまでだ! 全員、速やかに避難しろ!」

審判の声が試合会場に響き渡った。

綾人と小夜と雪乃は見ていることしかできなかった。

「朔はどうしちゃったんだ」

「わからない」

「それになにあれ?」

「俺も見たことないから知らないんだ」

三人の元に黒刃先生がきた。

「お前らなにしてる早く避難しろ」

「でも朔が」

「いいから避難しろ」

三人は避難を始めた。だが、小夜は途中で立ち止まった。

「おい。なにしてんだ早く避難するぞ」

「そうよ」

「ごめん。綾人君、ゆきちゃん。朔君が心配だから戻るね」

「なに言ってんだやめろ」

「そうよ。小夜が行っても、なにも出来ないでしょ!」

「それでも行くの」

小夜は試合会場に戻っていった。

久遠は暗闇の中にいた。

周囲には何もなく、どこまでも黒い空間が広がっている。

「ここは……どこだ?」

「ここはワシの精神世界だ」

突然、背後から声が聞こえた。

久遠が振り返ると、そこにはラストメモリアの姿があった。

「ラストメモリア……!」

「ククク。お前はワシの力を少しだけ借りたつもりだったのだろう?」

「そうだ。俺はお前の力を少し借りただけだ!」

「だが、力を借りた代償は小さくなかったようだな」

「どういう意味だ?」

「お前は今、ワシの呪いに意識を侵食されている。このままでは、お前自身の意識が闇に呑まれるぞ」

「なっ……!」

久遠は拳を握りしめた。

「そんなはずはない……! 俺は自分の意志で戦っていた!」

「ならば、なぜ暴走した?」

久遠は言葉を失った。

「……くそっ」

「ククク。どうする、久遠朔。このままワシに意識を侵食されるか? それとも、自分の意志で抗うか?」

その瞬間、久遠の足元から黒い手が伸びてきた。

「なっ……!」

黒い手は久遠の足をつかみ、闇の中へと引きずり込もうとする。

「くそっ! 離せ!」

久遠は必死にもがいたが、黒い手は次々と増えていった。

「このままでは……!」

「ククク。もう逃げられんぞ、久遠朔」

黒い手が久遠の身体を覆い始めた。

(俺は……このまま取り込まれるのか?)

久遠は必死に手を伸ばした。

「誰か……助けてくれ!」

その声は、果てしない暗闇の中へと消えていった。

先生たちは、暴走する久遠を紐で取り押さえようとしていた。
だが、久遠は力任せに紐を引きちぎった。

「抑えられない。このままでは我々も危ない!」

「諦めるな! ここで抑えないと、この学園が壊されるぞ!」

黒刃先生は、ほかの先生たちに向かって叫んだ。

「朔君、元に戻って……」

そこにいたのは小夜だった。

「避難しろって言っただろ。早く避難しろ」

黒刃先生が叫んだが、小夜は久遠から目を離さなかった。

小夜は久遠に近づいて行く。
暴走した久遠は、今にも小夜に襲いかかろうとしていた。

「朔君、元に戻って!」

小夜は暴走する久遠に向かって叫んだ。

「馬鹿!久遠に近づくな!」

黒刃先生の制止も、小夜には届かなかった。

「お願い……いつもの朔君に戻って!」

「グォォォ!」

久遠は小夜に向かって剣を振り下ろした。

「やめろおおお!」

黒刃先生の叫びが響いた。

「ザシュッ!」

久遠の剣が小夜を傷つけた。

「きゃあああ!」

小夜はその場に倒れ込んだ。

その瞬間だった。

久遠の意識を覆っていた暗闇に、一筋の光が差し込んだ。

「……なんだ?」

久遠は光に向かって手を伸ばした。

すると、光の向こうから誰かの手が伸びてきた。

その手をつかんだ瞬間、久遠の意識を覆っていた闇が崩れ始めた。

「ワシの呪いに抗うというのか……!」

ラストメモリアの声が響く。

「俺は……俺は……!」

久遠の意識が現実へと引き戻された。

黒い鎧が砕け散り、禍々しいオーラが消えていく。

「……俺は、いったい……」

久遠は目の前に倒れている小夜を見つめた。

「……小夜?」

久遠は震える手で、自分の持っていた剣を見た。

「……俺がやったのか?」

自分の手が、小夜を傷つけた。

その事実を理解した瞬間、久遠は言葉を失った。