記憶喰いの呪剣《ラストメモリア》を、俺は使いたくない

久遠は戦いながら、どうすれば勝てるのかを考えていた。

「どう勝てばいいんだ……。ラストメモリアの能力を上げるか。だけど、能力を上げたら記憶も奪われる」

その瞬間、ラストメモリアが反応した。

「……っ!」

ラストメモリアから何かが流れ込んでくる。

久遠の頭の中に、知らないはずの記憶が次々と浮かび上がってきた。

「……なんだ?」

突然、久遠の頭の中に声が響いた。

『――力を求めるか』

「誰だ……?」

『我が力を解放すれば、お前は勝てる』

久遠はラストメモリアを見つめる。

「……その代わり、俺の記憶を奪うんだろ」

『そうだ』

一瞬、久遠は迷った。

それでも、目の前の敵を見て剣を握り直す。

「……勝つしかない」

久遠がラストメモリアを構える。

「ラストメモリア――」

黒い力が剣から溢れ出す。

「第1段階能力解放」

その瞬間、ラストメモリアの力が一気に増幅した。

「これは凄い力。これはいけるか」

もう一人の久遠も同じように叫んだ。

「第1段階能力解放」

(……やっぱり自分自身だから能力解放するよな)

久遠はもう一人の久遠にたたみかける。
スピードとパワーが上がり、録画しているカメラも追いついていなかった。

「これは凄いな。カメラが追いついてない」

黒刃先生は、訓練場を見下ろせる大きなガラス窓の前に立ち、訓練の様子を見ていた。

そしてそれは夜まで続いた。

「今日はそこまで」

「ハァハァ」

「キツイ」

「もう限界」

「お風呂入りたいわ」

「朔、戻ってお風呂入ろうぜ」

「う、うん」

四人は先にお風呂に入りに行った。
久遠はというと、記憶が奪われていた。

「俺……ここで何してんだ?!」

「何言ってんだ朔。黒刃先生がトーナメントまで訓練する話だったじゃないか」

「覚えてない」

「朔、まさかラストメモリア使って記憶を喰われたのか?」

「……多分」

「今日はどのぐらいラストメモリアを使ったんだ?」

「それもわからない」

「朔、先にお風呂入っててくれ」

「……わかった」

綾人は黒刃先生の元に向かった。

「キャッ」

綾人が急いでいたため、小夜とぶつかりそうになった。

「ごめん」

「そんなに急いでどうしたの?」

「そうよ」

「朔がラストメモリアを使って記憶がないんだ」

「えっ?!」

「嘘?!」

「本当なんだ。だから黒刃先生のところに行くんだ」

「私も行く」

「私も」

三人は黒刃先生の所に走って向かった。

「先生」

「どうした、三人揃って」

「朔ってラストメモリアを使ったんですか?」
「あぁ。使った。だけど、夜までは使わなかった」

「それはどういう意味ですか?」

「これを観たらわかるだろう」

黒刃先生が三人に見せたのは、久遠がラストメモリアを使う場面だった。

「ラストメモリアを使って約10分だった。その後はスプリットセイバーを使った。だが、久遠の身体中にラストメモリアのオーラが残ったままだった」

「それはどういう意味ですか?」

「私にはわからない。普通ならラストメモリアを鞘に戻した時はオーラが消えるだろ?」

「確かに」

「何でラストメモリアを鞘に戻しても、久遠の身体中にラストメモリアのオーラが残っているんだ?」

「……」

三人は顔を見合わせた。

「もしかすると、ラストメモリアが久遠に何かしたのかもしれない」

「何かした?」

綾人が先生に聞き返す。

「ラストメモリアは記憶を喰う剣だ。今までとは違う使い方をしたことで、何かが変わった可能性がある」

「じゃあ、このままずっとオーラが残ったままってことですか?」

小夜が不安そうに尋ねる。

「それは分からない。だが、一つだけ言えることがある」

先生は真剣な表情で三人を見る。

「久遠とラストメモリアの間に、何か変化が起きている」

「だけど、朔は記憶戻るだろ?先生」

「わからないが、明日になったらわかるだろ」

三人の間に沈黙が続いた。
黒刃先生は真剣な表情で続けた。

「お前ら、久遠のことをよく知っているだろ。ラストメモリアを使った時も、その後ケロッとして記憶が戻ったことがあっただろ」

「……はい」

「……うん」

「……」

「今日はここまでだ。お前らゆっくり休め」

三人はそのまま先生の部屋を後にした。

(ハァ……それにしても、久遠がラストメモリアの能力を引き出したとはな)

「小夜、雪乃、少し話さないか?」

「うん」

「わかった」

三人は訓練所から出て、外の空気を吸いに行った。

「外はまだ暑いけど、夜は涼しくなったな」

「うん」

「そうね。朔君のあの能力どうだった?」

「あの録画を見た時、いつもの朔君って思えなかった。なんか……別人の朔君に見えて怖かった」

「俺は凄い力なんだなって思ってたし、なんかやばいって思った」

「私は、震えが止まらなかった。私もいつもの朔君って思えなかった。なんか、別人に見えたわ」

「あれを出し続けると、朔の記憶が奪われるんだよな。録画を見てて聞こえたんだけど、『第1段階能力解放』って」

「私も聞こえた」

「私もよ」

「俺達、久遠に何もできないんだって思った。アイツが苦しんでるのに、何も助けてやれてない」

三人は沈黙が続いた。

「私達も朔君に助けてもらってばかりじゃ駄目よ。今度は私達で朔君を助けたい」

「そうだな」

「そうね」

「悩んでても意味がない。戻るか」

「うん」

「わかったわ」

そして三人は久遠の元へ戻った。
だが、久遠の姿がなかった。

「朔がいねぇ〜」

「嘘でしょ」

「どこに行ったの?」

「わからない。まだそこまで遠くに行ってないはずだ。探すしかない」

「そうね。探しましょう」

「うん」

三人は手分けをして久遠を探した。
訓練所の中を探してもいなかった。

「いたか?」

「いない」

「見つからない」

「もしかしたら学校の校内にいるかもな。校内探そう」

三人は訓練所から出て学校の校内を探した。
なかなか見つからなかった。

「見つかった?」

「全然」

「見つからないわ」

「クソッ。どこに行ったんだよ。もう少し探そう」

小夜は一つだけ、心当たりがあった。

「もしかして」

小夜は走ってそこに向かった。
着いた場所はみんなでよく行くベンチだった。

(ハァハァ。見つけた)

「朔君ここにいたんだ。探したよ」

「君は誰?何で俺の名前を知っているの?」

「何でって友達だからだよ。朔君は何でここにいるの?」

「何でだろう。なんか……ここで誰かと話してた記憶があるんだ」

「そうなんだね。何か覚えているの?誰かといたの」

「思い出せない。思い出そうとしても……顔だけが霧みたいに見えないんだ」

「そうなんだ」

「うん。君はどうしてここに?」

「私は朔君を探してたの。だから早く戻ろう。みんな心配してるから」

「みんな?」

「そう。みんな待ってるよ。帰ろう」

「……うん」