◇◇
【鵜飼くんと仲直りしました】
【心配かけてごめんなさい】
ミュートにしていたクラスのグループトーク画面を開けば、ちょうどそんなメッセージが流れる。
──やっぱり。そろそろだと思った。
──律儀だなぁ、りっくんは。
部屋のベッドに仰向けになったまま、スマホを操作する俺。
中学時代から好きだった子とほんとの恋人同士になれて──記念すべき初めてのキスから数時間が経っていた。
『想くんにだったら外堀を埋められても良い』
『むしろがちがちに囲って、どこにも行けないようにしてほしい』
真っ赤な顔で上目遣いしてくるりっくんが頭から離れない。
「……あー。やばい」
中身のないつぶやきが一人部屋に散る。他の場所だったらキスだけで済まなかった、小川会長もそれが分かってて生徒会室を貸してくれたんだろう。
──小川会長は油断出来ない。
──あの様子だと、なんで俺が生徒会に入ったのかも分かってそうだ。
中学時代、俺がりっくんを好きになった時にはとっくに“阿澄は鵜飼のもの”というイメージが浸透していた。
身近なところから確実に外堀を埋めていく鵜飼が腹立たしかったのと同時に──成程と思った。その手があったか、と。
だから俺は真似することにした。
まずはりっくんと同じ高校に入って、即生徒会役員になった。
ある程度仕事に慣れた頃、クラスの奴らに鵜飼とのことを囃し立てられ困っていたりっくんを『人手がないから』と生徒会に引き入れて、鵜飼が邪魔出来ないところに居場所を作った。あとは指導するという体で一緒に行動しとけば、関わった人たちは俺とりっくんをペアで認識してくれる。
──結果、怖いくらい思い通りにいった。
──朝、小川会長が言ったことがすべてだ。
『そこの鵜飼くん?って子より五十嵐くんの方が、阿澄くんといっしょのイメージある』
アレを聞いた時は心の中で拳を突き上げた。
鵜飼が狭い教室の中でせっせと外堀を埋めている間に、俺は生徒会の活動を通して──学校全体でりっくんを囲い込むことに成功したのだ。
──りっくんが知ったらさすがに引くよな。
一度スマホを離して、軽く目を瞑る。瞼の裏に映るのは、『ほんとに鵜飼くんとカップルになっちゃったらどうしよう』と怯える一か月前のりっくん。
──あれはさすがに可哀想だった。
俺になら良いとは言ってくれたけど、万が一にもあんな顔をさせる可能性があるなら黙っておこう。俺が鵜飼以上に先回りして外堀を埋めてきたことも……最初は偽装だったとはいえ付き合うことに持ち込めて、内心ほくそ笑んだことも。
【良かった!】
【ちゃんと話せたんだな】
【うちらも、変に騒いでごめん】
【阿澄くんは優しいね】
再びスマホを手に取って覗くとりっくんの報告に反応したクラスメイトたちのメッセージで溢れていた。一通り読んで息を吐く。
「……優しい、ね」
俺という彼氏が出来たからといって、りっくんが鵜飼を見放すことはない。
俺がどれだけ先回りして、外堀を埋めたとしても。
幼い頃から隣にいる鵜飼の存在は残り続ける。
──結局、幼なじみが一番強いのか。
もっと。
もっと確実なところまで入り込んで、誰に聞いても“阿澄 理久といえば五十嵐 想”と返ってくるところまで行きたい。
「……なら、次はご両親か」
グループトークを閉じてから、同じアプリ内でりっくんの名前を探して通話ボタンを押す。
一回目のコールですぐに出たのと、うっすら聞こえるテレビの音から今は自宅で──鵜飼と一緒にいるわけじゃないと分かって安堵する。
──相手が彼氏だからかな。明らかに緊張してる。
──電話越しでも可愛いとか反則だろ。
「いきなりごめんね。りっくん、今電話平気?」



