神様になった元カレが、私を溺愛してるのは生贄だからってだけですか!?

〇小春自宅

脱ぎ捨てられたパンプス。
朝食の食器と、散らかったメイク道具の山。
見向きもせずソファに倒れ込む小春。(※長く毛先だけ緩くウェーブ巻きされた髪がハラハラ落ちる)

小春「はぁ...疲れた」

クマがある眠そうな顔でモゾモゾ動き、時計を見る。
時計の針が23:56を指している。

小春(あ、日付が変わる...)

重そうに上半身を上げ、足を引きずるようにテレビ横の棚を開ける。
書類をかき分け、底に1枚綺麗な封筒が入っている。
封筒には【30歳おめでとう】と書かれている。
目を少し見開く。

小春「智也の字、久しぶりに見た......」

ソファに座り、日付が変わる瞬間を見つめる小春。
時計が0時を指すと、丁寧に封筒を開け始める。(※小春の右肩辺りから手元を映す)

小春(もう粘着薄くなってる......)

紙を取り出すと同時に、仕事用カバンが電話の通知で震える。
驚いた小春が、仕事用カバンを漁る。
やっとの思いで見つけ出したスマホの液晶画面に、【お母さん】と書かれている。
小春の眉が怪訝そうに動く。

小春「もしもし。お母さ......」

母「あ、もしもし小春?お誕生日おめでとう」

小春「うん。ありがとう」

母「あなたももう30歳になるのね〜。早いものね〜」

小春「.....,はは、そうだね」

苦笑いをしながら、背筋を伸ばす小春。
目が居心地悪そうに足元をウロウロしてる。

母「そうだ!30にもなったんだし、小春。誰かいい人はいないの?」

スマホを握る手に力が入る。
膝の上に乗っている封筒の文字を見つめる。
目を軽く見開き、苦しそうに口角を上げる。

小春「ごめん!お母さん。まだいないんだよね〜!」

流れる沈黙。
下唇を噛み俯く小春。(※目元が影で暗くなってる。)

小春M「こんなのが、もう5年も続いてる。」

〇小春の回想。(※5年前)

病室の花瓶の水換えをしてる小春。ベッドを背もたれにし、上体を起こしている智也。
小春の手際の良さを、窪んだ瞳で見つめる智也。

智也「毎日...ごめんね」

小春が眉を寄せて、悲しそうな顔をする。(※横髪で智也からは見えない)
髪を耳にかけながら、ふにゃんと目を細め、柔らかく口角を上げる。

小春「謝らないって約束!」

キョトンとした後(※ミニキャラ智也)、微笑む智也。

智也「......ありがとう」

小春「どういたしまして!このくらいお安い御用だよ〜」

花瓶の手入れを終えた小春が窓の外にふと目をやる。
満開で華やかな桜の木が揺れている。
嬉しそうな表情で桜を指さす。

小春「ねぇ!智也見て!桜!」

ゆっくり上体をベッドから離す智也。軽く息を吐く。
慌てた様子で支えに回る小春に背中を支えてもらい、窓の外を見る。
胸辺りを撫でる智也。

智也「ほんとだ、綺麗だねぇ」

小春「ね!綺麗〜」

ベッド脇に座りキラキラした瞳で桜を見る小春。
その様子を愛おしそうに見つめてから、重たい体を前に倒し小春の頬にキスをする智也。
頬に手を当てて赤面した顔で見つめ返す小春。

小春「な、な、何!?いきなりどうしたの!?」

小春の慌てっぷりに口に手を添えて穏やかに吹き出す智也。

智也「桜見てたら、小春ちゃんにキスしたくなっただけ。ダメだった?」

小春「ダメじゃないけど......」

智也「可愛いねぇ」

小春の頭を優しく角張った手で撫でる。
恥ずかしそうに小さくなる小春。
遠い目をしながら、桜を眺める智也。

智也「今年も小春ちゃんと桜が見れて嬉しいなぁ」

小春「......来年も再来年も見れるよ」

智也の顔を見ず、手だけ繋ぐ小春。
智也も離したくないと言いたげに、強く握りしめる。

智也「そうだねぇ」

そこから言葉が続かず、細く血管が浮き出る智也の腕を見つめる小春。
不安げな表情の小春を、寂しそうに抱き寄せる智也。
小春の肩辺りの服が肌に食い込むくらい、強く。

智也「......2年前に行った花火大会、もう1回行きたいな」

小春「へ...?」

少し体を押し返し、智也の顔を驚きを隠せない表情で見つめる小春。
痩せこけた頬でくしゃっと笑う智也。

智也「一緒に行ってくれる?」

スカートをぐしゃりを握りしめる小春。
目にうっすら涙が溜まるのを笑顔で誤魔化す。

小春「うん...っ!私も行きたい!」

〇小春の自宅

智也とのツーショットを眺め上の空。

母「...る、...はる、!...小春!」

小春「っ、!ん、なに?」

母「何じゃないわよ。貴方、30にもなって結婚しないで、どうするのよ。趣味がある訳でもあるまいし」

面倒くさそうに目を閉じる小春。
それとなく相槌で流す。

母「まぁ、いいわ。とりあえず、今日はもう寝なさいね」

小春「うん。ありがとう。おやすみ」

スマホを操作し、左に傾きソファに倒れる。
左手に持ったスマホが床に叩きつけられる。

小春M「智也を亡くしてから、私の生活は廃れていく一方だ。」

小春M「仲良くやってた。だからこそ、迎えた最期が早すぎて」

〇回想(※ダークに寂しい雰囲気で)

病室してぼーっと突っ立ってる小春。(※喪服)
空になったベッドをハイライトの入っていない目で見つめる。

小春「まだ、桜咲いてるよ...」

焦って散ってるみたいな、桜吹雪をバックにそれに見向きもしない小春。

〇小春自宅。

ソファで仰向けになり、左手を天に掲げる。
何も無い薬指。虚ろの瞳。

小春「結婚したかったよ......」

小春M「何度でも過ぎってしまう。智也と結婚出来ていた未来を。」

狐のクッションをお腹の上で抱く。

小春M「徐々に薄れていく智也との記憶が、もういない現実を突きつけてくる」

小春「頑張ったよねぇ。そろそろ、そっちに行ってもいいのかな......智也は.....怒るだろうな」

一筋の涙が、髪の毛に染み込む。

小春(そういえば、怒ったところ見たことないや......)

スーッと寂しそうに目を瞑る。(※鼻先が少し赤い)

〇翌日の朝

ゆっくりと目を開ける。(※目元アップ)
眠そうに目を擦り、スマホを探す。
床に落ちたスマホを貞子のように這いつくばって取り、時間を見る。
7:34。

小春「は!?やばい......!」

ドタバタとタオルと服を持ってお風呂場に走る。
メイクを下地とリップだけ軽く塗る。
髪もボサボサが分からないように、お団子で括る。

小春「よし、!一旦これでいい!行ってきます!!」

飛び出すように家を出る。
カバンの中を確認しながら走ったり。
走ってバス停に向かっていると、目の前を小さい子供がボールを追いかけて走っている。

小春(え......)

道路には急ブレーキを踏んで、止めようとしてるけど勢い余ってるトラックが突っ込んで来ている。
小春は走りながら、青ざめていく。
思考よりも体が軌道を変えて走り出す。
カバンを投げ捨てて、子供に目一杯手を伸ばし、巻き込むように転がり込む。
バン!と鈍い音が響く。

小春(あれ......痛くない...)

子供「っ...おねぇ...さ...」

大粒の涙を流し怯える子供。
ぼやける視界のまま察して自分の体を見ると、真っ赤な血の海の上に寝転がっている。

小春(あ...これ、死ぬやつだ)

覇気がない瞳が子供を捉える。

小春(大丈夫って......安心させないと......)

眠気が来てぐるんと瞳が強制的に閉じる。
脳内の小春が戸惑う。

小春M「何、人間って死ぬ時は案外冷静なわけ...?」

小春M「走馬灯なんて流れない...」

動けることもなく、横たわってる。(※天井から引きのカメラワークで、周りに人が集まってる。救急車を呼んでる人とか)

小春(走馬灯でも、智也とは会えないのね......)

運命に従うように目を閉じる。

小春(これでやっと、同じ場所に行ける)

〇小春の思考?頭の中?

獣の立ち耳がついた紺の着物を身にまとった長髪の男性?が立っている。(※シルエットのみ)

男性「こちらへおいで」

ペタンと座り込んで不思議そうに見つめる小春。(※怯えてはない)