親友と3年ぶりに再会しました

俺はキッチンに立って、カレーをつくっていた。
外に出ることはできない。
夜ご飯は何にしようかと考えていたとき、先週、カレーのルーを買っていたことに気がついたのだ。
忙しいときに作り置きをしようと思って、買っていたもの。

玉ねぎ、じゃがいも、にんじん、豚肉。
このあたりの材料は、普段から自炊をするので、常備してある。
買っておいてよかったと思いながら、材料を炒める。

隣で湊が大きく深呼吸をして、ぐう、と腹の音を鳴らす。
「腹減った~。もうこのまま野菜炒めでもいいかも。」
「味ついてないよ。湊、水をそこの計量カップで測って、鍋の中に入れて。」
「どれくらい?」
「んー。二人分だから……。」
俺はカレールーの箱を見て、分量を調べる。
「350mlくらいかな。」

「俺たち結構食うじゃん?3人分にしようぜ?」
湊が、少し甘えた声でささやく。

「確かに。俺たちこの前ファミレスでもめちゃくちゃ食べてたもんね。そうするか。」
野菜と肉は3人分もないけど。と思いながら、まぁいいかとうなずく。

湊が多めの水を汲み、鍋に流し込む。
ジュワーッという音がした後、徐々に静かになっていく。
ここから煮込むのにしばらくかかる。

「湊、ありがと。先に風呂入りなよ。寝間着は貸すし、タオルは洗濯機の上に用意しといたから。シャンプーとかドライヤーとか化粧水は勝手に使っていいよ。」
「うん、ありがと。」

湊が脱衣所に入っていく。
1人になったキッチンに、カレーを煮込む音と、雨の音が静かに響く。
俺は気が抜けたように座り込む。

……ドキドキする。
湊と一緒にカレーを作っていただけなのに、なんで……。
一緒に勉強していたときからそうだけど、湊の距離が近すぎる。
肩に手を回してきたり、後ろから密着してのぞき込んできたり。
中学のとき、こんな距離感だったっけ?

でも、不思議と嫌じゃなかった。
また昔のように、いや、昔以上に湊が近くにいることに、嬉しさと安心感を感じている自分がいる。

今、顔が赤くなっているだろう。
はぁーー。とため息をついて、うつむく。
こんな姿、湊に見せられない。
俺は、バシャバシャと顔を洗って、湊が出てくるのを待っていた。

湊が風呂から出てきた頃、ちょうどルーを入れてもいい頃合いになった。
ルーを入れて、しばらく経ってから、火を止めて、皿に盛り付ける。

「うわ、うまそう……。」
「じゃあ食べよっか。」
俺は、スプーンを湊の前に置き、手を合わせる。

「「いただきます。」」

スプーンでカレーをすくい、口に入れると、まろやかな旨みが広がる。
「うっま。じゃがいも柔らかっ!」

湊がにっこりと満面の笑みを浮かべて言う。
子供のように目を輝かせて、頬張っている。

「よかった。」
「陽向って、ほんと料理うまいよな。」
「まぁ、昔からよく手伝いとかしてたからね。」
「そうだったな。偉すぎ。」

湊のスプーンは止まる気配がない。
でも、ゆっくりと味わうように食べてくれる。
その姿を見ていると、湊のために作って良かったと、心から思う。
昔から湊は、俺が作ったものを美味しそうに食べてくれる。
だから俺は、湊のために料理をするのが好きだ。

「ん?」
俺が湊のことをじろじろと見すぎていたのか、湊が苦笑いをして首を傾げる。

「いや、何でもないよ。」
俺はわざと視線をそらして、スプーンをすすめた。

ーーー
夕食を食べ終わり、俺も風呂に入って、ゲームをして遊んだ。
中学の頃に一緒にやっていた戦闘ゲーム。
外では雷が鳴り始めて、俺が震えていると、湊が両手を広げて、優しくこちらを見つめてくる。

「おいでよ。」
「……え?」
「雷怖いんだろ?」
「……うん。」
「なら、おいでって。」

俺は黙って、湊のところへ行く。
湊は俺の背中を包むように座り、自然と体が密着する。
また鼓動が早くなってきて、それが湊に伝わらないか心配になるけれど、なぜか離れようとは思えなかった。

ん……?俺の心臓の音ってこんなに大きかったっけ?
なんか共鳴してない?
もしかして、湊の鼓動も早くなっている……?なんで……?

背中から伝わる、湊の鼓動。
中学の別れの時を思い出す。
あのときも湊に後ろから抱きしめられて、湊の鼓動が早かった気がする。

「湊って、今も俺のこと、特別だと思ってくれてる?」
ふいにそんな言葉が、俺の口から漏れた。

湊は驚いたように体を震わせ、一瞬、密着がほどけた。
そして、俺の顔をのぞき込み、俺の首に顔を埋めた。

「……うん。……もちろん。……特別だと思ってる。」
横を見やると、湊の首と耳が真っ赤になっている。

「……親友としてって意味だよね?」
「……うん。」
「……ほんとに?」
「……うーん……。」

しばらく沈黙が流れる。
なんだか気まずくなってしまい、俺は身をよじる。

「ごめん。変なこと聞いて。あっ、もう11時だ。なんか眠くなってきたな。」
全然眠くないけれど、無理矢理言葉を紡ぐ。

そのとき、俺を抱きしめる湊の腕に力がこもる。
腰のあたりに、固いものが当たった。

「……え?」

それが何なのか分かった瞬間、頭の中が真っ白になった。
親友って、一緒にいるだけでこんなふうになるものなのだろうか。
いや、それはさすがに違うだろ。

「……俺、陽向のこと、好きなんだ。」
「……。」

また沈黙が流れる。
湊は、連絡先を消したときのことを、ぽつぽつと話してくれた。

「また陽向に出会って、やっぱり陽向のこと諦められないって思った。今日だって、本当はこんなこと話すつもりじゃなかった。でも……。」
「……。」
「陽向の顔が赤くて……。くっついたときに、心臓の音が早くて……。ひょっとしたら、陽向も俺にドキドキしてくれてるのかなって……。親友でいようと思ったのに、親友でいてくれようとしたのに、ごめん。」
「……。」
「……俺、かっこ悪いな。」

俺の首筋が濡れていくのが分かる。
鼻をすすり始めて、ちょっとくすぐったい。
湊、泣いてるんだ。

「……湊。」
俺は、反射的に、湊の頭をさする。
俺のせいで泣いてほしくない。
湊は、ずっと我慢していたんだ。俺を傷つけないように。

「……湊がかっこ悪かったら、俺はどうなるの?昔から言ってるでしょ、俺の中で湊が一番って。……でも、恋愛感情として湊のことが一番なのかは分からない。」
「……そうだよな。」
「だから、少し時間が欲しい。」
「……え?」
「俺、湊に好きだって言われたの嫌じゃなかった。でも、すぐに答えは出せない。俺の気持ちを整理する時間が欲しい。また湊のこと、傷つけたくないから。」

湊の肩が、大きく震えた。
首筋に触れる湊の涙が、さっきよりも熱く感じた。

俺は、そんな湊が愛おしくなって、湊の頭をさすり続ける。
無言の時間が流れ、雨と雷と湊の鼻をすする音が、部屋に響いていた。

どれくらい時間が経っただろうか。
湊は目を赤く腫らして、それでも笑顔で俺に向き合った。

「それって、まだ陽向のこと、好きでいていいってことだよね?」
改めて言われると恥ずかしくて、湊から目を逸らす。

「……うん。」
「そっか、じゃあ俺、頑張るから。」
「……何を?」
「陽向に好きになってもらえるように、俺、努力するから。」
「お、おう……。」

湊は、笑ったまま首を傾げる。
「陽向、もう眠いんだろ?……隣で寝てもいい?」
「……いや、狭いだろ。」

動揺して狭いと言ってしまったが、俺のベッドはセミダブルだ。
そのとき、大きな雷が轟く。
俺は耳を塞いで、目をギュッとつぶる。

その間に、湊は俺を後ろからそっと抱きしめた。
「ほら、雷。怖いんじゃん?」
そう言って、俺の背中を支えるように、ベッドのほうへ促す。

もう俺は何も言うことができなかった。
湊は電気を消して、俺を抱きしめたまま、一緒に横になった。

湊の体温と鼓動が、俺を守ってくれているように感じた。
外ではまだ雷が鳴っているけれど、だんだんと眠くなってきて、いつの間にか眠りに落ちていた。