親友と3年ぶりに再会しました

その日の夜、風呂上がり。
タオルを肩にかけ、ベッドに座ってスマホを眺める。
メッセージアプリの「湊」のトークルームには、スタンプが1つ表示されていた。
連絡先を交換したときに、「スタンプ送っとくね」と湊が送信してきたもの。

まさか今日、連絡先を交換することになるとは思わなかった。
こんな日がくるとは、想像もしていなかったし。
急すぎて戸惑ったけれど、またこうして繋がりができたことは、素直に嬉しかった。

少しにやつきながら、今日ファミレスで撮った写真でも送るか、と写真ライブラリをスクロールする。

ナイフを入れたあと、チーズがとろけ出しているハンバーグ。
生クリームの上に、イチゴがのったパフェ。
一口あげたパフェを、目を見開いて美味しそうに頬張る湊。
フォークでパスタをぐるぐる巻いている真剣な表情の湊。
かき氷で頭がキーンとして、目をギュッとつぶる湊。

思ったよりもたくさん湊の写真を撮っているな。
どんだけ俺、テンション上がってたんだよ。

ふと、ライブラリを遡ってみる。高校時代の写真を通り過ぎ、中学時代へ。

遠足の日、山頂で、おにぎりを頬張る湊。
骨折から復活して、バレーの試合でアタックを決める湊。
家に遊びに来た日に、昼寝をしている湊。
そして、卒業式の日、校門の前で撮ったツーショット。

懐かしい写真で埋め尽くされている。
あ、そういえば……。今日ツーショットを撮るの忘れたな。

そんなことを思いながら、ライブラリを行ったり来たりする。
しばらく見ていなかったけれど、湊と過ごした時間が、鮮明に蘇ってくる。
こうやって見ると、本当にかけがえのない時間だったな。
一回離れても、またこうやって出会えるって、どれだけの奇跡なんだろう。

湊のことを、俺はどう思っているのか?
連絡が取れなくなったから、嫌いなのか。友達じゃなくなったのか。
いや、違うと思う。
俺の中で、やっぱり湊は親友だ。

そんなことを思いながら、今日の写真を、メッセージアプリのアルバムに追加した。
<今日はありがとう。二人で写真撮るの忘れたね(汗)。久しぶりに話せて楽しかった!>
そんなメッセージを添えて。

ふぅ。と息を吐いて横になる。
なんだか眠たくなってきた。スマホを充電コードに差し込んで、電気を消そうとしたとき。
ピロンとスマホが鳴る。

湊から返事が来ていた。
<こちらこそ!急に誘ったのに、ありがとう。>

シンプルな湊のメッセージ。
そして、湊は、3枚の写真をアルバムに追加してきた。
自分が頼んだペペロンチーノとかき氷の写真。俺が、生クリームを口の端につけている写真。

なんでそんなもの撮っているんだよと思いながら、にやっとしてしまった。

<うん、また一緒に行こう!てか、俺の写真いらない(笑)。恥ずかしいから消しといて。>
<消さない。いい写真だから(笑)。俺もまた一緒に行きたい。おやすみ!>

クリームを口につけたキャラクターのスタンプが送られてきた。
おい、馬鹿にしてるだろと思ったけれど、まぁいいかと思って、おやすみスタンプを送っておいた。

スマホを置いて、ベッドに寝転ぶ。
今日は、湊とたくさん話せた1日だった。
まるであのときに戻ったみたいに。

またこうやってメッセージをやりとりできたことの嬉しさを噛みしめながら、眠りにつく。
その夜は、中学のときの夢を見た。湊と過ごした時間の夢。

湊が後ろから俺をそっと抱きしめて囁く。
「俺を見つけてくれてありがとう。陽向だけが、俺の特別。」

よっぽど俺のことを大事に思ってくれていたんだろうな。
俺も、湊のこと、特別な親友だと思っていたよ。

ーーー
一緒にファミレスに行った日から、バイト終わり、湊と一緒に帰ることが増えた。
夏休みなので、シフトもよく被るし、終わる時間も大体同じ。
たまにあのファミレスでご飯を食べて帰ることもある。

いつも俺たちは、しばらく一緒に自転車で走って、古い旅館がある曲がり角で別れる。

「湊って一人暮らしだよね?どこに住んでるの?」
「一人暮らしっていうか……。俺は学生寮に住んでる。」
「学生寮?!俺と一緒に帰ったら、遠回りじゃない?!」
「まぁそうなんだけど。……陽向と一緒に帰りたいから。」

学生寮って、塾から出て、すぐの信号を曲がった方が近いと思うんだけど。
そんなに俺と一緒に帰りたいのか。

「そんなに?まぁいいけど……。無理して俺に合わせようとしなくていいからね。」
「うん。全然無理してないよ。」

気まずそうな、嬉しそうな、微妙な表情をする湊。
大学生になった湊は、何を考えているのか分からないけれど、ついてきたいなら、ついてくればいいか。
俺も、湊と一緒に帰れるの、嬉しいし。

ファミレスで食事をしている時間も、こうやって一緒に帰る時間も、なんだか懐かしい。
空白の3年間があるのに、それがなかったかのように、思えてくる。
湊は俺に「嫌な思いなんてさせられてない。」と言っていた。
だったら、今も友達でいられるかは、湊に聞くんじゃなくて、自分はどう思っているのかを伝えたほうがいいんじゃないか。

「なんかさぁ。中学のときもこうやって一緒に帰ってたよな。」
「うん……。」

少しの沈黙が流れる。

「あのときみたいに、俺は今も湊と友達でいたいと思ってるよ。……できれば親友で。中学のときのこと思い出して、やっぱり湊と過ごした時間って、大事だったなって思ったんだよね。連絡を取ってない時期もあったけど、その時間がなくなるわけじゃないんだし。」
「……。」

湊が、俺のほうを見て固まる。
目の前にある電柱と激突しそうになって、俺は慌てて叫ぶ。
「湊?!危ない。ぶつかるよ!」

ハッとした湊が、とっさにハンドルを切って、ブレーキをかける。
キキィィィ……。

「ご、ごめん……。ありがとう。」
「どうしたんだよ。」
「……いや、びっくりして。俺から連絡しなくなったのに、陽向から親友でいたいなんて言ってくれるとは思わなかった。」
「そっか。でも俺は本気でそう思ってるから。湊がどう思うかは、自由だけど。同じ気持ちだったら嬉しい。」

湊は、ちょっと困ったように首を傾げる。
でも、すぐに満面の笑みで俺に笑いかける。

「うん……俺も陽向と親友でいたいって思ってる。ありがとう。」
特徴的なえくぼが愛らしい。

また走り出して、すぐにあの古い旅館が見えてくる。
湊が俺に向かって手を振る。

「バイバイ、また明日な。」
「うん、また明日。」

なんとなく自転車を止めて、遠ざかる湊の後ろ姿を見送った。

目の前には、旅館がたたずんでいる。
瓦屋根の、玄関が少し広い、伝統的な木造の旅館。
夕方になって、ライトアップが始まっている。
建物の下から、やわらかな光が旅館を照らしている。

当たり前だけど、旅館自体は、俺と湊が出会うずっと前からあるんだろうなと思った。
ライトアップは、最近始まったものかもしれないけれど。

3年なんて、その長い時間の中ではほんの一瞬なのかもしれない。
時間が経って、変わっていくものもあるだろうけど、変わらないものもあるだろう。

俺たちも、昔と全く同じように過ごすのは難しいかもしれない。
それでも、変わらず一緒にいられるなら、それでいい気もする。
そんなことを思いながら、自転車のペダルを踏み込み、帰路についた。