その日の夜、風呂上がり。
タオルを肩にかけ、ベッドに座ってスマホを眺める。
メッセージアプリの「湊」のトークルームには、スタンプが1つ表示されていた。
連絡先を交換したときに、「スタンプ送っとくね」と湊が送信してきたもの。
まさか今日、連絡先を交換することになるとは思わなかった。
こんな日がくるとは、想像もしていなかったし。
急すぎて戸惑ったけれど、またこうして繋がりができたことは、素直に嬉しかった。
少しにやつきながら、今日ファミレスで撮った写真でも送るか、と写真ライブラリをスクロールする。
ナイフを入れたあと、チーズがとろけ出しているハンバーグ。
生クリームの上に、イチゴがのったパフェ。
一口あげたパフェを、目を見開いて美味しそうに頬張る湊。
フォークでパスタをぐるぐる巻いている真剣な表情の湊。
かき氷で頭がキーンとして、目をギュッとつぶる湊。
思ったよりもたくさん湊の写真を撮っているな。
どんだけ俺、テンション上がってたんだよ。
ふと、ライブラリを遡ってみる。高校時代の写真を通り過ぎ、中学時代へ。
遠足の日、山頂で、おにぎりを頬張る湊。
骨折から復活して、バレーの試合でアタックを決める湊。
家に遊びに来た日に、昼寝をしている湊。
そして、卒業式の日、校門の前で撮ったツーショット。
懐かしい写真で埋め尽くされている。
あ、そういえば……。今日ツーショットを撮るの忘れたな。
そんなことを思いながら、ライブラリを行ったり来たりする。
しばらく見ていなかったけれど、湊と過ごした時間が、鮮明に蘇ってくる。
こうやって見ると、本当にかけがえのない時間だったな。
一回離れても、またこうやって出会えるって、どれだけの奇跡なんだろう。
湊のことを、俺はどう思っているのか?
連絡が取れなくなったから、嫌いなのか。友達じゃなくなったのか。
いや、違うと思う。
俺の中で、やっぱり湊は親友だ。
そんなことを思いながら、今日の写真を、メッセージアプリのアルバムに追加した。
<今日はありがとう。二人で写真撮るの忘れたね(汗)。久しぶりに話せて楽しかった!>
そんなメッセージを添えて。
ふぅ。と息を吐いて横になる。
なんだか眠たくなってきた。スマホを充電コードに差し込んで、電気を消そうとしたとき。
ピロンとスマホが鳴る。
湊から返事が来ていた。
<こちらこそ!急に誘ったのに、ありがとう。>
シンプルな湊のメッセージ。
そして、湊は、3枚の写真をアルバムに追加してきた。
自分が頼んだペペロンチーノとかき氷の写真。俺が、生クリームを口の端につけている写真。
なんでそんなもの撮っているんだよと思いながら、にやっとしてしまった。
<うん、また一緒に行こう!てか、俺の写真いらない(笑)。恥ずかしいから消しといて。>
<消さない。いい写真だから(笑)。俺もまた一緒に行きたい。おやすみ!>
クリームを口につけたキャラクターのスタンプが送られてきた。
おい、馬鹿にしてるだろと思ったけれど、まぁいいかと思って、おやすみスタンプを送っておいた。
スマホを置いて、ベッドに寝転ぶ。
今日は、湊とたくさん話せた1日だった。
まるであのときに戻ったみたいに。
またこうやってメッセージをやりとりできたことの嬉しさを噛みしめながら、眠りにつく。
その夜は、中学のときの夢を見た。湊と過ごした時間の夢。
湊が後ろから俺をそっと抱きしめて囁く。
「俺を見つけてくれてありがとう。陽向だけが、俺の特別。」
よっぽど俺のことを大事に思ってくれていたんだろうな。
俺も、湊のこと、特別な親友だと思っていたよ。
ーーー
一緒にファミレスに行った日から、バイト終わり、湊と一緒に帰ることが増えた。
夏休みなので、シフトもよく被るし、終わる時間も大体同じ。
たまにあのファミレスでご飯を食べて帰ることもある。
いつも俺たちは、しばらく一緒に自転車で走って、古い旅館がある曲がり角で別れる。
「湊って一人暮らしだよね?どこに住んでるの?」
「一人暮らしっていうか……。俺は学生寮に住んでる。」
「学生寮?!俺と一緒に帰ったら、遠回りじゃない?!」
「まぁそうなんだけど。……陽向と一緒に帰りたいから。」
学生寮って、塾から出て、すぐの信号を曲がった方が近いと思うんだけど。
そんなに俺と一緒に帰りたいのか。
「そんなに?まぁいいけど……。無理して俺に合わせようとしなくていいからね。」
「うん。全然無理してないよ。」
気まずそうな、嬉しそうな、微妙な表情をする湊。
大学生になった湊は、何を考えているのか分からないけれど、ついてきたいなら、ついてくればいいか。
俺も、湊と一緒に帰れるの、嬉しいし。
ファミレスで食事をしている時間も、こうやって一緒に帰る時間も、なんだか懐かしい。
空白の3年間があるのに、それがなかったかのように、思えてくる。
湊は俺に「嫌な思いなんてさせられてない。」と言っていた。
だったら、今も友達でいられるかは、湊に聞くんじゃなくて、自分はどう思っているのかを伝えたほうがいいんじゃないか。
「なんかさぁ。中学のときもこうやって一緒に帰ってたよな。」
「うん……。」
少しの沈黙が流れる。
「あのときみたいに、俺は今も湊と友達でいたいと思ってるよ。……できれば親友で。中学のときのこと思い出して、やっぱり湊と過ごした時間って、大事だったなって思ったんだよね。連絡を取ってない時期もあったけど、その時間がなくなるわけじゃないんだし。」
「……。」
湊が、俺のほうを見て固まる。
目の前にある電柱と激突しそうになって、俺は慌てて叫ぶ。
「湊?!危ない。ぶつかるよ!」
ハッとした湊が、とっさにハンドルを切って、ブレーキをかける。
キキィィィ……。
「ご、ごめん……。ありがとう。」
「どうしたんだよ。」
「……いや、びっくりして。俺から連絡しなくなったのに、陽向から親友でいたいなんて言ってくれるとは思わなかった。」
「そっか。でも俺は本気でそう思ってるから。湊がどう思うかは、自由だけど。同じ気持ちだったら嬉しい。」
湊は、ちょっと困ったように首を傾げる。
でも、すぐに満面の笑みで俺に笑いかける。
「うん……俺も陽向と親友でいたいって思ってる。ありがとう。」
特徴的なえくぼが愛らしい。
また走り出して、すぐにあの古い旅館が見えてくる。
湊が俺に向かって手を振る。
「バイバイ、また明日な。」
「うん、また明日。」
なんとなく自転車を止めて、遠ざかる湊の後ろ姿を見送った。
目の前には、旅館がたたずんでいる。
瓦屋根の、玄関が少し広い、伝統的な木造の旅館。
夕方になって、ライトアップが始まっている。
建物の下から、やわらかな光が旅館を照らしている。
当たり前だけど、旅館自体は、俺と湊が出会うずっと前からあるんだろうなと思った。
ライトアップは、最近始まったものかもしれないけれど。
3年なんて、その長い時間の中ではほんの一瞬なのかもしれない。
時間が経って、変わっていくものもあるだろうけど、変わらないものもあるだろう。
俺たちも、昔と全く同じように過ごすのは難しいかもしれない。
それでも、変わらず一緒にいられるなら、それでいい気もする。
そんなことを思いながら、自転車のペダルを踏み込み、帰路についた。
タオルを肩にかけ、ベッドに座ってスマホを眺める。
メッセージアプリの「湊」のトークルームには、スタンプが1つ表示されていた。
連絡先を交換したときに、「スタンプ送っとくね」と湊が送信してきたもの。
まさか今日、連絡先を交換することになるとは思わなかった。
こんな日がくるとは、想像もしていなかったし。
急すぎて戸惑ったけれど、またこうして繋がりができたことは、素直に嬉しかった。
少しにやつきながら、今日ファミレスで撮った写真でも送るか、と写真ライブラリをスクロールする。
ナイフを入れたあと、チーズがとろけ出しているハンバーグ。
生クリームの上に、イチゴがのったパフェ。
一口あげたパフェを、目を見開いて美味しそうに頬張る湊。
フォークでパスタをぐるぐる巻いている真剣な表情の湊。
かき氷で頭がキーンとして、目をギュッとつぶる湊。
思ったよりもたくさん湊の写真を撮っているな。
どんだけ俺、テンション上がってたんだよ。
ふと、ライブラリを遡ってみる。高校時代の写真を通り過ぎ、中学時代へ。
遠足の日、山頂で、おにぎりを頬張る湊。
骨折から復活して、バレーの試合でアタックを決める湊。
家に遊びに来た日に、昼寝をしている湊。
そして、卒業式の日、校門の前で撮ったツーショット。
懐かしい写真で埋め尽くされている。
あ、そういえば……。今日ツーショットを撮るの忘れたな。
そんなことを思いながら、ライブラリを行ったり来たりする。
しばらく見ていなかったけれど、湊と過ごした時間が、鮮明に蘇ってくる。
こうやって見ると、本当にかけがえのない時間だったな。
一回離れても、またこうやって出会えるって、どれだけの奇跡なんだろう。
湊のことを、俺はどう思っているのか?
連絡が取れなくなったから、嫌いなのか。友達じゃなくなったのか。
いや、違うと思う。
俺の中で、やっぱり湊は親友だ。
そんなことを思いながら、今日の写真を、メッセージアプリのアルバムに追加した。
<今日はありがとう。二人で写真撮るの忘れたね(汗)。久しぶりに話せて楽しかった!>
そんなメッセージを添えて。
ふぅ。と息を吐いて横になる。
なんだか眠たくなってきた。スマホを充電コードに差し込んで、電気を消そうとしたとき。
ピロンとスマホが鳴る。
湊から返事が来ていた。
<こちらこそ!急に誘ったのに、ありがとう。>
シンプルな湊のメッセージ。
そして、湊は、3枚の写真をアルバムに追加してきた。
自分が頼んだペペロンチーノとかき氷の写真。俺が、生クリームを口の端につけている写真。
なんでそんなもの撮っているんだよと思いながら、にやっとしてしまった。
<うん、また一緒に行こう!てか、俺の写真いらない(笑)。恥ずかしいから消しといて。>
<消さない。いい写真だから(笑)。俺もまた一緒に行きたい。おやすみ!>
クリームを口につけたキャラクターのスタンプが送られてきた。
おい、馬鹿にしてるだろと思ったけれど、まぁいいかと思って、おやすみスタンプを送っておいた。
スマホを置いて、ベッドに寝転ぶ。
今日は、湊とたくさん話せた1日だった。
まるであのときに戻ったみたいに。
またこうやってメッセージをやりとりできたことの嬉しさを噛みしめながら、眠りにつく。
その夜は、中学のときの夢を見た。湊と過ごした時間の夢。
湊が後ろから俺をそっと抱きしめて囁く。
「俺を見つけてくれてありがとう。陽向だけが、俺の特別。」
よっぽど俺のことを大事に思ってくれていたんだろうな。
俺も、湊のこと、特別な親友だと思っていたよ。
ーーー
一緒にファミレスに行った日から、バイト終わり、湊と一緒に帰ることが増えた。
夏休みなので、シフトもよく被るし、終わる時間も大体同じ。
たまにあのファミレスでご飯を食べて帰ることもある。
いつも俺たちは、しばらく一緒に自転車で走って、古い旅館がある曲がり角で別れる。
「湊って一人暮らしだよね?どこに住んでるの?」
「一人暮らしっていうか……。俺は学生寮に住んでる。」
「学生寮?!俺と一緒に帰ったら、遠回りじゃない?!」
「まぁそうなんだけど。……陽向と一緒に帰りたいから。」
学生寮って、塾から出て、すぐの信号を曲がった方が近いと思うんだけど。
そんなに俺と一緒に帰りたいのか。
「そんなに?まぁいいけど……。無理して俺に合わせようとしなくていいからね。」
「うん。全然無理してないよ。」
気まずそうな、嬉しそうな、微妙な表情をする湊。
大学生になった湊は、何を考えているのか分からないけれど、ついてきたいなら、ついてくればいいか。
俺も、湊と一緒に帰れるの、嬉しいし。
ファミレスで食事をしている時間も、こうやって一緒に帰る時間も、なんだか懐かしい。
空白の3年間があるのに、それがなかったかのように、思えてくる。
湊は俺に「嫌な思いなんてさせられてない。」と言っていた。
だったら、今も友達でいられるかは、湊に聞くんじゃなくて、自分はどう思っているのかを伝えたほうがいいんじゃないか。
「なんかさぁ。中学のときもこうやって一緒に帰ってたよな。」
「うん……。」
少しの沈黙が流れる。
「あのときみたいに、俺は今も湊と友達でいたいと思ってるよ。……できれば親友で。中学のときのこと思い出して、やっぱり湊と過ごした時間って、大事だったなって思ったんだよね。連絡を取ってない時期もあったけど、その時間がなくなるわけじゃないんだし。」
「……。」
湊が、俺のほうを見て固まる。
目の前にある電柱と激突しそうになって、俺は慌てて叫ぶ。
「湊?!危ない。ぶつかるよ!」
ハッとした湊が、とっさにハンドルを切って、ブレーキをかける。
キキィィィ……。
「ご、ごめん……。ありがとう。」
「どうしたんだよ。」
「……いや、びっくりして。俺から連絡しなくなったのに、陽向から親友でいたいなんて言ってくれるとは思わなかった。」
「そっか。でも俺は本気でそう思ってるから。湊がどう思うかは、自由だけど。同じ気持ちだったら嬉しい。」
湊は、ちょっと困ったように首を傾げる。
でも、すぐに満面の笑みで俺に笑いかける。
「うん……俺も陽向と親友でいたいって思ってる。ありがとう。」
特徴的なえくぼが愛らしい。
また走り出して、すぐにあの古い旅館が見えてくる。
湊が俺に向かって手を振る。
「バイバイ、また明日な。」
「うん、また明日。」
なんとなく自転車を止めて、遠ざかる湊の後ろ姿を見送った。
目の前には、旅館がたたずんでいる。
瓦屋根の、玄関が少し広い、伝統的な木造の旅館。
夕方になって、ライトアップが始まっている。
建物の下から、やわらかな光が旅館を照らしている。
当たり前だけど、旅館自体は、俺と湊が出会うずっと前からあるんだろうなと思った。
ライトアップは、最近始まったものかもしれないけれど。
3年なんて、その長い時間の中ではほんの一瞬なのかもしれない。
時間が経って、変わっていくものもあるだろうけど、変わらないものもあるだろう。
俺たちも、昔と全く同じように過ごすのは難しいかもしれない。
それでも、変わらず一緒にいられるなら、それでいい気もする。
そんなことを思いながら、自転車のペダルを踏み込み、帰路についた。
