「うおおおおお!ちょ、陽向、右、右!」
「タクヤ、正面の敵もやばいんだって!」
「エーイチ、お前何してんの!」
タクヤが必死の形相で叫ぶ。
「「「ああああぁぁぁぁぁ。」」」
ゲームのコントローラーを膝の上に置く。
今日は俺の家で、試験勉強をするという目的で集まったのだが……。
勉強を始めて2時間が経った頃、息抜きをしようということで、戦闘ゲームが始まってしまった。
「いやぁ、強かったな。今の敵。」とエーイチ。
「ほんとだよな、ちょっと戦意喪失。」とタクヤ。
「よし、じゃあそろそろ勉強再開するか。」
俺は、立ち上がって、キッチンへ向かい、ポットでお湯を沸かしはじめる。
2人は渋々といった様子で、テレビの電源を消し、コントローラーをしまい始めた。
「陽向、初めてのバイトどうだった?」とタクヤ。
「うーん、結構緊張した。」
「かわいい女子高生いた?」
「いや、俺が担当したの男子高校生だから。」
「ええー。おもんなー。」
「なにがだよ。」
俺はフッと笑って、茶葉が入ったティーポットにお湯を注いでいく。
「お、紅茶淹れてくれんの?」とエーイチ。
「うん。なんかちょっと一息ついてから勉強を始めたいなって。」
「さすが陽向ぁ。そういうところ、マジで気が利くよな。」と肩を組んでくるタクヤ。
机の上に散らばった、レジュメと、ノートとペンに目をやる。
「ちょっとだけ、机片付けてくれる?」
「「オーケー。」」
タクヤとエーイチが、せっせと片付けをはじめる。
「そーいえばさぁ、このリュックのキーホルダー、なんかのお土産?」とエーイチ。
体がかすかにビクッと反応する。
「いや、それは中学のとき、親友にもらったもの。」
「えー、なんか手作り感満載だね。かわいい。」とタクヤ。
褒められて、ちょっと嬉しくなる。
湊がバレー部のキャプテンになったときにもらったもの。
「そっか、もらってからずっとつけてんの?」とエーイチ。
「うん、それ大事なやつでさ。なんか外せないんだよね。」
「なんか、めちゃくちゃ丁寧に作ってあるよな。大事な人のために作りました、みたいな。」とタクヤ。
少し鼓動が早くなる。
あのとき湊は、俺に持っててもらえると安心するって言って渡してくれたような気がする。
あまり深く考えたことはないけれど、それってどういう意味だったんだろうか。
「大事な人かぁ。」
遠くを見つめながら、思わず声に出る。
湊にとって、俺ってどういう存在だったんだろう。
俺にとって湊は、俺のいいところをたくさん見つけてくれた、大事な人だけど。
湊にとって、俺が大事な人だったんなら、なんで湊は急に連絡先を消したんだろう。
今まで、あんまり考えないようにしてきたこと。
俺が何か嫌なこと言っちゃったのかな。
俺にとって大事な思い出が、湊にとっては嫌な思い出も混じっているんだとしたら、ちゃんと謝らなければいけないだろう。
また関わりができた以上、すぐじゃなくてもいいけど、いつかはちゃんと話してほしい。
湊の言葉で、ちゃんと。
理由を聞くのは怖いけれど、聞かないといけないような気がする。
胸に石をのせられたような感覚になる。
「どうしたんだよ、急にしんみりしちゃって。」
タクヤが不思議そうな顔で俺を見る。
「ううん。なんでもない。あ、紅茶、良い色に染まってきた。さ、飲もう飲もう。」
こぼさないように、ゆっくりとティーカップに注いでいく。
ちゃんと過去と向き合って、俺たちはこれからも、昔みたいに友達でいられるのか、聞きたいな。
ーーー
それから1週間が経ち、試験が終わって、夏休みに入った。
セミの声が一段とうるさくなって、照りつける日差しが痛い。
あれから湊とは何回かバイトのシフトが被った。
けれど、バイトは忙しいし、帰ったら試験勉強しなきゃいけないし、ゆっくり話すことはなかった。
塾では夏期講習が始まり、いつもより多くの生徒が集まっている。
バイト終わりの夕方。疲れた、と思いながら、駐輪場で遠くの入道雲を眺めていたとき。
「陽向、腹減ってないか?」と湊が話しかけてくる。
少し気まずくて、体がビクッと反応する。
「腹減ったよ。疲れたもん、今日。」
「そうだよな、4コマ教えたんだもんな。俺も疲れた。なんか大学の講義よりも全然疲れるんだけど。」
「めっちゃわかる。なんか子どもに教える責任?みたいな?」
「ほんとそれな。」
少しの間の後、湊が話を続ける。
「陽向、このあと予定ある?……なかったら、一緒に飯食いにいこうぜ?」
一瞬迷った。目が泳いだのが自分でも分かる。
なんか、めちゃくちゃ自然に誘ってくるんだけど。
でも空腹にはあらがえなかった。
「いや、特にないけど……。いいよ、行こ!」
湊の口角がフッと上がる。ちょっと嬉しそうな顔。なんか懐かしいな、この感じ。
俺たちは、近くのファミレスに入った。
「いらっしゃいませ~。」
大学生くらいの女性店員さんが、席まで案内してくれる。
俺と湊を見て、なぜか少し顔を赤くしていた。
やっぱり湊って、今もモテるんだろうな。
「何にしようかなー。」
机の隅に置いてあったメニュー表を手にとり、眺める。
「うわ、このチーズインハンバーグ、めっちゃ美味しそう。」
思わず、テンションが上がる。
「ははっ。」
湊が、口に手を当てて笑っている。
「なんだよ。」
「いや、陽向ってやっぱり変わってないなって。」
「はぁー?今メニュー見てただけじゃん。」
「中学のときもさ、美味しいもの食べるとき、すごい嬉しそうだった。」
「そうだっけ?」
自覚がないので、ピンとこない。
デザートのページに進み、このイチゴのパフェも頼んじゃおうかな、と思ったとき。
「それで、いちごのパフェも頼むんだろ?」
「は?なんで分かったんだよ。」
「そりゃ陽向のことだもん。」
「どういうことだよ。」
本当に意味が分からない。エスパーか、こいつは。
でも俺も、なぜか湊が頼もうとしているものが分かった。
「で、湊は?ミートドリアとかき氷でも頼むの?」
湊が驚いた顔をした。
「……。いや、今日はペペロンチーノにする。」
「でもかき氷は頼むんだ?」
「……うん。」
「てか、俺たち食べすぎじゃね?」
思わず出た言葉に、2人で笑い合う。
ちゃんと会話できている。
どこか心に引っかかるものを感じながらも、ホッとしている自分がいた。
「湊、元気にやってる?」
「うん。俺は、ぼちぼちやってるよ。」
「そっか。この前も大学で見かけたよ。友達と楽しそうに歩いてるところ。湊、相変わらずかっこいいし、彼女とかできた?」
「いや……。できてない……。」
なぜか湊の視線が泳ぐ。口がへの字になっている。
「そっか、湊でもできないんじゃ、俺ができないのも当たり前だな!なんか安心したわ。」
笑い話にしようとしたのに、湊が固まった。驚いたように目を見開いている。
湊が何かつぶやいたけれど、声が小さくて聞き取ることはできなかった。
食べ終わり、ふぅっとお腹をさすっていたとき。
「なぁ、陽向。……よかったら、また連絡先交換しないか?消した理由は、いつかちゃんと説明するから……。」
気まずそうに、湊は、斜め下へ視線を落とす。
また頬をぽりぽりと掻いている。
嫌な思い出がある奴と再会して、一緒にファミレス行こうなんて、普通誘ってくるだろうか。
ますます湊のことがわからなくなったけれど、湊は「いつかちゃんと説明する」と言ってくれた。
「いいよ、交換しよ。……あのとき、湊に何か嫌な思いさせちゃってたなら、ごめんな……。」
「ううん、そんなんじゃない、そんなんじゃないよ。陽向に嫌な思いなんてさせられてない。悪いの全部、俺だから。」
湊がぶんぶんと激しく首を横に振る。
悪いのが全部湊って、どういうことだろう……。
余計気になるけれど、無理に聞き出して、また湊が離れてしまったら。
もう俺たちは、元には戻れない気がする。
「タクヤ、正面の敵もやばいんだって!」
「エーイチ、お前何してんの!」
タクヤが必死の形相で叫ぶ。
「「「ああああぁぁぁぁぁ。」」」
ゲームのコントローラーを膝の上に置く。
今日は俺の家で、試験勉強をするという目的で集まったのだが……。
勉強を始めて2時間が経った頃、息抜きをしようということで、戦闘ゲームが始まってしまった。
「いやぁ、強かったな。今の敵。」とエーイチ。
「ほんとだよな、ちょっと戦意喪失。」とタクヤ。
「よし、じゃあそろそろ勉強再開するか。」
俺は、立ち上がって、キッチンへ向かい、ポットでお湯を沸かしはじめる。
2人は渋々といった様子で、テレビの電源を消し、コントローラーをしまい始めた。
「陽向、初めてのバイトどうだった?」とタクヤ。
「うーん、結構緊張した。」
「かわいい女子高生いた?」
「いや、俺が担当したの男子高校生だから。」
「ええー。おもんなー。」
「なにがだよ。」
俺はフッと笑って、茶葉が入ったティーポットにお湯を注いでいく。
「お、紅茶淹れてくれんの?」とエーイチ。
「うん。なんかちょっと一息ついてから勉強を始めたいなって。」
「さすが陽向ぁ。そういうところ、マジで気が利くよな。」と肩を組んでくるタクヤ。
机の上に散らばった、レジュメと、ノートとペンに目をやる。
「ちょっとだけ、机片付けてくれる?」
「「オーケー。」」
タクヤとエーイチが、せっせと片付けをはじめる。
「そーいえばさぁ、このリュックのキーホルダー、なんかのお土産?」とエーイチ。
体がかすかにビクッと反応する。
「いや、それは中学のとき、親友にもらったもの。」
「えー、なんか手作り感満載だね。かわいい。」とタクヤ。
褒められて、ちょっと嬉しくなる。
湊がバレー部のキャプテンになったときにもらったもの。
「そっか、もらってからずっとつけてんの?」とエーイチ。
「うん、それ大事なやつでさ。なんか外せないんだよね。」
「なんか、めちゃくちゃ丁寧に作ってあるよな。大事な人のために作りました、みたいな。」とタクヤ。
少し鼓動が早くなる。
あのとき湊は、俺に持っててもらえると安心するって言って渡してくれたような気がする。
あまり深く考えたことはないけれど、それってどういう意味だったんだろうか。
「大事な人かぁ。」
遠くを見つめながら、思わず声に出る。
湊にとって、俺ってどういう存在だったんだろう。
俺にとって湊は、俺のいいところをたくさん見つけてくれた、大事な人だけど。
湊にとって、俺が大事な人だったんなら、なんで湊は急に連絡先を消したんだろう。
今まで、あんまり考えないようにしてきたこと。
俺が何か嫌なこと言っちゃったのかな。
俺にとって大事な思い出が、湊にとっては嫌な思い出も混じっているんだとしたら、ちゃんと謝らなければいけないだろう。
また関わりができた以上、すぐじゃなくてもいいけど、いつかはちゃんと話してほしい。
湊の言葉で、ちゃんと。
理由を聞くのは怖いけれど、聞かないといけないような気がする。
胸に石をのせられたような感覚になる。
「どうしたんだよ、急にしんみりしちゃって。」
タクヤが不思議そうな顔で俺を見る。
「ううん。なんでもない。あ、紅茶、良い色に染まってきた。さ、飲もう飲もう。」
こぼさないように、ゆっくりとティーカップに注いでいく。
ちゃんと過去と向き合って、俺たちはこれからも、昔みたいに友達でいられるのか、聞きたいな。
ーーー
それから1週間が経ち、試験が終わって、夏休みに入った。
セミの声が一段とうるさくなって、照りつける日差しが痛い。
あれから湊とは何回かバイトのシフトが被った。
けれど、バイトは忙しいし、帰ったら試験勉強しなきゃいけないし、ゆっくり話すことはなかった。
塾では夏期講習が始まり、いつもより多くの生徒が集まっている。
バイト終わりの夕方。疲れた、と思いながら、駐輪場で遠くの入道雲を眺めていたとき。
「陽向、腹減ってないか?」と湊が話しかけてくる。
少し気まずくて、体がビクッと反応する。
「腹減ったよ。疲れたもん、今日。」
「そうだよな、4コマ教えたんだもんな。俺も疲れた。なんか大学の講義よりも全然疲れるんだけど。」
「めっちゃわかる。なんか子どもに教える責任?みたいな?」
「ほんとそれな。」
少しの間の後、湊が話を続ける。
「陽向、このあと予定ある?……なかったら、一緒に飯食いにいこうぜ?」
一瞬迷った。目が泳いだのが自分でも分かる。
なんか、めちゃくちゃ自然に誘ってくるんだけど。
でも空腹にはあらがえなかった。
「いや、特にないけど……。いいよ、行こ!」
湊の口角がフッと上がる。ちょっと嬉しそうな顔。なんか懐かしいな、この感じ。
俺たちは、近くのファミレスに入った。
「いらっしゃいませ~。」
大学生くらいの女性店員さんが、席まで案内してくれる。
俺と湊を見て、なぜか少し顔を赤くしていた。
やっぱり湊って、今もモテるんだろうな。
「何にしようかなー。」
机の隅に置いてあったメニュー表を手にとり、眺める。
「うわ、このチーズインハンバーグ、めっちゃ美味しそう。」
思わず、テンションが上がる。
「ははっ。」
湊が、口に手を当てて笑っている。
「なんだよ。」
「いや、陽向ってやっぱり変わってないなって。」
「はぁー?今メニュー見てただけじゃん。」
「中学のときもさ、美味しいもの食べるとき、すごい嬉しそうだった。」
「そうだっけ?」
自覚がないので、ピンとこない。
デザートのページに進み、このイチゴのパフェも頼んじゃおうかな、と思ったとき。
「それで、いちごのパフェも頼むんだろ?」
「は?なんで分かったんだよ。」
「そりゃ陽向のことだもん。」
「どういうことだよ。」
本当に意味が分からない。エスパーか、こいつは。
でも俺も、なぜか湊が頼もうとしているものが分かった。
「で、湊は?ミートドリアとかき氷でも頼むの?」
湊が驚いた顔をした。
「……。いや、今日はペペロンチーノにする。」
「でもかき氷は頼むんだ?」
「……うん。」
「てか、俺たち食べすぎじゃね?」
思わず出た言葉に、2人で笑い合う。
ちゃんと会話できている。
どこか心に引っかかるものを感じながらも、ホッとしている自分がいた。
「湊、元気にやってる?」
「うん。俺は、ぼちぼちやってるよ。」
「そっか。この前も大学で見かけたよ。友達と楽しそうに歩いてるところ。湊、相変わらずかっこいいし、彼女とかできた?」
「いや……。できてない……。」
なぜか湊の視線が泳ぐ。口がへの字になっている。
「そっか、湊でもできないんじゃ、俺ができないのも当たり前だな!なんか安心したわ。」
笑い話にしようとしたのに、湊が固まった。驚いたように目を見開いている。
湊が何かつぶやいたけれど、声が小さくて聞き取ることはできなかった。
食べ終わり、ふぅっとお腹をさすっていたとき。
「なぁ、陽向。……よかったら、また連絡先交換しないか?消した理由は、いつかちゃんと説明するから……。」
気まずそうに、湊は、斜め下へ視線を落とす。
また頬をぽりぽりと掻いている。
嫌な思い出がある奴と再会して、一緒にファミレス行こうなんて、普通誘ってくるだろうか。
ますます湊のことがわからなくなったけれど、湊は「いつかちゃんと説明する」と言ってくれた。
「いいよ、交換しよ。……あのとき、湊に何か嫌な思いさせちゃってたなら、ごめんな……。」
「ううん、そんなんじゃない、そんなんじゃないよ。陽向に嫌な思いなんてさせられてない。悪いの全部、俺だから。」
湊がぶんぶんと激しく首を横に振る。
悪いのが全部湊って、どういうことだろう……。
余計気になるけれど、無理に聞き出して、また湊が離れてしまったら。
もう俺たちは、元には戻れない気がする。
