親友と3年ぶりに再会しました

俺は、親の転勤で他県に引っ越して、陽向とは別の高校に進んだ。
母親は反対していたけれど、父親に押し切られて、俺はついて行くしかなかった。

陽向とは、高校に進学してからもメッセージアプリと電話で連絡をとり合っていた。
「湊、新しい高校はどう?」
「だんだん慣れてきた。体育祭の練習、暑くて大変。」
「家の様子とか大丈夫?」
「相変わらずだよ。」
「そっか。しんどいって思ったら、いつでも話聞くから。」

陽向はいつも俺を心配してくれて、心のよりどころになってくれた。
でも、陽向がいないと生きていけなくなるんじゃないかって怖くなる自分もいた。

ある日、仲良くしていたクラスメイトが聞いてきた。
「なぁ湊、お前、彼女作らねーの?告白されてもフッてばっかじゃん。」
「うーん……。なんか彼女欲しいとか思わないんだよな。」
「えー、なんでだよ。お前、かわいい子ばっかに告白されててさ、羨ましいぜ。俺だったらすぐにオッケーしちゃうけどな。」
「彼女ってそんなにいいものなの?」
「そりゃ憧れるだろ。好きな子の一番近くにいられて、自分だけのものにできるんだぜ。」
「へぇ……。彼女できたら、したいこととかあるの?」
「うーん、放課後一緒に帰りたいかな。あとは休みの日に遊園地とか行って。クリスマスにはケーキ食べて、キスして、そのまま家で……」
「おいおい、下心が出てるぞ。」
周りのクラスメイトが突っ込む。

恋人ってそういうものなのか……?
二人きりで過ごして、独占して。

ふと陽向のことが脳裏に浮かぶ。
俺みたいな奴が高校にいたら、陽向は、そいつの背中をさすって……。
嫌だ。俺以外の奴にそんなことをしてほしくない。

そんなことを思う自分が、たまらなく怖くなった。
この気持ちは、どこから来るんだろう。

ああ……。俺は……。
陽向のことが好きなのかもしれない……。

自覚した瞬間、胸がぎゅっと締めつけられた。
それからずっと陽向のことばかりを考えるようになった。
授業中も、部活をしているときも、家で勉強をしているときも……。
もう簡単には会えないのに。

何週間か経って、俺は夢を見た。
電話越しの陽向が、明るくうわずった声で、俺に話しかけてくる。
「なぁ湊、お前に話したいことがある。俺、彼女できたわ。」
「え……?」
「ほら見て、この写真。この前一緒にテーマパーク行ったんだ。お揃いのカチューシャ、似合ってるだろ。」

目が覚めて、ガバッと起き上がる。
シーツが汗でビショビショになっている。
荒い息を整えながら、リュックについている、あのキーホルダーを見つめた。

とてもリアルな夢だった。
いつか陽向にそんな日が訪れるかもしれない。
もしかしたら、もういい感じの子がいて……。
胸が苦しくて仕方がない。
ごめん陽向。自分勝手な俺でごめん。

【アカウントを削除すると、復元することはできませんが、よろしいですか。】

涙で文字がかすむ。
ぎゅっと目をつぶって、「はい」のボタンを押した。

ーーー
山田に会った日の夜、俺はベッドの中で、頭を抱えていた。

もう会うはずじゃなかった人が、同じ大学に通っている。
伸ばそうと思えば、手の届く場所に、陽向はいる。

会いたくないわけじゃない。
でも、どんな顔をして会えばいいのか。
陽向はきっと怒っているだろう。
俺の心配をして、高校に入ってからも連絡をくれていたのに、俺はいきなりアプリを消してしまった。

いや、本当に怒っているかな。
陽向は怒るような奴じゃなかった気もする。
怒っていなかったとしても、彼女がいるかもしれない。

そうだとしたら……。
また昔のように親友でいられるかわからない。
陽向にとっての一番が、俺じゃなきゃ嫌なのに……。

「クソッ!」
俺は眠れずに、そのまま起き上がる。

窓から差し込む月明かりが、部屋を薄暗く照らしている。
リュックのところまで歩いて行き、あのキーホルダーを手のひらにのせる。
『1』の文字が、複雑な感情を呼び起こす。

でも俺、やっぱり陽向に会いたい。
傷つくかもしれないって分かっていても、このまま卒業してしまったら、一生後悔するような気がする。

枕の横に置いてあったスマホを手に取り、山田にメッセージを打ち込む。
「陽向のバイト先が決まったら、教えてくれないか?」
何回も消して、何回も同じ文字を打ち込んで、目をつぶりながら、送信ボタンを押した。

ーーー
あれから俺は、陽向がバイトをする塾で、働くことになった。
気持ちの整理はついていない。なんて言葉をかければいいのかわからないけれど、謝らなきゃいけないことは確かだ。

初出勤の日、罪悪感が込み上げてくる。
お腹が痛くなってトイレに行っている間に、懐かしい陽向の声が聞こえてきた。
明るくて、少し高くて、でも芯の通った声。
俺を何度も救ってくれた声。

トイレから出ると、陽向が驚いた表情で、俺を見た。
「み、湊!?」

ああ……。陽向だ……。
大きな、人懐っこい目が見開かれている。
中学の頃より少し垢抜けて、大人っぽくなった陽向がそこにいる。

すぐに生徒が入ってきたので、ゆっくりと再会をかみしめることはできなかった。
でも。
やっぱり陽向にかっこいいって思われたいな。

優しく生徒に向き合う陽向を見つめていると、自然と力が湧いてきた。
生徒にわかりやすいように、書き込みをたくさんして。
難しい問題が解けたら、うんと褒めて。

なんか、昔、陽向にもこうやって勉強を教えていたな。
陽向は勉強が得意じゃなかったけれど、とても素直で。
俺が教えていくうちに、どんどん成績が伸びていって。
そんな陽向の姿が忘れられなくて、俺は何か人に教える仕事がしたいと思い始めたんだっけ。

帰り際、俺は駐輪場で陽向に声をかけた。
「陽向、ほんとにごめんな。急に連絡先消したりして。」

でも、「陽向のことが好きだって気がついたから、連絡先を消してしまったんだ」なんて言えるわけがない。

「俺、あのとき、いろいろおかしくて。うまく言えないけど、本当におかしかったんだ。」
説明になっていない。頭が真っ白になって、気まずい時間が流れる。

陽向は少し困った顔をして、俺に言った。
「ふふっ。別に今無理して言わなくてもいいよ!
湊には湊の事情があったんだろ。湊が話したいときが来たら、ゆっくり話してくれればいいからさ。じゃあまたな!」

陽向は全然変わっていない。相変わらず優しい。
思うところはたくさんあるはずなのに、俺が傷つかないよう言葉を選んでくれる。
ああやっぱり俺、陽向を諦められないかも……。