重たい灰色の空から雨が落ち、道を湿らせていく。それにすら気が付かず、朔夜は走り抜ける。
すぐ先に大きな鞄を抱えて歩く、小春の後ろ姿を捉える。名を呼び引き止めればいい、朔夜はそう思った。だがその余裕はなかった。気づけば走り寄り、小春の腕を掴んでいた。
振り返る小春の前髪が濡れて揺れる。朔夜を捉えたその愛しい双眸は、驚きに開かれていた。
(いつだって俺は、お前に触れていたい──なのに)
言葉にしたい想いが、胸の奥で次々と湧き上がる。
その重さについ、顔が歪んでしまうほどに。
その中で、無意識に出た言葉はひとつだけ。
「行くな!」
その言葉を聞いた瞬間、小春の表情が揺らいだ。
泣きそうになるのを堪えながら、いつも通り笑みを作ろうとする。
雨が目に入り、涙のように流れる。
掴まれた手首へ視線を落とす。
離してほしいはずなのに、その手がどうしようもなく嬉しかった。
小春は唇を震わせ、ゆっくり顔を上げた。
「なら……連れ去って」
