死神の旦那様は花嫁菓子しか食べられない 〜捨てられた霊草菓子職人は、主神様の唯一の救いになりました〜




「朔夜様。少しよろしいでしょうか」

 夕餉を終え、小春は朔夜に声をかけた。

「どうした」

 朔夜が優しい眼差しで小春を見る。
 小春はすっと顔を上げ、満たされた表情を作ってみせた。

「一緒に、ラムネ菓子を作ってください」

「繋ぎが見つかったのですか!?」

 志乃が驚いたように弾んだ声を上げる。

「はい。いつも朔夜様にお作りしている飴の水飴で繋ぎたいと思います」

 小春は、はっきりと朔夜の瞳を見つめて答えた。

「もちろんだ。ラムネ菓子作りを一緒にと約束したからな」

 朔夜がこれまでに見せたことのないような柔らかな笑顔を向けた。




「なるほど、水飴……盲点だったな」

 台所で小春と並んで立つ朔夜は、思わず唸った。

「これで全ての材料が整いました。成形でございます」

 小春は紗良から託された木の型を取り出した。

「これで固めるのか。考えたな」

 朔夜は腕を組み、感心したように木型を見つめる。

「紗良が案を出してくれたんです」

 小春は努めて明るい声音でそう言った。
 朔夜は一瞬だけ、驚いたように目を丸くする。

「そうか……」

 それだけを噛み締めるように呟いた。

「では、混ぜますね」

 すりつぶした砂糖、重炭酸、酒石酸の白い粉が入る乳鉢の中に少量の水飴を落とした。
 それを、粉をまぶしながら丁寧に丸め、小さな粉玉にしていく。

「朔夜様もお願いします」

 小春は丸めた粉玉をそっと手渡そうとした。その時、指と指が触れ、朔夜が弾かれたように手を引いてしまった。

 小春はその手をじっと見つめた。胸の奥が少しだけ痛んだ。
 しかし、すぐに小さく悪戯っぽい笑みを浮かべると朔夜に向かって言った。

「これはお薬ですよ。しっかり作ってくださいね!」

 まるで、手のかかる子供を叱る母親のような口調だった。
 朔夜もつられて苦笑すると指先の強張りがすっと解けた。
 小春の指が再び触れる。
 それでも今度は逃げずに、その温もりを受け取った。

「粉を混ぜ込んでいくのだな」

 彼の大きな指が小さな薬を壊さないよう一生懸命に丸め込んでいく。
 その無骨で真剣な姿を見つめていると小春の心は切なく弾んだ。

「こちらには桜を。こっちは柚の果皮を細かくしたものを入れています」
「柚……もしかして、九条にか?」
「ええ。九条さんにもお薬です」
「必要か?」

 朔夜は無自覚にむすっとした子供のような顔になる。

「必要ですよ。九条さんはいつも朔夜様の身を案じて気を揉んでいますから」

 小春は真面目な顔でそう説明した。

「そうか……。これを食べた時のあいつの顔が楽しみだな」
 朔夜は目を伏せて心から可笑しそうに笑った。
「はい! 本当に」
 小春もまた心の底から笑った。

 二人は久しぶりに、穏やかな時間を楽しめたのだった。

 そのあと二人は粉玉を木型の押し型にきゅうと押し込み、成形していった。型から抜くと、ころんとした愛らしい形の錠剤ラムネが次々と出来上がっていく。

「うまく固まりました!」
「完成か?」
「いいえ。これからじっくりと乾燥させて、完成です」

 用意していた火鉢の近くにラムネを等間隔に並べていく。
 並べ終えて、二人でその小さな白い並びを静かに眺めた。

「緊急時用ですが……あの縁側のラムネのように美味しくできているといいですね」

 小春がしみじみと言う。

「美味いだろう。小春の菓子に外れはない」

 淡々と、けれど絶対の信頼を込めて褒める朔夜に、小春は照れながら頷いた。

「朔夜様と一緒に作れただけで嬉しいです」

「初めの一粒は一緒に食べるか。楽しみだな」

 小春はすぐには返事をしなかった。

 ただ愛おしそうに朔夜の横顔を見つめ、それからゆっくりと赤々と火の粉を散らす火鉢へと目を移した。

「はい。……楽しみです」

 ほんの少しだけ、泣き出しそうに歪めた小春の顔に朔夜は気づいていなかった。