死神の旦那様は花嫁菓子しか食べられない 〜捨てられた霊草菓子職人は、主神様の唯一の救いになりました〜




 壁掛け時計の音はこんなにも大きかっただろうか。
 静まり返った自室で、朔夜は一人座っている。

「朔夜様」

 障子の奥から小春の細い声が聞こえた。
 すでに小春は部屋を離された。その事情は鷹宮から小春に伝わっている。
 朔夜は重くなる胸から息を大きく吐いた。

「どうした」

 すっと障子が開く。
 寝着に羽織を着た小春が膝を突いていた。
 その顔には、悲壮の色は滲んでいなかった。

「寝る前のご挨拶ができていなくて」

 小春はいつも通り笑っていた。けれど、障子を開けた指先だけは冷えていた。

「すまない、気を使わせたな。そういえば実家はどうだった」

「はい。しばらく使っていなかった厨房を紗良と一緒に掃除してきました」

「通うのか?」

「はい。しばらくはそうしようと思っています」

「小春がしたいようにすればいい」

 一瞬、小春は泣きそうな表情に見えたが、すぐに笑みに変わる。 

「いつも見守っていただきありがとうございます。では、お休みなさいませ」

「ああ。おやすみ」

 そして、障子が閉じる音だけが小さく夜に響いた。