死神の旦那様は花嫁菓子しか食べられない 〜捨てられた霊草菓子職人は、主神様の唯一の救いになりました〜




「おかえりなさいませ」

 朔夜はお出迎えの鷹宮に鞄と官帽を預けた。
「小春は?」
「志乃さんと一緒に魚を捌いておりまして。新鮮な鰯が手に入ったそうで」
 鷹宮は思わず唾を飲む。
 しかし、朔夜の表情は変わらない。

「今日から寝室を別にする」

 聞き間違えかと、鷹宮がもう一度尋ねる。

「小春にも部屋を持たせろ」

 その要求を飲み込めない鷹宮は、瞬きを繰り返す。

「朔夜様……なぜでしょうか。そんなことをしたら小春様は──」

 鷹宮の動揺を隠せない声を朔夜が遮った。

「奪ってしまいそうなのだ。小春を」

 下から睨みつけるような鋭い朔夜の目を、鷹宮は久しぶりに見た。

「……小春様をお守りするためですね?」

「そうだ」

 朔夜は淡々と言う。

「ならば、承知いたしました」

 鷹宮は軽く頭を下げる。そして、顔を上げてから言う。

「朔夜様。先代から仕えた男の不躾な物言いだと思って言わせていただけますか」

 振り返る朔夜に、鷹宮は一歩前にでる。

「先代様のことを、今もご自分の責だと思っておられるのでしょう。ただ、いつまでも背負うものではないと思います。そのために、小春様はここに来られたのですから」

 鷹宮は深く頭を下げると廊下へと消えていった。
 朔夜はしばらくそこから動けなかった。

 握りしめたい拳に、力が入らなかった。