死神の旦那様は花嫁菓子しか食べられない 〜捨てられた霊草菓子職人は、主神様の唯一の救いになりました〜




 胸元に引き寄せられ、小春の耳には朔夜の鼓動が聞こえた。
 それは温かく確かな音。
 死神ではなく、血の通った人間のものだ。

 だがもし──これが大規模な瘴気だったなら。
 朔夜は身を削り尽くすまで戦うだろう。その身体を死神に変えてでも。
 朔夜の腕の中で小春は初めて、この戦いの過酷さを肌で知った。

 
 朔夜に抱えられたまま、二人の寝室へと運ばれる。朔夜は膝を折り、その身体が揺れぬよう慎重に布団へ下ろした。

「眠いか」
「……いえ」
「力は入るか?」

 そう言い、朔夜が小春の手を取る。
 その大きくて温かい掌に包まれた瞬間、不安がすっとほどけていく。
 小春がきゅうっと握り返すと、朔夜は安堵したように目を細め、片方の手を重ねてきた。

 瘴気を祓っていた時とは、まるで別人のような穏やかな顔だった。
 小春はまともに見つめ返せない。胸が落ち着かず、朔夜に触れるだけで心臓が跳ねてしまう。
 小春の髪の束が顔に落ちた。朔夜はごく自然な仕草で、その髪を指先で払う。

(っ!)

 不意に頬へ触れた熱に、小春の身体がびくりと震えた。頬が一気に熱を帯びていく。自分が赤く染まっているのは見なくてもわかる。甘く優しい空間に涙が出そうだった。

 小春はそっと朔夜を見上げる。
 あの暗い実家の小屋に閉じ込められた時、もう二度と朔夜に会えないかもしれないと泣いていた。
 それなのに今は、こうして手を握っている。

 二人の視線が絡み合う。
 朔夜の目が細められた。
 だが、少しだけ苦しげに眉が動く。

「小春……」

 低い声で名を呼ばれ、小春の心臓は今までにないほど強く叩いた。

(私も、触れたい)

 自然と、もう片方の手も伸ばした。

 だがその瞬間だった。