死神の旦那様は花嫁菓子しか食べられない 〜捨てられた霊草菓子職人は、主神様の唯一の救いになりました〜

 

 
 朝、雀の声で朔夜が目を覚ました。
 身体を起こそうとした瞬間、左袖に小さな重みを感じる。視線を落とせば、小春が寝着の袖をきゅっと掴んでいた。

 引き寄せようとしているわけではない。ただ、そこにいることを確かめるような、遠慮がちな触れ方だった。

 朔夜は思わず動きを止める。
 隣では、小春が穏やかな寝息を立てて眠っている。柔らかな朝日が頬を照らし、その表情はあまりにも無防備だった。

 自然と朔夜の口元が緩む。
 そっと袖を外そうと手を伸ばしかけるが、途中で止まった。

(……起こしてしまうな)

 小さく息を吐き、肩の力を抜く。
 朔夜はそのまま腕を戻し静かに座り直した。

 庭先からは朝露を揺らす風の音が聞こえる。

(この時間も悪くない)

 そう思いながら、朔夜は小春が目を覚ますまで隣で待っていた。ただ彼女の寝顔を眺めながら。


「珍しく、お二人そろって寝坊をされましたね」
 朝餉の席で、志乃がくすりと笑う。
 小春は、昨夜遅くまでラムネの配合を考えていたせいだと言い出せず、申し訳なさそうに肩を縮めた。
「食事の準備もお手伝いできず、すみません……」
 対して、向かいへ座る朔夜は淡々と箸を動かしている。
「今日は非番だ。急ぐ理由もなかった」
 低い声はいつも通りだったが、どこか表情が柔らかい。

 小春は胸の奥がくすぐったくなるのを感じた。
 目を覚ました時、朔夜は何をするでもなく布団のそばへ座っていたのだ。
 てっきり、先に起きていたのだと思っていた。
「今朝は珍しく、ごゆっくりされていましたね」
 何も知らないまま小春が微笑む。
 朔夜はわずかに肩を揺らしたあと、ふっと小さく笑った。
「たまには、ああいう朝もいい」
「そうですね。いつもお忙しいですものね」

 無邪気に返され、朔夜の胸にじんわりと熱が広がる。
 孤独な死神として生を全うするはずだった自分が、こんな穏やかな朝を惜しいと思う日が来るとは思っていなかった。
 そして、その理由が隣にいることも。