死神の旦那様は花嫁菓子しか食べられない 〜捨てられた霊草菓子職人は、主神様の唯一の救いになりました〜




 朝の空気がまだ冷たい時間だった。
 屋敷の玄関に慌ただしい足音が響く。鷹宮が手にしていたのは一通の電報だった。

「九条管理官より早急にとの伝言です」

 差し出された紙を一瞥し、朔夜は短く息を吐いた。

「……仕事に出る」

 それだけ告げて外套を羽織る。躊躇いのない動きだった。
 玄関先で待機していた馬車へ向かう途中、ふと足が止まる。見送りに出ている小春に振り返り、朔夜は片手を差し出した。
 
 この無言の仕草に、小春は一瞬だけ戸惑う。だがすぐに理解し、懐から小さな包みを取り出した。懐紙に包まれた飴玉を、そっと朔夜の掌に乗せる。

「今日の分です」

 朔夜はそれを受け取り、その場で口に含んだ。舌の上でゆっくりと溶けていく甘さに、わずかに呼吸が緩む。

「……お前の菓子がないと、俺は駄目なんだ」

 小さく零れたその言葉に、小春は頬を赤くし目を瞬かせる。だが返す言葉を見つける前に、朔夜は馬車へと乗り込んでいた。
 そして馬車の車輪が軋み屋敷を離れていった。

 馬車の中で朔夜は外の景色に視線を向けていた。
 街並みの変化が目に入り込む。近代化の波によって新しく建てられた建物が不自然に並んでいる。道を遮るように配置され、流れるはずのものが滞っているのが分かる。

(……地脈を断っている)

 本来、巡るべき気の流れが堰き止められていた。その歪みは目に見えない形で溜まり続ける。

(これでは穢れが溜まるはずだ)

 朔夜は腕を組み、静かに目を細めた。