「では、行ってくる」
出立の声に、小春は麻の小さな巾着を両手で差し出した。
「朔夜様、お忘れ物です」
「もうできたのか」
「はい。固めて冷やして一粒ずつ懐紙に包みました」
「では、一つ食べていこう」
小春は一粒をつまんで差し出す。だが、朔夜は受け取らない。
(……?)
戸惑う小春の横で、鷹宮がわざとらしく咳払いをした。
彼に視線を向けると、口元へ運ぶ仕草で示される。
理解した瞬間、耳が一瞬で熱くなる。それでも小春は紙をほどき、飴をそっと口元へ運んだ。
朔夜は自然にそれを受け入れ、口の中で転がす。ころりと小さな音が鳴った。
「こちらが携帯用です。すぐ取り出せる場所に身につけてくださいね」
巾着を受け取った朔夜は、それを大切そうに胸元にしまう。どこか機嫌が良さそうに、もう一度飴を転がした。そして、まっすぐ小春を見つめる。
「これはお前しか作れないな──小春」
名を呼ばれた瞬間、身体がこわばる。熱が一気に全身を巡った。
「……ありがとうございます」
小春はどうにか言葉を絞り出す。
「ここでやっていけるよう……精進します」
込み上げるものを押し込みながら微笑んだ。
──朔夜のその一言で、私の居場所は決まった。
