死神の旦那様は花嫁菓子しか食べられない 〜捨てられた霊草菓子職人は、主神様の唯一の救いになりました〜

  


 衣を整え案内された部屋には、寝具が二つ並べられていた。

 本当に隣で眠るだけ、それは理解できる。それでも小春の心は落ち着かない。
 朔夜は戸惑う様子もなく羽織を脱ぎ、就寝の支度をしていた。
 小春はそっと用意していた大福──霊草菓子を枕元に置いた。

「あの……仕事は、大変ですか?」

 小春が沈黙に耐えきれず、控えめに問いかける。
 朔夜の布団をめくる手が一瞬止まりかけたが、すぐに動く。

「私に与えられた役割をこなすだけだ」

 なんとも簡潔な返答だけだった。しかし、それが彼の本心だと理解できた。

「……そうですね」

(私は……見守る役なんだ)

 そう思うと不思議と心が落ち着いた。行灯の灯りが落とされ静寂が満ちる。

 布団に入ってしばらくした頃だった。
 衣擦れのわずかな感触に、小春はふと気づく。視線を横に移すと、朔夜の指がそっと袖を掴んでいた。

(……え?)

 驚いて顔を上げる。無意識なのか、それともと一瞬身構えるが、朔夜の呼吸は深く規則正しい。眠りはとても穏やかだった。
 小春はそっと身を乗り出し、その寝顔を覗き込む。
 昼間に見せる張りつめた気配はどこにもなく、年相応の青年の顔に戻っていた。袖を掴む手に視線を移す。

(……不安、なのかな)

 そう思った瞬間、胸の奥がやわらかく溶けそうになる。少しだけ可愛らしい一面を見てしまった気がして、小春は小さく微笑む。
 小春はその手を外さず、そっと体の向きを整える。

(……このままでいいわ)

 無理に離す理由はなかった。むしろ、この距離のままの方が彼は安らかに眠れる気がした。 

 小春は静かに目を閉じる。袖を掴まれたまま寄り添うような距離で。そのぬくもりを感じながら、朔夜のための薬を考える。
 鷹宮が飲んでいたように、日々を整える菓子を作りたいと。

 そっと掴まれた袖から伝わる人の体温に包まれながら、小春もゆっくりと眠りに落ちていった。