死神の旦那様は花嫁菓子しか食べられない 〜捨てられた霊草菓子職人は、主神様の唯一の救いになりました〜



「少しだけ、召し上がってください」


 小春は静かに朔夜の隣に座り、持ってきた大福を取り出した。躊躇いはなかった。一口にちぎり、そのまま唇へと運ぶ。
 触れた瞬間、朔夜の指が小春の手首を反射のように掴んだ。

「……っ」

 小春は息を飲むが手は止めない。そのまま菓子を口へと含ませる。
 すると、朔夜の喉が動き大福がゆっくりと飲み込まれた。
「……味がする」
 朔夜がぼそりと呟く。

「今までの菓子は砂を噛んでいるようだった。だがこれは──香りがする」

 直後、朔夜の呼吸が乱れる。空気を吸い込みすぎたのか、むせるように胸を揺らした。眉を寄せ目を閉じる。その間も、掴まれた手だけは離れない。

 やがて呼吸が穏やかになり、朔夜の視線が戻ってきた。そこで初めて、朔夜は小春の手首を掴んでいる自分の手に気づいた。

(なぜ、俺は……)

 今度は反射的に力を緩める。離そうとするが指は完全には離れず、距離を残したまま止まる。掌に残る体温が妙に意識に残った。

 顔を上げると、小春が静かにこちらを見ている。逃げる様子はない。ただ、そのまま受け止めていた。
 朔夜の指先がゆっくりと動いた。小春の体温を確かめるように、ほんの少しだけ力を戻して。自分の意思でそうしていると、朔夜ははっきり理解している。

「……身体が楽だ。こんな感覚は久しぶりだ……」

 朔夜は息を吐くように言う。胸の奥の重さはすでに消えていた。一度だけ小春の手を見て、再び視線を合わせる。短い間のあと、朔夜の口から言葉が落ちる。

「俺のそばに、一生いろ」

 低く抑えた声。それに拒む余地は小春にはない。

「お前がいないと──自分を保てない」

 小春は一瞬だけ目を見開く。自分からこの手を引くことはない。

「……はい」

 もう、躊躇うこともなく自然に言葉が出た。
 朔夜の指の力が少しだけ緩む。それでも手は触れたまま残された。

 小春はその手を見下ろす。強く握られているわけではない。だが、離されてもいない。朔夜の意思で残された手だった。

(……ここにいて、いい)

 胸の奥で静かに実感する。小春はそっと、もう一方の手を添えた。彼を支えるように。
 朔夜は何も言わなかったが、その手を外すことはなかった。