死神の旦那様は花嫁菓子しか食べられない 〜捨てられた霊草菓子職人は、主神様の唯一の救いになりました〜




 小豆が柔らかくなってきたのを確かめながら、小春は静かに耳を傾けた。

「以前は、甘いものを召し上がればある程度は回復なさっていました。けれど今は、それだけでは足りなくなってきているのです」

「足りない……」

「浄化しきれなかったものが御身の内に溜まり……ああして外へと溢れてしまうことがあるのです」

 昨夜のあの黒い靄。思い出した瞬間、小春の手がわずかに止まる。

「それで……私の菓子なら瘴気を払えるとご存じだったのですか?」

 胸の奥で、ひとつの考えが形になった。
 志乃は少しだけ驚いたように目を瞬かせ、それからゆるやかに首を振った。

「いいえ。詳しいことまでは存じませんでした」

「え……?」

「ですが鷹宮の推薦だったのです」

 その名に小春は小さく息を呑む。

「鷹宮さんが……?」

「ええ。あの方は見極める目をお持ちですから」

 穏やかに微笑む志乃に小春は首を傾げた。

(どうして私のことを……?)

 家族に存在を隠されていた小春は思い当たる節はなかった。

「いいご縁でしたね」

 ぽん、と背に添えられた手がやさしく温かい。その一言で不思議と胸の中の引っかかりがほどけた。

「……はい」

 理由などもうどうでもよかった。ここで自分は求められている、やるべきことがある。それだけで十分だった。

 小春は再び鍋に向き直った。柔らかくなった小豆を崩さぬように丁寧に混ぜる。ひと粒ひと粒に意識を向けるようにゆっくりと。

(私にできることをちゃんとやろう)

 その想いを込めるように小春は手元をさらに優しく、そして確かな動きで進めていった。