大学は甘くない 〜女子校上がりの私、先輩の「特別」になりたかった〜

 春は私たちを新しい空気に包んでしまう。
 ある人は新しい環境に戸惑い、ある人は新たな出会いに色めき立つ。
 
 ユッキーさんが卒業して、もうすぐ二ヶ月が経とうとしていた。
 そして、私は過去と決別した。
 彼の痕跡を残したくなくて、SNSの投稿を全て消した。

 地方へ行ってしまった彼の消息を把握している人はいなかった。
 人との連絡に消極的で、自分のプライベートを一切発信しなかった彼のことだから、きっと何のしがらみもない新天地で気ままに暮らしていることだろう。
 
 スマホの中の写真も片っ端から削除した。
 でも、二人の手が重なり合った写真を見た時は手が止まった。
 少しだけ迷ってから、それは消さないことにした。
 
 *
 
「ねえ、水野くんって、よくタナチューのこと見てない?」
「え、そうかな?」
 新たな恋の予感を、裕子は楽しげに口に出した。
 でも、ごめん裕子。本当はとっくに気付いてた。
 
 新入生の水野くん。伸ばしっぱなしの前髪をした彼は、まだ高校生のようなあどけなさが残っている。
 新歓コンパの時、彼と目が合った瞬間があった。私は微笑み、わざと少し長めに視線を返した。すると彼は慌てたように目をそらした。
 その慌てた顔は、かつてユッキーさんに初めて触れられた時の私を思い起こさせた。
 
 私はメッセージを送り終えると、スマホを伏せた。でもすぐに通知が鳴った。思ったよりも早かったな。
『タナチュー先輩! いいですね、行きましょう!』
 水野くんからの満足のいく返信を見て、私は思わずほくそ笑む。
 
 でもね、気を付けた方がいいよ。
 大学生活って、そんなに甘くないから。