恋の答えはバグの後。

一方、主を失った静かなワンルームマンションのベッドの上。
残された高瀬 律は、呆然とドアを見つめていた……わけではなかった。

「……はは、あはははっ」

静寂に包まれた部屋に、律の低く、愉しげな笑い声が漏れ出た。
ベッドから起き上がり、湊が着替えのために脱ぎ捨てたパジャマを拾い上げる。
それを鼻先に寄せ、湊の甘い体臭を深く吸い込むと、律の口元は、会社での「爽やかなモテ男」からは想像もつかないほど、黒く、歪んだ歓喜の形に釣り上がった。

「割り切り、ねぇ……。あんなに余裕のない顔して、身体中真っ赤にして逃げ出すなんて。……かわいすぎるでしょ、あの人」

律は最初から、湊がこういう反応をすることは完全に計算内だった。
過去の失恋のせいで、極端に傷つくのを恐れているひねくれた先輩だ。
一度身体を重ねたからといって、翌朝すぐに「好きだよ」なんて素真面目に言うはずがない。
むしろ、全力の「ツン」で防衛線を張ってくることなど、百も承知だった。
布団をめくると、シーツには微かに、昨夜の激しい交わりの名残が残っている。
それを愛おしそうに指先でなぞりながら、律の瞳の奥に、獲物をじわじわと追い詰める肉食獣のような、獰猛でドロドロとした執着の炎が灯った。

「忘れてくれって言えば、俺が引き下がると思ってんのかな。……俺がどんだけ、あの人を手に入れるために我慢して、外堀埋めてきたか分かってない」

律にとって、昨夜の出来事は「お酒の勢い」なんかではない。
ずっと隙を狙って、ようやく手に入れた至高の瞬間だったのだ。
湊のあのトゲだらけの警戒心も、可愛くない強がりも、すべてを自分の愛で叩き壊し、俺なしでは呼吸もできなくなるまで依存させてやる。
そのための第一歩が、完璧に成功したのだ。

「いいですよ、先輩。会社では、あなたの望み通り『完璧なビジネスライク』を演じてあげます」

律はゆっくりと立ち上がり、自分のスーツに着替え始めた。
ネクタイを締め直し、鏡の前で、いつもの完璧な「有能で爽やかな後輩」の笑顔を作る。
しかし、その瞳だけは一切笑っていなかった。

「……その代わり、逃げられると思わないでくださいね? 湊さん」

完璧なビジネススマイルの裏で、とんでもない独占欲を煮えたぎらせた後輩は、愛しい先輩の後を追うように、静かに部屋を後にした。