服部之総を研究していた時分に聖蹟桜ヶ丘に行った。木田の正蓮寺に関係者がいるが、聖蹟桜ヶ丘にもいたからだ。逸話や貴重な資料を提供してもらって現在は佐々田懋・服部之總顕彰会が管理していると思われる。新宿南口で夜行バスを降りて京王線に乗ったが、どこかで財布を紛失したことに気付いた。ウン万円を失くしたということになる。絶望した。どこかにありはしないかとカバン、スーツの各ポケットを調べた。尻のポケットにシワシワの5千円が入っていた。無賃乗車になるのですぐに降りた気がする。当時の私は大都会では運賃表を見るのが面倒なので最も安い切符を買って降車後に乗り越し精算で済ませていた。どこかの駅で指導教官の飯田泰三先生に電話した。町田まで来れるだろうかと言うので確認し、行けそうだと返答した。町田で降りてフラフラしていると飯田先生がいた。先生は「はい、これ」と言ってけっこうな額を貸してくれた。とくに要望もしていなかっただけにサラリと大金を渡すので随分と驚いた覚えがある。後日、しっかり借りた金額はお返しした。尻のポケットに5千円が入っていたのは助かった。そこに金を入れろと私に叩き込んだのは父だ。普段は財布でもよいが、酒場に行くときは財布だけでなく尻ポケットに入れておけば泥酔してにっちもさっちもいかなくなってもどうにかなるというものだ。実際、どうにかなった。爾来、私は酒場に行くときは臀部のポケットに金を入れるようになったが、コロナ禍以降はもう夜の街から遠ざかっていた。いまでは酒は一滴も飲まない。



