氷の花嫁は愛を知らない

 それもそうだ。離れに閉じ込められているため、社会のことが全く分からない、見事な世間知らずに育ってしまったのだから。

 伊織はそんな冬乃を見つめ、ほんのわずかに視線を伏せる。

 離れへ閉じ込められ、誰にも必要とされない。
 それでも当たり前のように静かに生きている少女。

 その姿を見ていると、時折ひどく胸が苦しくなっていた。


「……では、私はそろそろ戻ります」

「うん、またね」


 伊織はしばらくその場に立っていたが、やがて足音を遠ざけていった。

 その背を見送りながら、白夜が低く呟き、しずくは話を聞いてやる。


「気に入らぬ男だ」

「白夜は伊織に厳しいのね」

「当然だ。我はあやつの目が嫌いだ」

「目?」


 しずくが首を傾げる。

 白夜はしばらく黙っていたが、やがて小さく目を細めた。


「……主様を、連れて行こうとしている目をしている」


 白夜の言葉に、しずくがきょとりと目を丸くする。


「連れていく?」

「しずくにはまだ分からぬか」


 白夜は腕を組み、どこか不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「人間というものは厄介なのだ。手を差し伸べるふりをして、裏では自分の欲で動く者もいる」

「白夜」


 冬乃が静かに名を呼ぶ。