氷の花嫁は愛を知らない

 彼女は冬乃の姿を見ると、どこか言いづらそうに視線を伏せる。


「冬乃様、少しお時間よろしいでしょうか?」

「いいよ。どうしたの?」


 侍女は一度礼をすると、冬乃に向き直る。


「……奥様が、『今日は大事なお客様が来る予定だから、お前はその小汚い離れから絶対に出てきてはダメよ』と、伝言を授かり、参りました」

 離れに、静かな沈黙が落ちる。

 しずくが小さく顔をしかめ、白夜は露骨に不快そうな気配を滲ませた。ゆきは、表情さえ変えなかったが怒りで拳が震えている。

 だが冬乃は、特に表情を変えなかった。


「分かった」


 ただ短く、それだけを返す。

 侍女頭はどこか申し訳なさそうに頭を下げると、そのまま足早に去っていった。

 伊織が、塀の向こう側で小さく息を吐く。


「……相変わらずですね、天宮家は」


 冬乃は答えない。

 答えるほどの感情を、持ち合わせていないようにも見えた。