氷の花嫁は愛を知らない

 伊織が、塀の向こう側で小さく息を吐く。


「……相変わらずですね、天宮家は」


 はぁ、とため息をつくと、冬乃に向き直る。


「冬乃さん……外は、もう少し賑やかですよ」

「賑やか?」

「ええ、街では雪灯り祭りの準備をしていました。子どもたちが走り回っていて……甘味屋も忙しそうでしたね」


 冬乃は黙って話を聞いている。

 その横でしずくが目を輝かせた。


「雪灯り祭り! しずく、それ知ってるなの! 灯りがいっぱいなの!」

「行ったことがあるの?」

「ないの!」


 元気よく言い切るしずくに、ゆきが小さく笑みを零す。


「ふふ、しずくは話に聞いただけでしょう?」

「でも綺麗って聞いたの!」


 賑やかな声を聞きながら、伊織は塀越しに小さく目を細めた。


「……冬乃さんは、外へ出てみたいと思ったことはありませんか?」


 その問いに、冬乃は少しだけ考えるように雪を見る。


「……分からない」


 ──外へ出たい。


 その感情自体が、冬乃にはよく分からなかった。

 離れの外を知らないわけではない。この家に引き取られる前はきちんと外に出て、今みたいに放置されているわけでもなく、両親に愛されていた──ような気がするからだ。