氷の花嫁は愛を知らない

 伊織は天宮家に出入りしている陰陽師だ。結界の点検や護符の交換のため、本邸へ訪れることがある。

 その度に、こうして離れの近くへ立ち寄っていた。


「お仕事?」

「ええ。結界の確認です。最近、妖魔が少し増えているので」


 その言葉に、しずくが不安そうに冬乃の袖を掴む。


「妖魔、やなの……」

「安心しろ。離れへ近づく前に我が消し飛ばす」


 白夜が低く唸るように言うと、伊織は困ったように笑った。


「相変わらず過保護ですね」

「当然だろう」


 白夜は不機嫌そうにツンとそっぽを向く。

 そんなやり取りを聞きながら、冬乃は静かに雪を見つめていた。

 塀越しに話す時間は、不思議と嫌いではなかった。

 伊織は必要以上に踏み込まない。
 けれど、離れの中にいる冬乃を“いないもの”として扱うこともしない。

 ただそれだけのことが、冬乃にとっては少しだけ嬉しかったりもした。

 その時、離れへ続く廊下から足音が響く。

 現れたのは昔からいる、年老いた侍女頭だった。