氷の花嫁は愛を知らない

 そんなやり取りを聞きながら、冬乃は静かに雪を見つめていた。

 塀越しに話す時間は、不思議と嫌いではなかった。

 伊織は必要以上に踏み込まない。

 けれど、離れの中にいる冬乃を“いないもの”として扱うこともしない。

 ただそれだけのことが、冬乃にとっては少しだけ嬉しかったりもした。

 そのとき、離れへ続く廊下から足音が響く。

 現れたのは昔からいる、年老いた侍女頭だった。

 彼女は冬乃の姿を見ると、どこか言いづらそうに視線を伏せる。


「冬乃様、少しお時間よろしいでしょうか?」

「いいよ。どうしたの?」


 侍女は一度礼をすると、冬乃に向き直る。


「……奥様が、『今日は大事なお客様が来る予定だから、お前はその小汚い離れから絶対に出てきてはダメよ』と、伝言を授かり、参りました」

 離れに、静かな沈黙が落ちる。

 しずくが小さく顔をしかめ、白夜は露骨に不快そうな気配を滲ませた。ゆきは、表情さえ変えなかったが怒りで拳が震えている。

 だが冬乃は、特に表情を変えなかった。


「分かった」


 ただ短く、それだけを返す。

 侍女頭はどこか申し訳なさそうに頭を下げると、そのまま足早に去っていった。