氷の花嫁は愛を知らない

 白夜が持ってきてくれたお茶を一口飲み、ほぅ……と息をつく。

 すると塀の向こう側から、声が落ちた。


「──冬乃さん」


 聞き慣れた声に、白夜がわずかに眉をひそめた。


「また来たのか」

「そんな嫌そうに言わないでくださいよ」


 塀の向こう側から返ってきた声は、どこか苦笑混じりだった。 冬乃は静かに顔を上げる。


伊織(いおり)

「こんにちは。今日は冷えますね」

「そうでもないよ」

「冬乃さんの基準は当てにならないんですよ」


 くすり、と小さく笑う声が聞こえた。

 伊織は天宮家に出入りしている陰陽師だ。結界の点検や護符の交換のため、本邸へ訪れることがある。

 その度に、こうして離れの近くへ立ち寄っていた。


「お仕事?」

「ええ。結界の確認です。最近、妖魔が少し増えているので」


 その言葉に、しずくが不安そうに冬乃の袖を掴む。


「妖魔、やなの……」

「安心しろ。離れへ近づく前に我が消し飛ばす」


 白夜が低く唸るように言うと、伊織は困ったように笑った。


「相変わらず過保護ですね」

「当然だろう」


 白夜は不機嫌そうにツンとそっぽを向く。