氷の花嫁は愛を知らない

 屋敷そのものが凍りつき始めていた。


「主様!」


 式神たちが冬乃へ駆け寄ろうとする。

 だがその直後、残っていた妖魔たちが一斉に飛びかかった。


「邪魔です」


 妖魔たちの身体が次々と断ち切られ、黒い霧となって散っていく。

 力の差は歴然だった。

 だが、その混乱の最中、数匹の妖魔が廊下の奥から一気に駆け抜ける。


「っ、待て!」


 おそらく、九条家の陰陽師の声。

 妖魔たちはそのまま結界の裂け目へ飛び込み、街の方角へ逃げていった。


「おい玲司っ、妖魔の残党が街へ……!」


 玲司と呼ばれた彼が鋭く目を細めた。

 逃がせば被害が出る。

 だがその間にも冬乃の霊力は暴走し続けていた。

 玲司は「先に言っていてください」と一言言って冬のの方を見る。

 周りにいた妖魔たちが消えたことで、白夜たちはすぐさま冬乃の元へ駆け寄っていた。


「主様、しっかりしてくださいませ!」


 ゆきが冬乃の肩を支え、白夜もすぐ傍へ膝をついた。

 しずくは泣きそうな顔で冬乃の袖を握る。


「主さま……っ」


 だが冬乃の瞳は揺れたままで、呼吸が浅く焦点が合っていない。

 変わりに冷気だけがとめどなく溢れていた。