氷の花嫁は愛を知らない

 黒いマントに鋭く冷えた眼差し。

 その手には、青白い霊力を纏った刀が握られており、吹雪の中でもその足取りは一切乱れない。

 彼は冬乃を庇うように前へ立つと、静かに刀を構えた。


「下がっていてください」


 彼は一歩踏み込むと、一斉に飛びかかる妖魔たちを容赦なく切り落とした。

 妖魔の身体が霊力ごと断ち切られ、黒い霧となって散っていく。

 あまりにも無駄がなく、まるで吹雪の中を滑るような剣筋だった。

 白夜が目を見開き、ゆきも驚いたように彼を見つめる。

 だが彼だけは妖魔を斬り伏せながら、わずかに眉をひそめていた。

 異常なほどに寒く、息を吐くたび肺が凍りそうになる。

 普通の人間なら、とっくに動けなくなっている温度だった。

 なのに吹雪の中心にいる少女だけが、焦点の合わない顔で寒さではなく、恐怖で震えていた。

 妖魔から来る恐怖ではなく別の恐怖で何かに怯えている。



「……霊力暴走ですか」


 彼は小さく呟く。

 妖魔を斬り捨てながら、視線を冬乃へ向けるが、そこにはもう理性がほとんど残っていなかった。

 恐怖と混乱。そして、溢れ出す膨大な霊力。

 玲司の足元まで氷が伸び、吹雪が唸る。