氷の花嫁は愛を知らない

 冬乃の霊力が、暴走していた。

 苦しくて、冷たくて、胸の奥がぐちゃぐちゃだった。

 感情に呼応するように、冬乃の強大な霊力が溢れていく。

 ぱきり、とまた何かが凍る音がした。

 床を這う氷は、まるで生き物のように広がっていき、妖魔たちが後ずさる。

 濁った瞳へ、初めて恐怖が浮かぶ。

 それでもなお、冬乃の首を掴む妖魔だけは離れない。

 凍りついた腕を軋ませながら、なお力を込め続けている。


「……っ、」


 冬乃の呼吸が浅くなる。

 視界が滲み、吹雪はさらに激しさを増していく。


「貴様っ、その汚らわしい手から離しなさい!!」


 ゆきの焦りと冬乃を失うことの恐れから来た必死の叫びが響き渡った、そのとき。

 廊下の奥から、鋭い声が響く。


「──そこまでです」


 その瞬間、銀色の軌跡が吹雪を裂く。

 凍りついた空気ごと切り裂くような一閃が、妖魔の腕を弾き飛ばした。

 妖魔が苦悶の声を上げ、冬乃の首から力が離れる。


「かはっ……、げほっ……!」


 冬乃はその場で激しくむせ込み、細い肩を苦しそうに震わす。

 廊下へ静かな足音が響くと、ひやりと凍った空気の中を一人の青年が歩いてくる。