氷の花嫁は愛を知らない

 ぱきん、と冷気が走り、妖魔の腕が凍りつくが、妖魔は止まらなかった。

 凍った腕を無理矢理軋ませながら、なお冬乃へ手を伸ばしてくる。

 その異様な執着に、冬乃の呼吸がわずかに乱れた。

 妖魔が一気に距離を詰めると、冬乃はつよい衝撃とともに床へ押し倒された。

 妖魔の腕が、冬乃の首を掴む。


「……ぁ、っ」


 息が詰まる。

 白夜たちの声が遠く聞こえる。


「主様!!」

「離れろなの!!」


 式神たちは助けようと駆け出すが、妖魔たちそれを邪魔した。

 冬乃の視界が揺れ、首を絞める力が強くなる。

 苦しい。怖い。

 その瞬間、不意に過去の記憶が脳裏を掠めた。


***


 吹雪の夜だった。

 自分たちを守るはずの人たちは血を流し倒れている。

 その中で幼い冬乃は、ゆきに強く抱きしめられていた。


『冬乃、振り向いてはいけないよ』


 優しい声。

 低く、穏やかな男の声だった。


『大丈夫よ。あなただけは、生きて』


 今にも泣きそうな女の声。

 その瞬間どろり、と黒い妖気が雪の向こうで(うごめ)いた。