氷の花嫁は愛を知らない

 まずいと白夜が思ったときには冬乃の体が後ろへと吹き飛ばされていた。


「っ……!」

「主様!!」


 白夜の怒声が響く。

 吹き飛ばされた冬乃の体が、部屋の障子へ激しく叩きつけられた。

 ばきり、と木が軋み、冬乃はそのまま床へ崩れ落ちた。


「冬乃様!」


 ゆきが駆け寄ろうとするが、その行く手を別の妖魔が塞いだ。

 黒い腕がゆきへ振り下ろされる。


「邪魔を……!」


 護符が弾け、霊力の火花が散った。

 しずくも結界を維持しながら必死に叫ぶ。


「主さまのところ行かせないの……!」


 けれど妖魔の数が多い。

 まるで最初から役割が決まっているように、一部は式神たちを足止めし、残りが冬乃だけを狙っていた。

 冬乃は浅く息を吐きながら体を起こそうとする。

 だがその瞬間、黒い影が目の前へ落ちた。

 妖魔だ。濁った瞳が、真っ直ぐ冬乃を見下ろしている。


(逃げなければ)


 そう思うのに、体が打ち付けられた痛みでうまく動かない。

 妖魔の腕が、ゆっくりと持ち上がる。

 その手らしきところからは、禍々しい妖気が集まり始めていた。

 冬乃は反射的に霊力を放つ。