氷の花嫁は愛を知らない

 そのかわりに静かに手を伸ばすと、空気が凍り、冬乃の指先から生まれた氷が床を這うように広がっていく。

 淡く青白い霊力。

 それは静かで、美しかったがそれと同時に、人ではないほど冷たい。

 しずくが小さく息を呑む。


「主さま……」


 冬乃は廊下の奥を見つめたまま、小さく呟く。


「来るよ」


 ぽつりと冬乃がつぶやいたとき、黒い影が一斉に飛び込んできた。

 白夜が即座に前へ出る。


「主様に近づくなァ!!」


 轟音と共に氷槍が放たれる。

 妖魔の身体が壁へ叩きつけられ、廊下へ霊力の火花が散った。

 ゆきも護符を展開する。


「しずく!」

「わかってるの!」


 鈴の音が高く響き、結界が守るように使用人たちを包み込む。

 だが妖魔たちの目は、誰一人として使用人を見ていなかった。

 濁った視線の全てが冬乃へ向いている。

 白夜の顔色が変わる。


「っ……主様を狙っている!?」


 そのとき、一体の妖魔が白夜をすり抜けた。

 黒い腕が、真っ直ぐ冬乃へ伸びる。

 冬乃は咄嗟に氷を放つ。刃は妖魔の肩を貫いたが、妖魔は止まらなかった。

 濁った目が、異様な執着を宿して冬乃を捉えている。