氷の花嫁は愛を知らない

 妖魔は断末魔を上げながら崩れ落ちるが、その奥からさらに複数の気配が現れる。


「っ、数が多いの……!」


 しずくが怯えた声を漏らし、ゆきも護符を構えながら目を細めた。


「おかしいです……」

「何がだ」

「妖魔たちが、まっすぐこちらを目指しています」


 その言葉に、空気が張り詰める。

 普通ならば、本邸へ集まるはずだった。

 霊力の強い陰陽師も、当主も、全て向こうにいる。

 まるで、誰かから指示をされているかのように妖魔たちは迷うことなく離れへ向かってきていた。

 白夜の表情が険しく歪む。


「……あり得ぬ」

「白夜?」


 冬乃が小さく首を傾げる。


「妖魔どもは、基本的に霊力の強い場所へ集まる。主様も、幼き日に比べればはるかに霊力は多くなったが、本邸にはそれに負けない、名のある陰陽師どもがいるのだぞ」


 それなのに離れへ来ている。

 冬乃は静かに廊下の奥を見ると、禍々しい妖気がゆっくりと近づいてきていた。

 使用人たちは怯えたように身を寄せ合っている。


「冬乃様、どうかお下がりください……!」

「危険です……!」


 だが冬乃は、その場から動かなかった。